秋が深まりはじめた山麓の支流域で、シロザケの姿を待ち続けた。
それから数日後、大雨が一晩中続いた。 山麓を縫うように流れる沢筋から水が溢れ、 川の水位は一気に増し、濁流と化した。その翌日、濁った水面にサケの小群が姿を見せた。 彼らは雨で水位が上がるのを待ち続けていたのだ。そのなかには、 増水した沢を勢い良く遡っていくものもいる。
サケの命は、血液が全身に栄養素を運ぶように、 山裾の隅々へと行き渡り、森の生命を活性させながら巡り、 巡っていく。
僕は彼らの長い旅の一端に触れ、感じ想像することで、その無窮の世界の虜になる。