DAISAKU-UEDA Wildlife Photographer

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Archive #2022
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写真ギャラリー「Landscape with Swans」をアップロードしました

 師走に入り寒さが日々増してきましたが、みぞれ混じりの湿った重たい雪が一昨日から降り続いています。強い寒気が年末から南下するようなので、本格的な冬の撮影はその辺りからになりそうです。写真ギャラリー 「Landscape with Swans」 をアップロードしましたので、ご覧ください。

多彩な個性 ヒグマ

 晩秋の森の中でき大きなオスグマが夢中になってドングリを食んで いました。ドングリを落葉の中から掻き分けて食べるのですが、 この掻き分け方もヒグマによって様々です。 ガサガサと大きな音を立てながら大胆に落葉を掻き分けるものや、 葉を撫でるように静かに優しく掻き分けるもの、 この行動だけ観察していても皆各々個性があります。 写真のオスグマは後者の方で、 冬に向け 森の片隅で 密やかに脂肪を蓄えていました。

木登りグマ

 これまで大きなオスグマが木に登る姿を観察した事はありませんが 200kgほどの母グマが巨体を揺らして登る姿は何度も目にして きました。大木であれば15m位の高さなら、 あっという間に登ってしまいます。 コクワやヤマブドウ等の果実を目当てに昨秋は、 木登りをするヒグマを多く目にしました。

ミズナラの森 ヒグマ

 今季は丸々と育ったミズナラのドングリが、 知床半島の至る場所で見られました。多くのヒグマは、 人里離れた静かな森で十分に脂肪を蓄え、 今頃大きな体を丸めてすやすやと眠りについていることでしょう。

 ドングリの生育の豊凶は、多くの生き物たちの行動に影響します。 そのなかでも大きな体のヒグマは、 冬眠のために栄養素の高いドングリを多く必要とします。 一日の多くの時間を落ち葉に埋もれたドングリを探し移動しています。この秋にひとまわり大きくなったヒグマは、口をもごもご動かしながら、 器用にドングリの殻だけを歯間から落とし食べ続けていました。

オンコ(イチイ)の果実 子グマ

今季はヒグマと出合う日が少なかったので、 全てを動画撮影に専念しました。 昨年森の中で撮影したヒグマの写真を、 数回に分けてご紹介したいと思います。

 これまで、オンコ(イチイ) の果実を目当てに多くの生き物たちが集まってくる光景を見てきま したが、ヒグマがオンコの細い枝先に上り、 小さな赤い果実を夢中になって採餌している姿は初めてです。オンコの木に上っていたのは2頭の子グマで、 体の大きな母グマは子グマが落とした果実を探し採餌していました 。昨秋、 異なる親子グマが複数の場所でオンコの木に上る光景に出合う事が 出来ました。

 ひとりの人間の限られた時間の中で、 生き物たちの新たな生態に出くわすことは、 奇跡的なことのように感じます。そんな事を思いながら、 過去の写真と動画を、いま見つめなおしています。

 

山眠る

 日一日と寒さが増していますが、風の無いとても穏やかな夜です。 時折、遠くの森から牡鹿の鳴き声が聴こえてきますが、 その鳴き声以外は静寂に包まれています。 知床の峰々は雪化粧をし、長い眠りについた様相です。 多くの生き物たちが山腹に広がる森に抱かれ、 今頃すやすやと眠りについているのだろうと、 月明かりに照らされた美しい山容を見つめ想像しながら朝を 迎えました。

初冬の森 キタキツネ

 冬になるとキタキツネもひだまりを求めて、 心地好い寝床を探し移動しています。どうやら、 このミズナラのふかふかした苔の上がお気に入りのようです。 地上から2mほどの高い場所にあるため、此方の気配を察するものの、安心して体を丸め休んでいました。

ひだまり エゾフクロウ

 氷点下7度と今季一番の冷え込みになった森の中で、 エゾフクロウが朝の光を浴び、静かに佇んでいました。 フクロウは目を閉じ、しばらくの間眠りにつくものの、 林床に潜む小動物に反応し辺りを見回しては、 また気持ち良さそうに眠りについています。この季節になると、 多くの生き物たちは、 太陽の恩恵をしみじみと感じながら長い冬を越すのでしょう。

オホーツク海の夕暮れ

 11月に入り少しずつ冬型の気圧配置を目にするようになってきま したが、 例年に比べると小雪で温かい日が続いているように思います。しかし、立冬を迎えた北国の日照時間は、日に日に短くなるばかりで太陽が恋しくなる時期になってきました。北風と波に運ばれた流氷が、 オホーツク海を白一色に覆い尽くす光景も、 そう遠くない季節へと移ろいでいます。

渓流のダイバー カワガラス

 シロザケが遡上する渓流にカワガラスがピッ、ピッと鳴きながら頻繁に姿を見せています。 10年ほど前、シロザケが産卵したイクラを咥え、 水中から飛び立つカワガラスを夢中になって撮影していたことを思 い出します。今回、その採餌行動を見る事が出来ませんでしたが、 代わりに落葉や小石を嘴でひっくり返し、 水生昆虫を次々と採餌していました。カワガラスは名前も色彩もすこし地味ですが、水を弾く撥水性の高い羽毛を活かし、厳寒の渓流域で逞しく生きています。

宇宙のスペクタクル

 いろんな場所で、そして、 いろんな思いで今回の442年ぶりの天体ショーを観測されたと思 います。僕は発情期を迎えた雄鹿の鳴き声が響き渡る森のなかで、 宇宙のスペクタクルを見上げていました。 赤銅色に変化した月を見つめながら、 こんなに長く月を観察したのは久しぶりのように思います。

夜空を見つめていると、 何時も何かを問いかけているように感じます。

自然のリズム シマリス

 少しの期間でも自然から離れると、 感覚を取り戻すのには時間が必要です。 そこが多くヒグマが生息する森なら尚更です。連日、 森の中へ一歩ずつ足を踏み入れるに連れ、 自然のリズムに馴染んでいく感覚が芽生えてくるのが分かります。 それは、自然や動物たちを観察し把握する事で、 少しずつ自然に内包する脅威や恐怖を自分の内から消していく為の 時間と言っても良いのかもしれません。この日も、 深く積み重なった落葉の森を、 踏み音を立てないように一歩ずつ歩いていると、 シマリスが落ち葉のなかを駆け回っている微かな音に気付きました 。冬眠まで、もう少し時間があるようです。 頬袋いっぱいに種子を貯め込んで、 巣穴へと忙しく運んでいました。

カラマツ林 エゾシカ

 多くの広葉樹は葉を落とし、越冬の備えを着実に進めています。 晩秋の森に、いま鮮やかな色を添えるカラマツ林から、 エゾシカが顔を見せました。 夕時から植物を求めて活発に活動するエゾシカは、 植物が雪に覆われるまでに多くの栄養を蓄えなければなりません。 今季、この森はドングリが豊作で、 多彩な命の糧となり厳寒をきっと乗り越える事が出来るでしょう。

落葉の森 シマフクロウ

 落葉が進んだ晩秋の森に、柔らかい光が注がれています。 鬱蒼としていた夏の森とは異なり、 明るく歩きやすくなってきました。そのお陰で、 森に生息する生き物たちの姿を、 比較的見つけやすくなってきました。 写真の眼光鋭いシマフクロウは、 時折姿を見せるミヤマカケスを警戒しながらも、 松林のなかで夜が来るのをじっと待っていました。

ふたたび森へ

 道内は冷たい雨が降っています。山は早くも雪化粧し、 もう間もなく平地にも雪が降るでしょう。冬タイヤに交換し、 再び北の森へと車を走らせました。 車窓から流れる晩秋の景色に鉛色の空、 すこし寂しい思いに駆られますが、 新たな動物たちとの出合いを求めて森のなかへと進みます。

母校での講演

 昨日25日、母校の下関市立豊浦小学校・ 創立150周年記念式典で写真と動画を紹介しながら講演をさせて いただきました。 子供たちのピュアな感性に触れる機会をいただき、 素晴らしい時間を共有する事が出来ました。これまで、 ひとり自然のなかで多くの時間を過ごして来ましたが、 その時間も決して無駄では無かったと、確信する事が出来ました。 素晴らしい時間を、有り難うございました。

 
 記念式典の関係者皆さま、このような機会をいただき、 心より感謝申し上げます。

晩秋の森

 連日、 北の空から白鳥の群れがお互いを励ましているかのように鳴きなが ら渡って来ます。色彩豊かな紅葉は、 山を駆け下り平地までやって来ました。早くも北の森は、 晩秋の気配が漂っています。もう間もなく、 長い冬に備え忙しく貯食していた動物たちも眠りにつくでしょう。

山粧う

 知床の山肌を白い幹がうねるように伸びるダケカンバの光景が、 目立つようになってきました。多様な姿をみせる白い幹は、 知床の厳しい環境を物語っています。 この数日の雨と寒さでその光景は、 山裾へと一気に駆け下りていきます。

知床の夜明け

 雲間からうっすらと差す月明かりが、 眼下に広がる漁火の浮く海を優しく照らしています。 やがて羅臼岳の頂をすっぽりと覆った厚い雲が、 北西の強風に運ばれて根室海峡に流れ込む光景が露わになってきまし た。 流れる雲の先に国後島の輪郭が水平線にくっきりと浮きあがると、 色彩豊かな 知床の 山肌を陽光が照らしはじめました。

森粧う

 先日、氷点下まで気温が下がり、初霜が降りました。 木々は突然の寒さに驚いたように無数の葉を絶え間なくひらひらと 落としています。その光景は、 まるで雪が深々と降るように林床に降り積もっていきます。毎年、 秋の移ろいを見つめていますが、 同じ光景を2度見ることはありません。

有終完美 サクラマス

 母川を離れ、大 海へと旅立ったサクラマスの長い旅が間もなく終わろうとしていま す。河川の上流部には、 産卵を終えて力尽きたサクラマスが多く見られます。どの魚も、 生を全うし、 やり遂げた安堵の表情を浮かべているように感じられます。 河川を離れる稚魚の頃とは、見違えるほど逞しく、 そして精悍に成長したサクラマスが目の前で息絶えていく姿を見つ めていると、これまでの過酷な旅を自然と想像してしまいます。 いくつもの困難を乗り越え、長い旅を全うしたサクラマスが、 何故かまばゆいほどに魅力的に感じられるのです。 いま晩秋の山深い渓流は、密やかに桜色に彩られています。

いのちの回廊

 海から山腹へと森を縫うように伸びる河川は、 多くの生命が行き交う回廊です。多様な生き物が、 この流域で命を繋ぎ、育んでいます。エメラルドグリーンの淵には、 多くのヤマメやイワナが水面に揺れながら見え隠れし、 ヤマセミやカワガラスが賑やかに行き交う姿も頻繁に見られます。 エゾシカやヒグマも沢筋を使って移動しているのが、 長年にわたって踏み固められた獣道から判ります。 頭上近くを悠然と飛翔し上流域へと向かうオジロワシ、 夜間にはシマフクロウもこの流域を魚影を探し行き交っているはず です。この流域でオオワシの姿を確認するのも、 そう遠くはないでしょう。

フィールドサイン

 晴天が続き連日にわたって、 原生的な自然が色濃く残る渓流を遡行しています。 林冠から光が注ぐとエメラルドグリーンに輝く淵や水面に揺れる琥 珀色の瀬、 とめどなく表情を変える美しい光景に先へ先へと足が進んで 行きます。 その風景の片隅に多くの生き物たちのフィールドサインが垣間見ら れます。ヒグマやキツネに猛禽類、ヤマセミの痕跡等です。 全てを断定する事は難しいですが、 僕にとっては貴重なサインです。 これらを手がかりに動物たちの行動パターンを予測し、 ゆっくりと 少しずつ 距離を縮めていきます。

深まる秋 オジロワシ

 上流域の川岸に息絶えたサクラマスを目当てに集まるオジロワシや トビ、カラスを多く目にするようになってきました。 その傍らに仰向けになったニホンザリガニや丸々と大きく実ったミ ズナラのドングリが水面に揺れています。 先週末から少し暖かくなりましたが、 川底に日に日に積み重なる落ち葉を目にすると、秋の深まりが進んでいる事が分かります。

新たな出合いを求めて ヤマセミ

 9月に入り、 これまで心地よかった川の水温に冷たさを感じるようになってきま した。サクラマスの魚影を探し上流域を目指し進むと、 エゾゼミの力ない鳴き声が河畔林から聞こえてきます。 日に日に秋の深まりが進み、 間もなくセミの鳴き声も聞こえなくなるでしょう。 蛇行する川の先に見る新たな光景に心踊らせ、 甲高く鳴きながら飛翔するヤマセミの美しさに心惹かれます。 ひとり、自然の中に身を置くと、 あらゆる出合いがかけがえのないものに感じられます。

躍動する生命 サクラマス

 9月に入り、雁の小群が北の方角から渡ってくる姿を、 上空に確認する日が増えてきました。越冬地を目指し、 シベリアから長い旅を続けてきたのです。そんななか、 山深い渓谷で上流へ向かうサクラマスに出合いました。 川には産卵を終えて息絶えた魚も目立つようになり、 先月までと川の表情が違う事に気づきます。 そんな仲間をよそ目に、 更に上流へと懸命に遡るサクラマスもいます。 そんな姿を見つめていると、「良く頑張った、もうここで良いよ」 と声を掛けたくなる心境になりますが、 これも多くの生き物が持つ宿命なのかもしれません。まだまだ、 遥か上流をサクラマスは目指しているようです。

熟した実から順番に シマリス

 朝からイチイの果実を目当てにやって来る生き物たちを待っている と、シマリスがやって来ました。 生活の多くを地上で過ごすシマリスですが、木登りも得意です。 一つ一つ熟した果実を嗅覚で確認しながら、 完熟した実を次々と頬袋にため込んでいました。

イチイ(オンコ)の果実 ゴジュウカラ

 赤くて、 ほんのり甘い小さな果実をたくさん実らせたイチイの木には、 多くの生き物たちが集まってきます。 体の大きなヒグマから小鳥まで、 待望の秋の実りを競うように次々と収穫しています。 朝から頻繁に姿を見せるゴジュウカラは、一度に2粒の実を咥え、 忙しく周囲の木々の樹皮に隠し貯食していました。

貯食 シマリス

 先日の台風がもたらせた強風で落葉が進み、 林床が少し明るくなったように感じます。そんな林床の中を、 シマリスがイチイ(オンコ) の果実やエゾリスが食べ残した胡桃等、 秋の恵みを頬袋にいっぱいにして巣穴へと運んでいました。 寒暖の差が激しくなり、 冬眠への準備のスイッチが入ったようです。

いのちの輝き オシドリ(メス)

 9月に入り、日一日と朝晩の冷え込みが進んでいます。早くも広葉樹は冬に備えて、少しずつ紅や黄色に色づき、ひと風ごとにはらはらと散り始めています。寂しげな森を映す水面を優雅に進む一羽のオシドリが、その光景に温もりと輝きを与えてくれていました。

朝凪 アオサギ

 朝の柔らかい光の中でアオサギが長い首を伸ばして小魚を探しています 。静寂な空間を一歩ずつ、一歩ずつ忍び足で、 鏡のように森を映す水面を移動しています。 朝と夕方の凪ぎの時間帯は、 水鳥にとって魚を見つけやすい格好の狩のチャンスの到来です。 次、次と長い嘴を水面に突き刺して小魚を捕らえていました。

夏の終わり イワツバメ

 一雨ごとに北国の夏は、終わりに近づいています。 あれほど賑やかだった夏鳥の囀ずりも少なくなり、 繁殖を終えて早くも南へと渡り始めているものもいます。 夕暮れの空を縦横無尽に飛翔しながら虫を採食するイワツバメも、 あと一月ほど、この湖沼で体力を蓄えて南へと旅立つ事でしょう。 その頃には、 夏鳥と交代するように南下してくる冬鳥の姿に懐かしさと喜びを覚 えます。同時に、月日の流れの早さを感じ、 長い冬の訪れを感じるのです。

秋の気配

 お盆が過ぎ、朝晩の冷え込みを感じるようになってきました。 早くも季節は、秋へと移ろい始めています。 青々としていた森の色が、日に日に色褪せているのが分かります。 もう間もなく、山の稜線は鮮やかな秋色に染まるでしょう。 北国の季節は、駆け足で移ろい始めています。

夕照のひととき エゾシカ

 雨雲が去り、 夕陽に照らされた草原で仲睦まじいのエゾシカの親子に出合いまし た。まだあどけない表情を見せる小鹿ですが、 順調にすくすくと育っています。子鹿は、 日に何度か行われるグルーミングに 母鹿の愛情を確認しているのでしょう。 なんとも言えない表情で身を委ねています。子鹿は、 厳しい冬を越すまで母鹿の深い愛情に支えられながら成長します。

朝の森 シマフクロウ

 月明かりとヘッドライトの灯りを頼りに、 まだ薄暗い森の奥へと進んで行きます。足下には、 大小様々な石がひっくり返されています。 ヒグマが石の下に潜む蟻を探して歩いた痕跡です。少し歩いては、 耳を澄まして鳴き声のする方向を確認し、 同時にヒグマの気配に神経を尖らせながらピーンと張り詰めた緊張 感と冷気を纏った森のなかをゆっくりと進みます。やがて、 森に朝の柔らかい光が差し込み靄(もや)がたち始めると、 森の表情は一変します。朝露がキラキラと煌めき、 鳥たちの声で賑わい始めました。それらと交代するかのように、 息を潜めて長い休息に入る生き物たちもいます。

遡上 サクラマス

 山間を縫うように流れる川の上流を目指すサクラマスが、 上流域に続々と姿を見せ始めています。産卵期が近づき、 サスラマス独特の美しい桜色の婚姻色が目立ちはじめてきました。 ただ、この頃になると、長い旅の途中で力尽きたサクラマスが、 川底に沈む姿も複数確認出来ます。 9月上旬には更に上流域の支流で、 サクラマスの産卵が見られるでしょう。

深い霧 オジロワシ

 南からの湿った風が霧をもたらせ、渓谷を包み込んでいます。 時折、薄日が差し明るくなりますが、 この数日は深い霧に包まれた状態が続きそうです。 長い年月にわたって湿潤な環境をもらたせた霧が、 豊かな森を育んできたのでしょう。 足下には色鮮やかなキノコが顔を出しています。 そんな霧のなかもオジロワシは、 変わらず樹上から水面を見つめ続けていました。

豊かな生態系 オジロワシ

 夜明け前にテリトリーを主張するオジロワシの鳴き声で、 この数日間目を覚まします。他にもウグイスやコマドリ、 ツツドリの鳴き声が、 川の流れの音に消されること無く聴こえてきます。 この流域には幼鳥も含め複数のオジロワシが、 サクラマスを目当てに現れ、 樹上からじっと魚影を見つめています。他にも、 ヤマメ等の小魚や虫を求めてヤマセミやカワガラス、 キセキレイが上流から下流へと行き来しています。 あと一月もすれば、 サクラマスの卵を目当てに多くの生き物たちが集まってくるでしょ う。サクラマスの遡上は、豊かな生態系を育んでいます。きっと、 ヒグマもこの流域のどこかでサクラマスの遡上を喜んでいるのでし ょうね。

母川回帰(ぼせんかいき) サクラマス

 春、生まれ育った川の河口に姿を見せたサクラマスが、 産卵のために上流域を目指し群れとなって遡上を続けています。 約一年の月日を海で過ごしたサクラマスにとって懐かしい故郷への 旅とはいえ、 山深い産卵場所に辿り着くまでには容赦ない困難が連続します。 遡上の途中、幾つもの滝や急流を越えながら、 オジロワシ等の捕食者をかわし、 それらを乗り越えて漸く命を繋げることが出来ます。 そんな困難を想像しながら、 目の前で壮大な自然のエネルギーに懸命に立ち向かう一匹のサクラ マスに内包するエネルギーに生き物が持つ強さと、 同時に儚ささえも感じます。季節が巡り、 春になれば雪解け間もない川底で新たな小さな命が誕生します。 小さな命は、 産卵後に息絶えたサクラマスから分解され発生するプランクトンで 成長するのです。

別れの季節 キタキツネ

 強い陽光が降り注ぐ草原で、 子ギツネが無防備な状態で眠っていました。 時に寝返りは打つものの、 全く僕の気配を察する様子はありません。 まるで巣穴の中で寝ている子ギツネを見ているかのような感覚に陥 るほど、ほのぼのとした時間が微風とともに流れていきます。実はこの日、 霧に覆われた早朝からこの子ギツネは、 母親を探し行ったり来たりと草原を小走りに不安そうな表情で行動 していました。時に母親を呼ぶ悲しげな鳴き声が、 茂みから聴こえてきます。母ギヅネは草原の一角にいるのですが、 全くその声に応えようとはしません。そうです、 親子の別れの季節が近づいているのです。 こうして少しずつ距離を置かれて子ギツネは、別れの時を迎えます。

 早朝からそんなドラマを目にしたので、数時間歩き回り疲れきった子ギツネの寝顔を覗きながら、 今頃愛情深く、 優しかった頃の母ギツネの夢を見ているのかな、 と想像します。子ギツネが眠りについて約7時間後、 スッと立ち上がって背伸びをし、 僕の足下をよろめきながら通り抜けて草原の奥へと消えて行きまし た。

子ギツネの成長 キタキツネ

 燦々と照りつける太陽が、真夏の訪れを知らせてくれます。 春には両手に乗るほど小さかった子ギツネが、 遠目から見ると親と区別がつかないまでに成長していました。 生まれ育った巣から離れて単体もしくは二匹で行動し、 もう母ギツネが餌を運ぶ姿もほとんど見られません。子ギツネは、 自ら餌を探し回り失敗を繰り返しながら経験を積み重ねています。 まだもう少し経験を積まなければ、 母ギヅネの様には行きませんが、 日に日に少しずつ成長しているのを感じとれます。

けもの道を辿って エゾシカ

 森の奥へと続く獣道を辿って進むと、 一匹の小鹿が突然立ち上がり、 此方を警戒の眼差しで見つめています。じっと茂みに潜み、 母鹿の帰りを待っていたのでしょう。僕はその場に立ち止まり、 じっと小鹿の様子を伺います。 しばらくすると小鹿は顔を突き上げ、 一歩ずつゆっくりと足を大きく上げて近づいてきました。子鹿は 10歩ほど進み立ち止まると、 スッと反転して森の奥へと高く軽快に跳ねながらあっという間に消 えて行きました。

盛夏 エゾフクロウ

 

 昨春は三羽の雛を育てあげたフクロウの雌雄ですが、 今季雛鳥の姿を見ることはありませんでした。 5月に営巣木を出入りする雌雄を確認したので、 今か今かと雛鳥が巣穴から顔を出すのを楽しみにしていたので残念 です。その要因が無精卵だったのか、イタチの仲間に襲われたのか は判りません。ただ、この春に気になった事があります。 昨年は日中に何度もネズミを捕らえたオスのフクロウですか、 今春は狩りを試みるものの失敗するケースが多くありました。 今季は、この森に生息するネズミの数が少なかった様に思います。 その事も今季、 雛鳥が見られなかった事の要因のひとつかもしれません。その後、夕刻の 森で仲睦まじいフクロウの雌雄を確認しました。 来春はこの森で、雛鳥の姿に出合える事を願っています。

自然界の掟(おきて) クマゲラ

 親鳥の巣立ちの促し行動が始まってから5日後、 2日間かけて3羽のクマゲラの雛鳥は、 親鳥の鳴き声やドラミングに誘導されて森の奥へと飛び立ちました 。巣立ちの瞬間は、 どの鳥たちも感動的なドラマを見せてくれます。 その中でも一際劇的なドラマを見せてくれるクマゲラの巣立ちは、 何度見ても胸が熱くなります。けれども 巣立つ雛鳥に感動しているばかりではいられません。自由を手 にした雛鳥は、同時に危険にさらされる事になるのです。 今回もその瞬間をカラスが察し、 どこからともなく現れ待ち構えていました。 カラスにも、お腹を空かせた雛鳥が待っています。 その気配を察したクマゲラの親鳥は、 これまで聴いたことのない大きな鳴き声を発しながら、 体が一回り以上大きなカラスを追い払いますが、 そう簡単にはいきません。翌日、 巣立ちを終え静まりかえった森の中を歩いていると、 黒く小さな右翼を足下に見つけました。 それが昨日巣立ちしたクマゲラの雛のものだと判ります。長期間 懸命に子育てを続けた親鳥の姿を知っているだけに、 目を背けたくなるよう光景ではありますが、 これが自然界の掟なのです。この日、 感慨深い思いで1日を森で過ごすことになりました。

夏の盛り エゾシャクナゲ

 雨上がりの森のなかで、 エゾシャクナゲの微かに放つ甘い香りに虫たちが集まっていました 。道内も夏の盛りを迎え、 虫たちを多く目にするようになってきました。北国の短い夏に、 各々が短い命を謳歌しています。

山間の森 クマゲラ

 間もなく巣立ちを迎えるクマゲラの雛の甲高い鳴き声が、 山間の森に響き渡っていました。この頃になると親鳥は、 雛鳥の巣立ちを促す為に給餌の数を減らします。 親鳥は雛鳥を餌の豊富な場所に連れて行き、 早く成長させて採餌を学ばせようと思っているのですが、 食欲旺盛な雛鳥に、そんな思いが伝わるはずもありません。 餌の量が減らされた雛鳥の表情や仕草から、 戸惑いと憂いが混在した感情が読みとれます。 巣立ちまでのあと数日間、ドラマチックな親子の物語が、 営巣木の周りで繰り広げられていきます。

雨あがりの草原 シマセンニュウ

 雨あがりの草原を訪れると、 早朝から雲雀が上空で賑やかに囀ずっていました。 雨露を纏ったみずみずしい草原では、 シマセンニュウが控え目に囀ずりながら飛翔し、 忙しく子育てに励んでいました。間もなく、 雛鳥が巣立ちの時期を迎えるでしょう。

巣立ち ゴジュウカラ

 森の片隅からピイピイ、ピイピイと雛鳥が、 親鳥に餌をねだる鳴き声が聴こえてきます。 その鳴き声がする方向へと進むと、 3羽のゴジュウカラの雛鳥が寄り添うように横枝に止まり、 羽を震わせながら餌を求めアピールしていました。 親鳥は雛鳥のアピールに応え、 休む暇なく次々と虫等を運んできます。 巣立ちした雛鳥は全部で五羽。 アピールの強いもの弱いものと個性が各々ありますが、 親鳥は均等に餌を運び、子育てに励んでいます。

森の美食家 エゾリス

 森は緑が深まり、鬱蒼としてきました。 つい先日まで林床を彩っていたタンポポは綿毛へと変わり、 ひと風ごとにふわふわと舞っています。 そのなかを早朝から母リスが、駆け回っていました。 実はこのタンポポの葉や茎をエゾリスは好んで食べています。 エゾリスはクルミやドングリを食べるイメージが強いと思いますが 、実は雑食性でヒグマに負けないほどの美食家です。 樹木や植物の新芽や若葉、果実に種子、花の蜜に樹液やキノコ類、 昆虫や昆虫の幼虫、時に幼蛇等の爬虫類を捕らえ、 食べる事もあります。 まだまだ他にも多くの森の恵みを食べているのでしょう。 季節毎に森の中でエゾリスが何を食べているか、 観察するだけても面白いですね。

小さな鼓動 エゾリス

 早朝から生後2ヶ月ほどのエゾリスの子供たちが、 樹上と林床を行き来しながら楽しそうに駆け回っています。 もう間もなく離乳する頃だと思うのですが、 母親が現れると分散していた子リスたちが、 どこからともなく母親の周りに集まってきました。 子リスたちは若葉などの植物を食べ始めていますが、 もう少し母乳が恋しいようです。母親に甘えられるのも、 あと僅か。今月中には離乳し、来月には母親と別れて、 この森で自分自身の力で生きていくことになります。 風のように季節が移ろう北の森では、 小さな命の鼓動が少しずつ力強くなっています。 

儚い生命 アカゲラ

 5月にアカゲラが巣作りをしていた森へ、 再び様子を見に行って来ました。 小鳥たちの恋の季節のピークも過ぎ、 幾分静まりかえった森の中からアカゲラの雛鳥が餌を求める鳴き声 が聴こえてきました。約2週間の抱卵を終え、 小さな命が誕生したのです。 この森で一生を過ごすアカゲラは厳冬を耐え抜いて、 春から初夏にかけてこの森で命を繋げていきます。南からの渡り鳥とは違い、 この森で厳寒を乗り越えたからこそ、この初夏の温もりや柔らかさ、 森の恵みを沁み沁みと感じ、子育てに励んでいるのでしょう。初夏は、 生命溢れる季節です。しかし、その裏には、 目を背けたくなるような自然の厳しさも、 これまで数多く目にしてきました。写真の雛は、 孵化後間もなく力尽きたのでしょう。 卵の殻を割るので精一杯だったのか、 兄妹間でのし烈な餌の取り合いに負けたのか、 それとも寒さに耐えられなかったのか、その答えは判りません。 ただ、ただ、感じるのは命の脆さや儚さです。 そんな生き物たちの光景に触れる度に、 新たな生き物たちとの出合いは奇跡的な事だと一層と強く感じるの です。その後もアカゲラの雌雄は子育ての為、 休む暇なく餌運びに励んでいます。巣立ちは今月下旬、 みな無事に巣立ってくれる事を願っています。

 

すくすくと タンチョウ

 生まれて約2週間が過ぎた2羽のタンチョウの雛鳥は、 親鳥に守られながら行動範囲を広げ、すくすくと成長しています。 成長に伴い雛鳥の食欲も旺盛になり、餌の種類も増え、 そのサイズも随分大きくなってきました。 潮汐の影響を受けるこの生息地は、 タンチョウの活動にも変化をもたらせます。 満潮時には草原で昆虫の幼虫やカエル等を採餌し、 潮が引き始めると雛を連ねて干潟へと移動し、 ギンポ等の小魚を採餌して雛にせっせと与えています。 このタンチョウの親子は、 潮汐のリズムに合わせて活動していると言っても過言ではないでし ょう。この時期、 まだ小さな雛鳥はオジロワシやキタキツネ等の天敵が多く、 常に危険が伴います。このまま、 2羽ともに無事に成鳥になることを願っていますが、 過去の観察から見ても自然界は、そう思うように簡単にはいきません。

潮間帯、いのちの攻防 キアシシギ

 四季を通じて潮間帯には、多くの生き物たちが集まってきます。 この季節、タンチョウやオジロワシにシギやチドリの仲間、 カモメや水鳥たちは、 潮が引き始めるとどこからともなく次々と姿を現し、 潮溜まりや藻に潜む魚貝や甲殻類を採餌しています。 干潮から満潮になるまでの数時間、あるものは、 息を潜めじっと潮が満ちるのを待ち、 あるものは必死に獲物を探し続けます。 太古から変わらず続く月と太陽の引力によって引き起こされる自然 の摂理が、 人も含めて多くの生命に恩恵を与え続けてくれでいます。 そこには、無数のドラマチックな命の攻防が、 星の数ほど繰り広げられてきたのだと、 海辺を見つめながら想像します。そんな事を考えると、 あらためて神秘的な世界に生きていることを実感し、 森羅万象繋の繋がりを感じるのです。

きずな キタキツネ

 雨上がりの森は、植物のほのかな甘い香りが漂っています。 数日前からエゾハルゼミの鳴き声も加わり、 また一層と森の中は賑やかになってきました。 この森で生まれた9匹の子ギツネたちも、順調にすくすくと成長していま す。この9匹の子ギツネは、この春に母ギツネと娘( 去年もしくはそれ以前に生まれた子供)から産まれ、 同じ巣穴を使いながら生活をしています。僕自身、 二匹の母ギツネが共同で子育てをする姿を観察するのは、 初めての経験でキタキツネの新たな生態や習性を垣間見る事が出来ました。 いま北の森では、 深い愛情と強い絆によって無数の小さな命が、刻一刻と育まれていま す。

息をひそめて コゲラ

 先日、紹介したアカゲラは巣作りを終えて、 いま抱卵に入っています。 そのアカゲラと同じキツツキの仲間のコゲラが、 ミズナラの幹を覆う苔の中から昆虫を探し出して食べていました。 いつも雌雄で仲良く行動し、 つがいの絆の強さで知られているコゲラなのですが、 一羽しか見当たりません。この森の片隅で、 コゲラも息をひそめて卵を抱いているのかもしれませんね。

初夏の風 オジロワシ

 エゾヤマザクラの花びらがはらはらと散り、 いよいよ北海道にも初夏の風が吹きはじめてきました。 原生花園の植物も芽吹き、 早いものは間もなく小さな花を咲かせるでしょう。そんななか、 早朝から、 小高い草地に立つオジロワシが水鳥の群れをじっと見つめていまし た。水鳥の狩りは、そう簡単ではありませんが、 お腹を空かせた雛鳥が待っているため、 粘り強くチャンスを待ち続けています。

巣材はこび シジュウカラ

 シジュウカラの雌雄が、 苔むしたトドマツの根元に巣材を次々と運んでいます。 巣材の多くは緑一色の林床を、 いま競うように真っ直ぐ伸びるゼンマイの綿毛です。 昨年はミソサザイが、 ゼンマイの綿毛を巣作りのために忙しく運んでいました。 間もなく、シジュウカラは、 ふかふかの温かい巣を完成させるでしょう。その巣の入り口には、 オオサクラソウが可憐な花を咲かせていました。この時期、 森を歩くと多くの出合いがあり、豊かな生態系が垣間見られます。 いま森は生命力で溢れ、微笑ましい光景に満ちています。

キョウジョシギ (京女鷸)

 キョウジョシギの和名は、その美しい夏羽の模様から「 京都の女性が派手な着物を着ている姿」 に例えて名付けられたようです。鳥の名前の由来は、 他にもユーモアにあふれた名前が多くあります。 そんなキョウジョシギが浜辺で朝日を浴び、 藻の中から虫を探し採餌していました。 シギやチドリの仲間が小走りで移動する姿は、 何とも可愛いものです。間もなくキョウジョシギは、 繁殖のためにシベリアへと旅立ちます。

森の大工さん アカゲラ

 数日前から森の中でコツ、コツ、 コツと小刻みに木をつつく小さな乾いた音が聞こえてきます。 その音の方角を覗くと、 アカゲラのオスが白樺の古木に営巣穴を掘っていました。 その音を耳を澄まして聞いていると、 荒堀りと仕上げ堀りを交互に繰り返し巣作りを進めているのが分か ります。掘削をして巣穴に木屑が溜まると、 それを数回に分けて外に嘴を器用に使い排出しています。 巣作りの多くはオスの役目で、 一日に何度もメスが新居の進捗状況を確認にやってきます。 その行動からメスが繁殖期において主導権を持っているようです。 巣作りの合間に樹上で交尾行動も確認出来ました。 巣が完成すれば、間もなく抱卵が始まるでしょう。 アカゲラの巣立ち後、 巣穴はエゾモモンガやヒメネズミの塒に使われる事もあります。

多彩な音色に包まれる森 アオジ

 ゴーゴーと強風で木々が揺れる森の中で、 その轟音にもかき消される事なく、 小鳥たちの美しい囀りが森に響き渡っています。 静かで寂しかった冬の森から、 植物の芽吹きとともに小さな命が日々躍動し変化していく姿を、 一日森で過ごしていると感じます。 早くも子育てを始めたものや巣材集めに忙しく飛び交っているもの 、巣作りに励んでいるものにテリトリーを争っているもの、 皆それぞれ限りある命を、 この季節に託し謳歌しているように感じます。

新緑萌ゆる湖沼 タンチョウ

 水芭蕉が見頃を迎えた新緑萌ゆる湖沼で、 タンチョウが息をひそめて卵を温め続けていました。 抱卵期間は約30日、 雪や雨のなかもじっと卵を守り続けていたのでしょう。 もう間もなく雛が誕生する頃ですが、 ブラインドに入って観察しているものの、 親鳥の警戒心が強くストレスを与えていると判断し、 観察を断念しました。個体によって生息環境や性格が皆違うので、 それを察することが何よりも優先すべき事だと思います。

春の海 ゴマフアザラシ

 流氷が消え海明けとなったオホーツク海にゴマフアザラシの姿を見 つけました。干潮になると、 お気に入りの岩礁へと上がり春の陽気を満喫している様子です。 岩礁が並ぶ遠浅の海岸には、 青々とした藻類が見られ豊かな生態系が育まれていることが分かり ます。山も海も春色が増し、日々季節の移ろいを感じます。

新緑芽吹く山麓で エゾユキウサギ

 まだ早朝や夕暮れ時は、日差しが恋しくなるほど冷え込みますが、 日に日に夏鳥の囀りが増し、季節の移ろいを感じています。 先月まで神々しく輝いていた峰々は勢い良く山肌が露出し、 山麓のエゾヤマザクラも例年より早い開花を迎えています。 そんな瑞々しい新緑芽吹く山麓で、 夏毛に変わったエゾユキウサギが朝日を浴びた草原に佇んでいまし た。少し離れた所にいるもう一羽を、執拗に追い続けています。 どうやら、今エゾユキウサギは恋のまっただなかのようです。

北帰行 

 南から渡ってきた雁の仲間や白鳥たちが、雪原から顔を出した田畑の落穂を目当てに次々と集まってきています。冬には白く美しかった白鳥ですが、羽が土に汚れながらも必死に落穂を食んでいます。もう間もなく、繁殖のためにシベリアへの長い長い旅が始まります。鳥たちにとって、田畑に残された落穂は貴重なエネルギー源となっています。人の営みが多くの生命の糧となり、遥か彼方の土地で連綿と命を繋げています。

春の空

 春がもたらす景色の移ろいは、 芽吹き始めた大地だけではありません。毎日、 空模様を伺い生活していると、 空の表情が冬とは違うことに気付きます。 冬の輪郭がぼやけた鉛色の低い雲から、 輪郭がはっきりとした綿のような雲が多く見られるようになってき ました。そんな、ぷかぷかと浮かぶ綿雲を目にする度に、 ほんわかとした気持ちになります。それと同時に、 平和への強い思いが日々募るばかりです。

春色へ エゾユキウサギ

 北海道も春本番を迎え、 山麓の森の中も雪解けが勢い良く進んでいます。沢沿いには、 可愛いらしい銀白色を纏ったネコヤナギの花穂が芽吹き、 景色が少しずつ春色へと染まっています。気温が上がり、 小鳥たちの囀りで賑わい始めた森の中でエゾユキウサギが息を潜め 佇んでいました。エゾユキウサギの美しい純白の冬毛は、 もう間もなく夏毛へと生え変わり、繁殖の季節へと入ります。

黄昏時に浮かぶ影 流氷とオオワシ

 この数年、野付半島のオオマイ(氷下魚) 漁や風蓮湖の氷下待ち網漁等の不漁に伴い、 雑魚を目当てに飛来するオオワシの姿が減少しているように感じま す。今季は昨冬にも増して、 オオワシの姿を見る機会が少ない年でした。 写真は今季最後に撮影した黄昏時に流氷の上で休んでいるオオワシ です。間もなく、 全てのオオワシが北帰行のため北海道を旅立ちます。 来季は多くのオオワシの姿に出合えると良いのですが・・・。

多彩な生命 タンチョウヅル

 タンチョウヅルが繁殖地へと舞い戻り、 繁殖の準備をはじめています。 解氷が進む湖にはオナガカモ等の水鳥が次々と集まり、 オジロワシが上空を舞う度に、 大きな羽音とともに大群で舞い上がっています。 北海道の湖沼にも多彩な生命が溢れ始め、いよいよ春本番です。

冬と春が出合い織りなす風景 エゾシカ

 福寿草が顔を出した樹林から海岸へと下りてきたエゾシカが、 遠浅の干潟へと青々とした海草(アマモ) を目当てに移動しています。 警戒心の強い牡鹿の姿は見えませんが、 10頭ほどのメス鹿の姿が、流氷の合間に確認出来ます。 春にこの海岸に流氷が辿り着いた数日間見られる、 冬と春が出合い織りなす風景です。

流氷が育む小さな生命 ツグミ

 日一日と雪解けと解氷が進む汽水湖の潮間帯で、 小さな生命のドラマが繰り広げられています。 この冬に最も多く目にした冬鳥のツグミが、 先日の時化で流氷に絡まり漂着したアマモの中からオキアミを探し て啄んでいます。その様子を双眼鏡で観察しているのですが、 何を採食しているのか確認する事が出来ません。 その疑問を解消してくれたのが、この一枚の写真です。 目を惹かれる雄大な世界に息づく動物たちの姿にも魅了されますが ミクロの世界に息づく生物たちのドラマにも発見と感動が満ちてい ます。この一連の密やかに繰り広げられているドラマも、 流氷がもたらす豊かな生態系の一端です。

根室海峡の流氷

 先日の暴風で汽水湖に流入した海氷が、 引き潮と南風に乗って勢い良く海へと流れて行きます。時折、 巨大な氷同士がぶつかり発生する「流氷鳴き」が聴こえ、迫力が一層と増しています。刻一刻と表情を変える息を呑むような光景が、春の陽光に照らされ煌めいています。一時、 根室海峡を埋め尽くしていた流氷ですが、 もう間もなくこの海から離れて見えなくなるでしょう。

初春の嵐 オジロワシ

 午後からファインダーを覗く目を開けられないほどの暴風雪が吹き はじめてきました。道東の幹線道路の多くが通行止めとなり、 いま暴風に煽られる車内でこの記事を書いています。写真は、 今週の始めに撮影した湖の氷上に立つオジロワシの雌雄です。 この日の午後には、このエリアの氷は、 風波にもまれて消えていました。この初春の嵐で湖の解氷も進み、 道東の冬も終わりを告げようとしています。100日以上に及んだ長い冬の撮影が、いよいよ終わりに近づいてきました。

ふかい霧の朝 エゾシカ

 3月に入り、冬の抜けるような青空が見られなくなってきました。 南風で運ばれる湿った大気と植物の芽吹きによる水蒸気の発生が、 霞みの要因になっているものと思われます。この日も、 暖気の影響で早朝から深い霧のなか、 エゾシカがミズナラの森のなかへと静かに消えて行きました。 間もなく、 雪解けが進んだ林床から福寿草が顔を見せてくれるでしょう。

春の風 根室海峡の流氷山脈

 根室海峡を彷徨うように流動していた流氷が、 ようやく根室半島に接岸しました。陽光が燦々とふり注ぐ海原に、 巨大で純白の美しい氷塊が青白い光を放ちながら水平線まで広がっ ています。早くも、 タンチョウの雌雄が越冬地から繁殖のために根室半島に戻ってきま した。北国にも春の風が吹き続けています。

 

夏鳥の越冬 ホオジロ

 厳冬期から目にしてきた2羽のホオジロが、 無事にこの草原で越冬を終えようとしています。本来、 北海道では夏鳥のホオジロですが、 少数は留鳥として生息しているのでしょう。年毎に夏と冬、 伴に小鳥たちの飛来数が減少し、寂しい思いに駆られるなか、 この2羽のホオジロの逞しく生きる姿に愛おしい感情が募ります。

流氷をめぐる命の攻防 オジロワシ

 メスを追いかける複数のオスのシノリガモの一群が、 遠くの流氷の合間に確認出来ます。 シノリガモも恋の季節を迎えているようです。 その様子をオジロワシの雌雄が、じっと見つめていました。 この日は観察出来ませんでしたが、オジロワシの雌雄は、 連携をして巧みに水鳥の狩りを行います。 一羽で狩りをする時には、 水鳥が海に潜り海鷲の攻撃をいとも簡単にかわします。しかし、 2羽で狩りを行う時は、 潜水した水鳥が呼吸の為に海面に顔を出す瞬間を、 2羽でタイミングをずらしながら襲いかかります。この場合は、 高い確率で狩りに成功しています。今月の中旬、 オジロワシは枝を積み重ねて作り上げた樹上の巣で、 卵を抱き始めるでしょう。

オホーツクの流氷

 春の訪れを告げる南風が、 オホーツクの流氷を少しずつ解かし始めています。 厳冬期にはエッジが鋭く荒々しい表情を見せていた流氷も、 丸みを帯び、迫力が失われつつあります。 これから風と潮汐に揉まれながら海を漂い、ある日、 忽然とオホーツクから消え、海明けとなります。

猛吹雪の朝 エゾシカ

 急速に発達した低気圧が、 春に向かっていた景色を白銀の世界へと一変させました。 こんな猛吹雪のなか、動物たちはどう過ごしているのでしょうか。 そんな思いで、 吹雪の日もフィールドに足を運ぶようにしていますが、 視界が悪く、動物たちの生息圏にたどり着くまで困難の連続です。 また、多くの生き物たちは、森林等、 風雪を遮られる場所で身を潜めているため、 なかなか出合うことが叶いません。併せて風や木々が揺れる音で、 動物たちの警戒心も高まります。そんな森のなかで、 オスの大鹿が息絶えていました。 深い雪に足をとられ力尽きたのでしょうか。 その立派な大角と体の大きさから、 これまで多くの子孫を残してきたと思われます。 そんな事を思いなから、 雪に覆われ消えていく大鹿の前で立ち尽くしていると、 その様子を森の奥から若いオス鹿がじっと見つめていました。 いつか、この若い鹿が群れの先頭に立つ日がくるのでしょう。

吹雪が明けて キタキツネ

 二日間続いた吹雪が収まり、 キタキツネが柔らかい陽光を浴びに巣穴から姿を見せました。 日当たりの良い、吹きだまった雪庇の上で暖を取りながら休んでいま す。少しずつ春めいてきているとは言え、 まだまだ太陽の温もりが恋しい季節です。

雪のふる森 エゾフクロウ

 春が少しずつ近づいています。流氷が知床半島を越え、 根室海峡へと南下を続けています。 根室半島に流氷が接岸する頃には、 湖沼でタンチョウの姿を目にするのも、そう遠くはありません。 この日、朝から湿った雪が降り始めたので、 久しぶりにエゾフクロウの棲む森へと向かいました。 いつものようにミズナラの大木の洞で羽を休めています。 しばらく遠くから観察を続けていると、 いつもと少し様子が違います。 フクロウが樹洞の中をしきりに覗いています。よく見ると、 樹洞の奥からもう一羽が顔を覗かせていました。 エゾフクロウも恋の季節を迎えているようです。

恋の季節 キタキツネ

 2月に入り、恋の季節を迎えたキタキツネの、 仲睦まじい姿を見かけるようになってきました。 夜中にキタキツネの寂しげな 何とも言えない甘えた鳴き声で目を覚ます事が多くなり、 昼夜を問わずメスへのアプローチを続けている様子です。 そんなある日の早朝、ぐっすり眠る オスのキタキツネに出合いました。それから数日後、 繁殖行動を続けて5回確認する事が出来ました。 粘り強く続けてきたアプローチがようやく実ったのです。 きっと春には、 元気な仔ギツネたちが顔を見せてくれる事でしょう。 いのちの物語は、連綿と繰り広げられていきます。

春の兆し オオハクチョウ

 立春を迎えて日も長くなり、日差しも強くなってきました。 厳しい寒さの峠を越えて、春へと向かっているのを日一日と感じます 。けれども、 オオハクチョウは一日の多くを体を丸めて体力を温存し、 寒さをやり過ごしています。そんな動物たちの、 健気に生きる姿にいつも勇気をもらいます。春の兆しは、 もう少し先になりそうです。

厳冬が織りなすハーモニー

 結氷を始めた湖は、寒暖差の影響で氷が膨張と収縮を繰り返し、 厚みを増しています。その際、 湖が鳴いているかのように高低音が混在した神秘的な轟音が木霊し ます。また強風の後、 湖岸を歩けば変化に富んだ氷の光景が広がり、 新たな景色との出合いに心踊ります。 ここでも、また多彩な音が聴こえてきます。厚い氷や薄い氷が擦れる音、 そして水の音、冷気を伝う風の音、 共鳴する冬が織りなすハーモニーに感性が刺激されます。 けれども美しく輝く氷の造形も、 ひと雪降れば雪原へと変わり消えてしまいます。冬の光景は、 とめどなく移ろい続けています。

雪深い森のなか エゾシカ

 今朝も氷点下18度と寒い朝を迎えました。 雪深い森の中に足を踏み入れると、 無数のエゾシカの足跡が森の奥まで続いていました。 森の至る所に雪を掘り起こし採餌した植物の食痕と、 体温で雪が解け氷板になった寝床が見られます。 50cm以上の積雪で移動や採餌、 全ての活動において体力を多く失うため、 エゾシカにとって過酷な季節の到来です。そのため、 春までに力尽きる個体も少なくはありません。そんな森のなかで、 寄り添いながら逞しく生きるエゾシカの親子に出合いました。 まだ仔ジカは小さく、あどけない顔つきをしていますが、 その表情や眼差しから、 この冬を耐え抜く力強さが感じられました。

イタヤカエデの樹液 ヒヨドリ

 イタヤカエデの枝先から滴ったほんのり甘い樹液が氷柱となり、 それを目当てに多くの生き物たちがやって来ます。 エゾリスにミヤマカケスにヒヨドリ、 シマエナガやハシブトガラ等、 次々と順番を待っていたかのように集まって来ます。 氷柱ごと咥えるものや舐めるもの等、 各々食べ方に特徴があります。 この一本のイタヤカエデの老木が、厳冬に生きる多くの生命を育んで います。

樹氷の森

 道東内陸部の寒さは、 オホーツク海を南下する流氷の動きに伴い増しています。 連日の真冬日で森や湖、あらゆるものが凍結しはじめていますが、 動物たちは力強く生きています。 樹氷を纏った針葉樹の森のなかで、 一羽のクマゲラが甲高い鳴き声を発しながら、 雪降る森の奥へと消えて行きました。この先も、 厳しい寒さは続きそうです。

薄明のなか ノスリ

 薄明のなか一羽のノスリが霧氷を纏った樹上に舞い降りました。 すぐに周囲を見渡しネズミ等を探してますが、 積雪が増し簡単には見つからない様子です。 時に餌となるベニヒワ等の冬鳥の姿も少なく、 この冬を越す事が簡単ではないように感じます。近年、 ユキホオジロやベニヒワ等の小柄な冬鳥の姿を目にする事が少なく なっており、 渡り鳥の飛来数からも自然のリズムが変わっていることを実感します。

月光と霧氷

 昨晩は二日間ほど続いた暴風雪が収まり、 白銀の稜線から月が顔を見せました。 写真は数日前に撮影したものですが、 月明かりに照らされた霧氷が何とも幻想的で美しく、 しばらくの間見とれていました。

マジックアワー タンチョウ

 薄明の時間帯は、 時に魔法をかけたような世界を見せてくれます。 今朝は氷点下5℃、この時期にしては温かい朝を迎えました。写真の タンチョウの雌雄は、日の出とともに羽づくろいをはじめ、餌場へと飛び立っていきました。

ダイヤモンドダストと霧氷の共演

 今朝は昨日までの穏やかな天候が一変し、急発達した低気圧の影響で暴風雪となっています。 予想以上に気温が高く、湿った重たい雪で雪掻きも一仕事です。 写真は一昨日に氷点下20℃で撮影したものですが、 今後しばらくの間は暖気と風の影響が続きそうなので、 霧氷やダイヤモンドダストを見ることは叶わないでしょう。

幻想的な世界 オオハクチョウ

 毎日のように霧氷に包まれた幻想的な景色のなかで朝を迎えていま す。気温は零下20度ほどですが、風が弱いため、 それほどの寒さは感じません。そんな白銀の世界で、 多くの動物たちが密やかに息づいています。この日は、 3羽のオオハクチョウが河川の緩やかな流れの場所で、 羽根を休め、暖かくなるのをじっと待っていました。

陽光 ホオジロガモ

 北海道は強い寒気の影響で真冬日が続いています。 白銀の世界で羽根を休める水鳥たちに、 雪曇の合間から陽が射し込むと景色が一変しました。 冬はどの季節よりも、光の有り難さが身に沁みます。

新年のご挨拶

 昨年も多くの動物たちとの素晴らしい出合いに恵まれました。 そのなかでも、5年ぶりに知床の森でヒグマの撮影に臨み、 親子グマと共有した時間が何よりも感慨深いものになりました。 2009年に大雪山の稜線で、 約3ヶ月に及ぶキャンプをしながら、 夢想だにしなかった親子グマの授乳シーンを目の当たりした時の 感動に似た感覚が身体中を駆け巡りました。 12月18日を最後に、この親子グマを見ていませんが、 今頃は知床の深い森のなかで、 鼾をかきながらスヤスヤと身を寄せ合って眠っている事でしょう。

 

 本年が皆様にとって健やかな一年になりますことを、 心よりお祈り申し上げます。

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