DAISAKU-UEDA Wildlife Photographer

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日一日とにぎわう森

 日一日と森が賑やかになっていくのが分かります。シジュウカラをはじめとするカラ類に、ミソサザイ、アカゲラやミヤマカケス等が待望の春を喜んでいるように活発に動いています。その様子が気になるのか、エゾフクロウの雌雄が覗き込むように、じっと見つめていました。来月の下旬には子育てに追われ、夜の森を飛び回っているのでしょう。

解氷すすむ湖沼 コハクチョウ

 解氷が進む湖沼に、南から渡って来た白鳥たちが羽を休めに集まっています。その群れは、日に日に大きくなり、賑やかになってきました。夜間はキタキツネ等の天敵から身を守りやすい湖沼で過ごし、日が昇り気温が上がると、落ち穂を目当てに田畑へと飛び立ちます。その行動を数日間繰り返し、繁殖地のシベリアを目指して旅立ちます。

旅立ちと新たな始まり オオワシ

 連日、南風が吹き続けています。この風でオホーツク海の流氷は遥か水平線へと離れ、このまま海明けとなりそうです。すっかり雪解けた田畑には、多くの白鳥やヒシクイ等の雁の仲間が南から次々と北上し、姿を見せています。季節は駆け足で進み、春の息吹が日々増しています。今季の流氷は、大きな低気圧が北上しなかった事もあって、荒波に揉まれる事なく白く綺麗な姿を保ち続けていました。

 オオワシたちも繁殖の為に北帰行を始め、成鳥の姿もめっきり少なくなりました。春は、生き物たちにとっても旅立ち、そして新たな始まりの季節です。

氷原の海鷲

 薄明から海鷲たちが、観光船やスケソウダラ漁の漁船の周囲に群がっています。世界的に見ても、これだけの数のオオワシを観察出来る海域は、他に類を見ないでしょう。流氷に覆われ、湖のように穏やかになった海面と流氷の色彩が、太陽が昇ると同時に刻一刻と変化し、淡く美しい世界を見せてくれました。

根室海峡の流氷群

 春の訪れを知らせる雨が、雪を勢い良く解かし地肌が多く目につくようになってきました。間もなく福寿草が、山野に黄色い花を咲かせるでしょう。これまで長い長い冬の季節をフィールドで過ごして来ましたが、今季は冬の訪れが遅かったせいもあってか、あっという間に終わったように感じられます。四季の移ろいにも、年毎に変化を感じます。名残惜しく過ぎ行く冬の光景の終わりに出合った流氷の写真を、数回にわたってご紹介したいと思います。

微笑ましい光景 エゾシカ

 山域に生息するエゾシカの一群が、雪を掘り起こして笹を夢中になって食べていました。掘り起こした深さは、50センチほどでしょうか。これほど深く掘り起こすには、エゾシカの小さな肢では大変な体力が必要です。まだまだ力の弱い仔鹿は、大きな雄ジカの後について申し訳なさそうに食んでいます。成獣同士では餌場を保持するため、小競り合いをする事が多いのですが、その様な仕草は一度も見られませんでした。まだ雪深く厳しい世界ではありますが、ほのぼのとした光景に心温まる思いになりました。

冬のおわり エゾシカ

 夕方になるとエゾシカが、山麓の森からダケカンバの若い枝や笹を求めて稜線付近に姿を見せます。雪が深い為、先頭のエゾシカは白い息を吐きながら、休み休み登り、その後を少群が続きます。一度ラッセルをして道を踏み固めてしまえば歩きやすいのでしょうが、大雪が降る度にその行動の繰り返しです。エゾシカにとって、そんな過酷で長かった季節も終わりに近づいています。

山の狐

 一昨日から生暖かい南からの風が吹いています。先月までの肌を刺すような強い北風は、日に日に弱まり、春の気配が増す今日この頃です。そんななか、気持ち良さそうに、ぐっすりと眠るキタキツネに出合いました。長い極寒期から身を守ってくれたフカフカの冬毛が、鼓動に合わせて上下に動いています。山のキツネの冬毛は、浜のキツネよりも毛艶の良い黄金色の毛を纏っているように感しられます。もう10年以上も前の話になります。古老の猟師から聞いた「浜のキツネの毛皮より、山のキツネの毛皮の方が重宝される」と、そんな話をすやすやと眠る美しい冬毛を纏ったキタキツネを見つめながら回想していました。

足跡の主 キタキツネ

 写真のキタキツネは、先日の足跡の主です。よほど疲れていたのか、此方の気配に気づいても、移動しようとはしません。時折カラスの鳴き声に反応し、耳をその方向へ小刻みに動かしていますが、体は丸めたままです。夜通し食べ物を求めて歩き疲れたのか、それともパートナー探しにくたびれたのか判りませんが、山腹のこの場所に2時間ほど留まっていました。それにしても、1月と比べ過ごしやすくなってきました。北海道の春も、そう遠くはないようです。

シュプール(痕跡) キタキツネ

 森林限界付近に位置する深雪に埋もれたハイマツ帯から、亜高山帯の針葉樹林へとキタキツネのシュプール(痕跡)が蛇行しながら山裾へと伸びています。エゾユキウサギのシュプールと交差しながら伸びるラインに、夜通しかけて執拗に追跡したキタキツネの姿を想像します。これまで多くの場所で、この両者が繰り広げる命の攻防の痕跡を観察して来ましたが、その姿を目の当たりにした事はありません。いつか、その光景を観察出来ればと思いながら、シュプールを辿って雪原を歩いています。

恋の季節 キタキツネ

 恋の季節を迎えたキタキツネを雪原で頻繁に見かけるようになってきました。雌雄で戯れる姿や、隙を見てそこに割り込もうとする若い雄のキツネの姿、昼夜通して極寒の雪原で密やかに命を繋ぐドラマが繰り広げられています。この日タイミング良く、キタキツネの繁殖行動を確認する事が出来ました。4月上旬には新たな命が、雪解け進む森の中で誕生します。

彩り エゾシカ

 お昼前から雪がふわふわと舞い降り、見る見るうちに木々を白一色に染めていきます。そんななか、恋の季節を迎えたキタキツネの雌雄が、戯れながら目の前を駆け抜け、そのまま雪で霞む地平線の彼方へと消えて行きました。やがて雪が止み陽光が差すと、景色は一変します。白一色になった雪原に、エゾシカの一群が植物を求めて森から現れたのです。生き物たちの存在が、目の前の景色に、また一つ彩りを添えてくれました。

多彩な朝 オオワシ

 冬ほど気象状況に神経を使う季節はありません。毎朝、どこで日の出を迎えるか、数日前から気象予報を見ながら考えます。一定の気象条件を満たさないと、出会えない冬の美しい自然現象は幾つもあります。今季、道東エリアは湿度が低く、霧氷やサンピラー、ダイヤモンドダスト等の出現が少なく、まだ圧倒されるような光景に出会えていません。それでも毎朝、目の前に広がる厳寒の世界に、生き物たちの存在を感じたくて双眼鏡を覗いています。この朝、雲間から差す柔らかい光が、淡い黄金色の世界を描き出し、遠方の樹上に2羽のオオワシが静かに佇んでいました。

「Earth Walker」BSフジ ― 生き物たちの声を聴く ― に出演致します。

 2月12日(日)18:00~19:55に放送されます「Earth Walker」BSフジ  ― 生き物たちの声を聴く ― に出演します。皆様、是非ご覧下さい。
 
 これまで北海道の山や森のなかで出会った多くのヒグマたち、その素顔や生態を映像や写真とともに、僕自身が見つめ感じてきたヒグマをはじめとする生き物たちへの思いをお話しさせていただきました。
 
 地球上の人と生き物たち、お互いバランスを保ちながら、より良い世界になる事を願うメッセージが込められた素晴らしい番組です。「Earth Walker」のような番組が多くの皆様の元に届く事を心より願っております。
 
 

氷海の影響 ハシボソガラス

 オホーツク海が流氷で覆い尽くされると、海沿いから内陸部にわたって朝晩の冷え込みが一段と強まります。今朝の気温は氷点下24度。今季一番の寒い朝を迎えました。そんな極寒の世界で、二羽のカラスが朝暘を浴びて静かに佇んでいました。何時も元気なカラスですが、今朝はさすがに動きが鈍く、寒さをやり過ごしているように感じられました。

厳寒に生きる命の痕跡 エゾシカ

 雪深い湖畔沿いを進むと、痛々しいヤナギの幼木が点在していました。その先の彼方に見える黒い点を双眼鏡で覗くと、エゾシカが群れてヤナギの木肌を採食しています。冬の季節、小雪地帯に生息するエゾシカは、日中森の中で休んでいる姿を多く見ますが、多雪地帯では昼夜問わず食べ続けています。それは雪に埋もれ、食べ物が極めて少ない事を物語っています。高地の多雪地帯に生息するエゾシカの冬毛は、小雪地帯のエゾシカと比べ、黒々とした深い獣毛に覆われているように感じます。生息エリアによって、各々の環境に順応し、命を繋いでいるのだと思われます。

雪深い森 エゾシカ

 北海道内陸部に位置する多雪エリアへと移動してきました。湖が結氷し雪原へと変貌した氷上を、スノーシューを履いて上流域を目指し遡行します。雪を踏む音以外は、何も聴こえてこない静寂な空間に包まれ、一歩一歩踏み進む毎に心地好くなってくる感覚が芽生えてきます。時折立ち止まり、周囲の地形を確認しながら、白一色の世界のなかで自分の位置を把握します。3kmほど進んだ頃でしょうか、湖岸に雪の重みや暴風で折れた白樺の小枝を食べる一頭の牡鹿に出合いました。立派な角を持っていますが、体は痩せ、その動きから力無いように感じられます。その後、約2時間かけて上流域に辿り着きましたが、川全体が深い雪に覆われ、せせらぎの音も聴こえてきません。秋まで賑やかに飛び交っていたヤマセミやカワガラスの気配は、微塵も感じられませんでした。

三寒四温 エゾフクロウ

 早朝は氷点下16度近くまで冷え込みますが、お昼近くになると風さえ無ければ比較的過ごしやすい日が続いています。そんな穏やかな日、森のなかで気持ち良さそうな表情で眠るエゾフクロウに出合いました。時折、樹冠を騒ぎながら飛び交うカラスの小群を警戒し、樹洞の中に飛び込みますが、10分も経たないうちに表に出てきます。フクロウにとっても厳冬の日差しは、貴重で有難いものなのでしょう。全身で陽光を浴び、夕暮れまで静かに佇んでいました。

沈黙のミソサザイ フロストフラワー

 厳寒期の美しい光景は、目の前に広がる雄大な自然だけではありません。足下には無数のフロストフラワーが一晩かけて鳥の羽根のように成長を続け、繊細な霜の結晶を見せてくれています。そんな厳寒の世界に体長10cmほどのミソサザイが時折姿を見せるのですが、何時もの賑やかな囀ずりを一度も聴く事はありませんでした。雪の重みで倒れたヨシの茂みで、じっと寒さを耐え凌いでいるのでしょう。ミソサザイの美しい囀ずりが聴こえてくるまで、まだもう少し月日がかかりそうです。

カワセミの越冬

 気嵐が漂う氷点下23度の朝、モノクロームの世界に一羽のカワセミが飛来し、美しい翡翠色を添えてくれました。極寒で無機質だった世界が、小さな命の存在でそれまでとは違う温もりのある景色に感じられます。南国色の濃い体長15センチほどの小さな命が、何時からこの土地で越冬を始めたのかは判りませんが、過酷な環境に負けず力強く命を繋げ生きています。この極寒地で初めて越冬したカワセミに畏敬の念を抱き、なぜこの地で越冬する事を選択したのか不思議な思いが膨らみ、その理由を想像していました。

警戒の理由 アオサギ

 氷点下20℃まで連日気温が下がり、道内は厳冬のピークを迎えています。先日紹介したアオサギが、風雪紋で描かれた氷上に降り立ち、入念に羽繕いをしています。その上空を天敵のオジロワシやオオワシが飛翔する度、首と脚を長く伸ばし、姿が見えなくなるまで小刻みに頭の角度を変えながら、その姿を追っていました。数年前の初夏、オジロワシの雛が待つ巣巣木に、アオサギの雛を捕え持ち帰った精悍な親鳥の姿を思い出します。その平然としたオジロワシの様子から、頻繁にアオサギの雛を捕えている様に感じました。このアオサギは、上空を飛翔するトンビには全く警戒しませんが、オジロワシには強い警戒を見せていました。

アオサギの越冬

 氷点下20度まで冷え込んだ朝、霧氷を纏った木々に朝陽が差し込み、美しい朝の表情を見せてくれました。そんな風景の中に一羽のアオサギが、じっと体を丸めて寒さを耐え凌いでいます。本来、道内で繁殖するアオサギは越冬のために本州以南へと南下するのですが、近年道内で越冬をする個体が少しずつ増えてきているように思います。ただこの日も、写真に写る横枝で多くの時間を過ごし、時折結氷が進む湖沼の水辺に降り立ちますが、採食行動は見られません。まだまだこの先も厳寒が続きます。この寒さに負けず、どうか命を繋いで欲しいと願うばかりです。

月光浴 カワアイサ

 満月の柔らかい光が白銀の世界を照らし、真夜中でも辺りの景観が浮かび上がっています。風も無く穏やかな夜だったので、何時もより少し早い時間にフィールドまで車を走らせました。穏やかといっても温度計は、氷点下12度を指しています。そんななか、黄金色に輝く鏡面のような水面に、カワアイサの小群が波紋を静かに描いていました。

結氷する水辺 アメリカミンク

 日に日に結氷が進んでいる湖沼の水辺に、アメリカミンクが姿を見せました。氷上を素早く歩きながら魚影を追いかけ、潜水して魚を捕らえています。アメリカミンクは在来種を脅かす存在ではありますが、故郷から遠く離れた北海道の地で逞しく生きています。

厳寒の朝 エゾシカ

 きらきらと星が瞬く長い夜の間に、肌を刺すような強烈な冷気が大地を覆い尽くしていきます。多くの生き物たちは、じっと身を潜めて朝暘の温もりを待ちわびているのでしょう。

 そんな極寒の朝、魔法をかけたかのような光景が柔らかい陽光とともに現れました。日の出と同時に力強いアカゲラの鳴き声が冷気を伝って響き渡り、エゾシカの小群が霧氷を纏った原野の奥へと移動して行きます。目の前に広がる光景は特別なものではなく、連綿と続いてきた厳寒に逞しく生きる命の光景です。

謹賀新年

 昨年は当ホームページを御高覧いただき、有り難うございました。近年、動画の撮影に多くの時間を費やしていますので、写真を紹介する機会が少なくなってきておりますが、本年も可能な限り季節感のある生き物たちの表情をお伝え出来ればと思っております。どうぞ宜しくお願い致します。皆様にとって、平穏で健やかな一年になります事をお祈り申し上げます。

 

写真ギャラリー「Landscape with Swans」をアップロードしました

 師走に入り寒さが日々増してきましたが、みぞれ混じりの湿った重たい雪が一昨日から降り続いています。強い寒気が年末から南下するようなので、本格的な冬の撮影はその辺りからになりそうです。写真ギャラリー「Landscape with Swans」をアップロードしましたので、ご覧ください。

多彩な個性 ヒグマ

 晩秋の森の中でき大きなオスグマが夢中になってドングリを食んでいました。ドングリを落葉の中から掻き分けて食べるのですが、この掻き分け方もヒグマによって様々です。ガサガサと大きな音を立てながら大胆に落葉を掻き分けるものや、葉を撫でるように静かに優しく掻き分けるもの、この行動だけ観察していても皆各々個性があります。写真のオスグマは後者の方で、冬に向け森の片隅で密やかに脂肪を蓄えていました。

木登りグマ

 これまで大きなオスグマが木に登る姿を観察した事はありませんが200kgほどの母グマが巨体を揺らして登る姿は何度も目にしてきました。大木であれば15m位の高さなら、あっという間に登ってしまいます。コクワやヤマブドウ等の果実を目当てに昨秋は、木登りをするヒグマを多く目にしました。

ミズナラの森 ヒグマ

 今季は丸々と育ったミズナラのドングリが、知床半島の至る場所で見られました。多くのヒグマは、人里離れた静かな森で十分に脂肪を蓄え、今頃大きな体を丸めてすやすやと眠りについていることでしょう。

 ドングリの生育の豊凶は、多くの生き物たちの行動に影響します。そのなかでも大きな体のヒグマは、冬眠のために栄養素の高いドングリを多く必要とします。一日の多くの時間を落ち葉に埋もれたドングリを探し移動しています。この秋にひとまわり大きくなったヒグマは、口をもごもご動かしながら、器用にドングリの殻だけを歯間から落とし食べ続けていました。

オンコ(イチイ)の果実 子グマ

 今季はヒグマと出合う日が少なかったので、全てを動画撮影に専念しました。昨年森の中で撮影したヒグマの写真を、数回に分けてご紹介したいと思います。

 これまで、オンコ(イチイ)の果実を目当てに多くの生き物たちが集まってくる光景を見てきましたが、ヒグマがオンコの細い枝先に上り、小さな赤い果実を夢中になって採餌している姿は初めてです。オンコの木に上っていたのは2頭の子グマで、体の大きな母グマは子グマが落とした果実を探し採餌していました。昨秋、異なる親子グマが複数の場所でオンコの木に上る光景に出合う事が出来ました。

 ひとりの人間の限られた時間の中で、生き物たちの新たな生態に出くわすことは、奇跡的なことのように感じます。そんな事を思いながら、過去の写真と動画を、いま見つめなおしています。

 

山眠る

 日一日と寒さが増していますが、風の無いとても穏やかな夜です。時折、遠くの森から牡鹿の鳴き声が聴こえてきますが、その鳴き声以外は静寂に包まれています。知床の峰々は雪化粧をし、長い眠りについた様相です。多くの生き物たちが山腹に広がる森に抱かれ、今頃すやすやと眠りについているのだろうと、月明かりに照らされた美しい山容を見つめ想像しながら朝を迎えました。

初冬の森 キタキツネ

 冬になるとキタキツネもひだまりを求めて、心地好い寝床を探し移動しています。どうやら、このミズナラのふかふかした苔の上がお気に入りのようです。地上から2mほどの高い場所にあるため、此方の気配を察するものの、安心して体を丸め休んでいました。

ひだまり エゾフクロウ

 氷点下7度と今季一番の冷え込みになった森の中で、エゾフクロウが朝の光を浴び、静かに佇んでいました。フクロウは目を閉じ、しばらくの間眠りにつくものの、林床に潜む小動物に反応し辺りを見回しては、また気持ち良さそうに眠りについています。この季節になると、多くの生き物たちは、太陽の恩恵をしみじみと感じながら長い冬を越すのでしょう。

オホーツク海の夕暮れ

 11月に入り少しずつ冬型の気圧配置を目にするようになってきましたが、例年に比べると小雪で温かい日が続いているように思います。しかし、立冬を迎えた北国の日照時間は、日に日に短くなるばかりで太陽が恋しくなる時期になってきました。北風と波に運ばれた流氷が、オホーツク海を白一色に覆い尽くす光景も、そう遠くない季節へと移ろいでいます。

渓流のダイバー カワガラス

 シロザケが遡上する渓流にカワガラスがピッ、ピッと鳴きながら頻繁に姿を見せています。10年ほど前、シロザケが産卵したイクラを咥え、水中から飛び立つカワガラスを夢中になって撮影していたことを思い出します。今回、その採餌行動を見る事が出来ませんでしたが、代わりに落葉や小石を嘴でひっくり返し、水生昆虫を次々と採餌していました。カワガラスは名前も色彩もすこし地味ですが、水を弾く撥水性の高い羽毛を活かし、厳寒の渓流域で逞しく生きています。

宇宙のスペクタクル

 いろんな場所で、そして、いろんな思いで今回の442年ぶりの天体ショーを観測されたと思います。僕は発情期を迎えた雄鹿の鳴き声が響き渡る森のなかで、宇宙のスペクタクルを見上げていました。赤銅色に変化した月を見つめながら、こんなに長く月を観察したのは久しぶりのように思います。

夜空を見つめていると、何時も何かを問いかけているように感じます。

自然のリズム シマリス

 少しの期間でも自然から離れると、感覚を取り戻すのには時間が必要です。そこが多くヒグマが生息する森なら尚更です。連日、森の中へ一歩ずつ足を踏み入れるに連れ、自然のリズムに馴染んでいく感覚が芽生えてくるのが分かります。それは、自然や動物たちを観察し把握する事で、少しずつ自然に内包する脅威や恐怖を自分の内から消していく為の時間と言っても良いのかもしれません。この日も、深く積み重なった落葉の森を、踏み音を立てないように一歩ずつ歩いていると、シマリスが落ち葉のなかを駆け回っている微かな音に気付きました。冬眠まで、もう少し時間があるようです。頬袋いっぱいに種子を貯め込んで、巣穴へと忙しく運んでいました。

カラマツ林 エゾシカ

 多くの広葉樹は葉を落とし、越冬の備えを着実に進めています。晩秋の森に、いま鮮やかな色を添えるカラマツ林から、エゾシカが顔を見せました。夕時から植物を求めて活発に活動するエゾシカは、植物が雪に覆われるまでに多くの栄養を蓄えなければなりません。今季、この森はドングリが豊作で、多彩な命の糧となり厳寒をきっと乗り越える事が出来るでしょう。

落葉の森 シマフクロウ

 落葉が進んだ晩秋の森に、柔らかい光が注がれています。鬱蒼としていた夏の森とは異なり、明るく歩きやすくなってきました。そのお陰で、森に生息する生き物たちの姿を、比較的見つけやすくなってきました。写真の眼光鋭いシマフクロウは、時折姿を見せるミヤマカケスを警戒しながらも、松林のなかで夜が来るのをじっと待っていました。

ふたたび森へ

 道内は冷たい雨が降っています。山は早くも雪化粧し、もう間もなく平地にも雪が降るでしょう。冬タイヤに交換し、再び北の森へと車を走らせました。車窓から流れる晩秋の景色に鉛色の空、すこし寂しい思いに駆られますが、新たな動物たちとの出合いを求めて森のなかへと進みます。

母校での講演

 昨日25日、母校の下関市立豊浦小学校・創立150周年記念式典で写真と動画を紹介しながら講演をさせていただきました。子供たちのピュアな感性に触れる機会をいただき、素晴らしい時間を共有する事が出来ました。これまで、ひとり自然のなかで多くの時間を過ごして来ましたが、その時間も決して無駄では無かったと、確信する事が出来ました。素晴らしい時間を、有り難うございました。

 
 記念式典の関係者皆さま、このような機会をいただき、心より感謝申し上げます。

晩秋の森

 連日、北の空から白鳥の群れがお互いを励ましているかのように鳴きながら渡って来ます。色彩豊かな紅葉は、山を駆け下り平地までやって来ました。早くも北の森は、晩秋の気配が漂っています。もう間もなく、長い冬に備え忙しく貯食していた動物たちも眠りにつくでしょう。

山粧う

 知床の山肌を白い幹がうねるように伸びるダケカンバの光景が、目立つようになってきました。多様な姿をみせる白い幹は、知床の厳しい環境を物語っています。この数日の雨と寒さでその光景は、山裾へと一気に駆け下りていきます。

知床の夜明け

 雲間からうっすらと差す月明かりが、眼下に広がる漁火の浮く海を優しく照らしています。やがて羅臼岳の頂をすっぽりと覆った厚い雲が、北西の強風に運ばれて根室海峡に流れ込む光景が露わになってきました。流れる雲の先に国後島の輪郭が水平線にくっきりと浮きあがると、色彩豊かな知床の山肌を陽光が照らしはじめました。

森粧う

 先日、氷点下まで気温が下がり、初霜が降りました。木々は突然の寒さに驚いたように無数の葉を絶え間なくひらひらと落としています。その光景は、まるで雪が深々と降るように林床に降り積もっていきます。毎年、秋の移ろいを見つめていますが、同じ光景を2度見ることはありません。

有終完美 サクラマス

 母川を離れ、大海へと旅立ったサクラマスの長い旅が間もなく終わろうとしています。河川の上流部には、産卵を終えて力尽きたサクラマスが多く見られます。どの魚も、生を全うし、やり遂げた安堵の表情を浮かべているように感じられます。河川を離れる稚魚の頃とは、見違えるほど逞しく、そして精悍に成長したサクラマスが目の前で息絶えていく姿を見つめていると、これまでの過酷な旅を自然と想像してしまいます。いくつもの困難を乗り越え、長い旅を全うしたサクラマスが、何故かまばゆいほどに魅力的に感じられるのです。いま晩秋の山深い渓流は、密やかに桜色に彩られています。

いのちの回廊

 海から山腹へと森を縫うように伸びる河川は、多くの生命が行き交う回廊です。多様な生き物が、この流域で命を繋ぎ、育んでいます。エメラルドグリーンの淵には、多くのヤマメやイワナが水面に揺れながら見え隠れし、ヤマセミやカワガラスが賑やかに行き交う姿も頻繁に見られます。エゾシカやヒグマも沢筋を使って移動しているのが、長年にわたって踏み固められた獣道から判ります。頭上近くを悠然と飛翔し上流域へと向かうオジロワシ、夜間にはシマフクロウもこの流域を魚影を探し行き交っているはずです。この流域でオオワシの姿を確認するのも、そう遠くはないでしょう。

フィールドサイン

 晴天が続き連日にわたって、原生的な自然が色濃く残る渓流を遡行しています。林冠から光が注ぐとエメラルドグリーンに輝く淵や水面に揺れる琥珀色の瀬、とめどなく表情を変える美しい光景に先へ先へと足が進んで行きます。その風景の片隅に多くの生き物たちのフィールドサインが垣間見られます。ヒグマやキツネに猛禽類、ヤマセミの痕跡等です。全てを断定する事は難しいですが、僕にとっては貴重なサインです。これらを手がかりに動物たちの行動パターンを予測し、ゆっくりと少しずつ距離を縮めていきます。

深まる秋 オジロワシ

 上流域の川岸に息絶えたサクラマスを目当てに集まるオジロワシやトビ、カラスを多く目にするようになってきました。その傍らに仰向けになったニホンザリガニや丸々と大きく実ったミズナラのドングリが水面に揺れています。先週末から少し暖かくなりましたが、川底に日に日に積み重なる落ち葉を目にすると、秋の深まりが進んでいる事が分かります。

新たな出合いを求めて ヤマセミ

 9月に入り、これまで心地よかった川の水温に冷たさを感じるようになってきました。サクラマスの魚影を探し上流域を目指し進むと、エゾゼミの力ない鳴き声が河畔林から聞こえてきます。日に日に秋の深まりが進み、間もなくセミの鳴き声も聞こえなくなるでしょう。蛇行する川の先に見る新たな光景に心踊らせ、甲高く鳴きながら飛翔するヤマセミの美しさに心惹かれます。ひとり、自然の中に身を置くと、あらゆる出合いがかけがえのないものに感じられます。

躍動する生命 サクラマス

 9月に入り、雁の小群が北の方角から渡ってくる姿を、上空に確認する日が増えてきました。越冬地を目指し、シベリアから長い旅を続けてきたのです。そんななか、山深い渓谷で上流へ向かうサクラマスに出合いました。川には産卵を終えて息絶えた魚も目立つようになり、先月までと川の表情が違う事に気づきます。そんな仲間をよそ目に、更に上流へと懸命に遡るサクラマスもいます。そんな姿を見つめていると、「良く頑張った、もうここで良いよ」と声を掛けたくなる心境になりますが、これも多くの生き物が持つ宿命なのかもしれません。まだまだ、遥か上流をサクラマスは目指しているようです。

熟した実から順番に シマリス

 朝からイチイの果実を目当てにやって来る生き物たちを待っていると、シマリスがやって来ました。生活の多くを地上で過ごすシマリスですが、木登りも得意です。一つ一つ熟した果実を嗅覚で確認しながら、完熟した実を次々と頬袋にため込んでいました。

イチイ(オンコ)の果実 ゴジュウカラ

 赤くて、ほんのり甘い小さな果実をたくさん実らせたイチイの木には、多くの生き物たちが集まってきます。体の大きなヒグマから小鳥まで、待望の秋の実りを競うように次々と収穫しています。朝から頻繁に姿を見せるゴジュウカラは、一度に2粒の実を咥え、忙しく周囲の木々の樹皮に隠し貯食していました。

貯食 シマリス

 先日の台風がもたらせた強風で落葉が進み、林床が少し明るくなったように感じます。そんな林床の中を、シマリスがイチイ(オンコ)の果実やエゾリスが食べ残した胡桃等、秋の恵みを頬袋にいっぱいにして巣穴へと運んでいました。寒暖の差が激しくなり、冬眠への準備のスイッチが入ったようです。

いのちの輝き オシドリ(メス)

 9月に入り、日一日と朝晩の冷え込みが進んでいます。早くも広葉樹は冬に備えて、少しずつ紅や黄色に色づき、ひと風ごとにはらはらと散り始めています。寂しげな森を映す水面を優雅に進む一羽のオシドリが、その光景に温もりと輝きを与えてくれていました。

朝凪 アオサギ

 朝の柔らかい光の中でアオサギが長い首を伸ばして小魚を探しています。静寂な空間を一歩ずつ、一歩ずつ忍び足で、鏡のように森を映す水面を移動しています。朝と夕方の凪ぎの時間帯は、水鳥にとって魚を見つけやすい格好の狩のチャンスの到来です。次、次と長い嘴を水面に突き刺して小魚を捕らえていました。

夏の終わり イワツバメ

 一雨ごとに北国の夏は、終わりに近づいています。あれほど賑やかだった夏鳥の囀ずりも少なくなり、繁殖を終えて早くも南へと渡り始めているものもいます。夕暮れの空を縦横無尽に飛翔しながら虫を採食するイワツバメも、あと一月ほど、この湖沼で体力を蓄えて南へと旅立つ事でしょう。その頃には、夏鳥と交代するように南下してくる冬鳥の姿に懐かしさと喜びを覚えます。同時に、月日の流れの早さを感じ、長い冬の訪れを感じるのです。

秋の気配

 お盆が過ぎ、朝晩の冷え込みを感じるようになってきました。早くも季節は、秋へと移ろい始めています。青々としていた森の色が、日に日に色褪せているのが分かります。もう間もなく、山の稜線は鮮やかな秋色に染まるでしょう。北国の季節は、駆け足で移ろい始めています。

夕照のひととき エゾシカ

 雨雲が去り、夕陽に照らされた草原で仲睦まじいのエゾシカの親子に出合いました。まだあどけない表情を見せる小鹿ですが、順調にすくすくと育っています。子鹿は、日に何度か行われるグルーミングに母鹿の愛情を確認しているのでしょう。なんとも言えない表情で身を委ねています。子鹿は、厳しい冬を越すまで母鹿の深い愛情に支えられながら成長します。

朝の森 シマフクロウ

 月明かりとヘッドライトの灯りを頼りに、まだ薄暗い森の奥へと進んで行きます。足下には、大小様々な石がひっくり返されています。ヒグマが石の下に潜む蟻を探して歩いた痕跡です。少し歩いては、耳を澄まして鳴き声のする方向を確認し、同時にヒグマの気配に神経を尖らせながらピーンと張り詰めた緊張感と冷気を纏った森のなかをゆっくりと進みます。やがて、森に朝の柔らかい光が差し込み靄(もや)がたち始めると、森の表情は一変します。朝露がキラキラと煌めき、鳥たちの声で賑わい始めました。それらと交代するかのように、息を潜めて長い休息に入る生き物たちもいます。

遡上 サクラマス

 山間を縫うように流れる川の上流を目指すサクラマスが、上流域に続々と姿を見せ始めています。産卵期が近づき、サスラマス独特の美しい桜色の婚姻色が目立ちはじめてきました。ただ、この頃になると、長い旅の途中で力尽きたサクラマスが、川底に沈む姿も複数確認出来ます。9月上旬には更に上流域の支流で、サクラマスの産卵が見られるでしょう。

深い霧 オジロワシ

 南からの湿った風が霧をもたらせ、渓谷を包み込んでいます。時折、薄日が差し明るくなりますが、この数日は深い霧に包まれた状態が続きそうです。長い年月にわたって湿潤な環境をもらたせた霧が、豊かな森を育んできたのでしょう。足下には色鮮やかなキノコが顔を出しています。そんな霧のなかもオジロワシは、変わらず樹上から水面を見つめ続けていました。

豊かな生態系 オジロワシ

 夜明け前にテリトリーを主張するオジロワシの鳴き声で、この数日間目を覚まします。他にもウグイスやコマドリ、ツツドリの鳴き声が、川の流れの音に消されること無く聴こえてきます。この流域には幼鳥も含め複数のオジロワシが、サクラマスを目当てに現れ、樹上からじっと魚影を見つめています。他にも、ヤマメ等の小魚や虫を求めてヤマセミやカワガラス、キセキレイが上流から下流へと行き来しています。あと一月もすれば、サクラマスの卵を目当てに多くの生き物たちが集まってくるでしょう。サクラマスの遡上は、豊かな生態系を育んでいます。きっと、ヒグマもこの流域のどこかでサクラマスの遡上を喜んでいるのでしょうね。

母川回帰(ぼせんかいき) サクラマス

 春、生まれ育った川の河口に姿を見せたサクラマスが、産卵のために上流域を目指し群れとなって遡上を続けています。約一年の月日を海で過ごしたサクラマスにとって懐かしい故郷への旅とはいえ、山深い産卵場所に辿り着くまでには容赦ない困難が連続します。遡上の途中、幾つもの滝や急流を越えながら、オジロワシ等の捕食者をかわし、それらを乗り越えて漸く命を繋げることが出来ます。そんな困難を想像しながら、目の前で壮大な自然のエネルギーに懸命に立ち向かう一匹のサクラマスに内包するエネルギーに生き物が持つ強さと、同時に儚ささえも感じます。季節が巡り、春になれば雪解け間もない川底で新たな小さな命が誕生します。小さな命は、産卵後に息絶えたサクラマスから分解され発生するプランクトンで成長するのです。

別れの季節 キタキツネ

 強い陽光が降り注ぐ草原で、子ギツネが無防備な状態で眠っていました。時に寝返りは打つものの、全く僕の気配を察する様子はありません。まるで巣穴の中で寝ている子ギツネを見ているかのような感覚に陥るほど、ほのぼのとした時間が微風とともに流れていきます。実はこの日、霧に覆われた早朝からこの子ギツネは、母親を探し行ったり来たりと草原を小走りに不安そうな表情で行動していました。時に母親を呼ぶ悲しげな鳴き声が、茂みから聴こえてきます。母ギヅネは草原の一角にいるのですが、全くその声に応えようとはしません。そうです、親子の別れの季節が近づいているのです。こうして少しずつ距離を置かれて子ギツネは、別れの時を迎えます。

 早朝からそんなドラマを目にしたので、数時間歩き回り疲れきった子ギツネの寝顔を覗きながら、今頃愛情深く、優しかった頃の母ギツネの夢を見ているのかな、と想像します。子ギツネが眠りについて約7時間後、スッと立ち上がって背伸びをし、僕の足下をよろめきながら通り抜けて草原の奥へと消えて行きました。

子ギツネの成長 キタキツネ

 燦々と照りつける太陽が、真夏の訪れを知らせてくれます。春には両手に乗るほど小さかった子ギツネが、遠目から見ると親と区別がつかないまでに成長していました。生まれ育った巣から離れて単体もしくは二匹で行動し、もう母ギツネが餌を運ぶ姿もほとんど見られません。子ギツネは、自ら餌を探し回り失敗を繰り返しながら経験を積み重ねています。まだもう少し経験を積まなければ、母ギヅネの様には行きませんが、日に日に少しずつ成長しているのを感じとれます。

けもの道を辿って エゾシカ

 森の奥へと続く獣道を辿って進むと、一匹の小鹿が突然立ち上がり、此方を警戒の眼差しで見つめています。じっと茂みに潜み、母鹿の帰りを待っていたのでしょう。僕はその場に立ち止まり、じっと小鹿の様子を伺います。しばらくすると小鹿は顔を突き上げ、一歩ずつゆっくりと足を大きく上げて近づいてきました。子鹿は10歩ほど進み立ち止まると、スッと反転して森の奥へと高く軽快に跳ねながらあっという間に消えて行きました。

盛夏 エゾフクロウ

 

 昨春は三羽の雛を育てあげたフクロウの雌雄ですが、今季雛鳥の姿を見ることはありませんでした。5月に営巣木を出入りする雌雄を確認したので、今か今かと雛鳥が巣穴から顔を出すのを楽しみにしていたので残念です。その要因が無精卵だったのか、イタチの仲間に襲われたのかは判りません。ただ、この春に気になった事があります。昨年は日中に何度もネズミを捕らえたオスのフクロウですか、今春は狩りを試みるものの失敗するケースが多くありました。今季は、この森に生息するネズミの数が少なかった様に思います。その事も今季、雛鳥が見られなかった事の要因のひとつかもしれません。その後、夕刻の森で仲睦まじいフクロウの雌雄を確認しました。来春はこの森で、雛鳥の姿に出合える事を願っています。

自然界の掟(おきて) クマゲラ

 親鳥の巣立ちの促し行動が始まってから5日後、2日間かけて3羽のクマゲラの雛鳥は、親鳥の鳴き声やドラミングに誘導されて森の奥へと飛び立ちました。巣立ちの瞬間は、どの鳥たちも感動的なドラマを見せてくれます。その中でも一際劇的なドラマを見せてくれるクマゲラの巣立ちは、何度見ても胸が熱くなります。けれども巣立つ雛鳥に感動しているばかりではいられません。自由を手にした雛鳥は、同時に危険にさらされる事になるのです。今回もその瞬間をカラスが察し、どこからともなく現れ待ち構えていました。カラスにも、お腹を空かせた雛鳥が待っています。その気配を察したクマゲラの親鳥は、これまで聴いたことのない大きな鳴き声を発しながら、体が一回り以上大きなカラスを追い払いますが、そう簡単にはいきません。翌日、巣立ちを終え静まりかえった森の中を歩いていると、黒く小さな右翼を足下に見つけました。それが昨日巣立ちしたクマゲラの雛のものだと判ります。長期間懸命に子育てを続けた親鳥の姿を知っているだけに、目を背けたくなるよう光景ではありますが、これが自然界の掟なのです。この日、感慨深い思いで1日を森で過ごすことになりました。

夏の盛り エゾシャクナゲ

 雨上がりの森のなかで、エゾシャクナゲの微かに放つ甘い香りに虫たちが集まっていました。道内も夏の盛りを迎え、虫たちを多く目にするようになってきました。北国の短い夏に、各々が短い命を謳歌しています。

山間の森 クマゲラ

 間もなく巣立ちを迎えるクマゲラの雛の甲高い鳴き声が、山間の森に響き渡っていました。この頃になると親鳥は、雛鳥の巣立ちを促す為に給餌の数を減らします。親鳥は雛鳥を餌の豊富な場所に連れて行き、早く成長させて採餌を学ばせようと思っているのですが、食欲旺盛な雛鳥に、そんな思いが伝わるはずもありません。餌の量が減らされた雛鳥の表情や仕草から、戸惑いと憂いが混在した感情が読みとれます。巣立ちまでのあと数日間、ドラマチックな親子の物語が、営巣木の周りで繰り広げられていきます。

雨あがりの草原 シマセンニュウ

 雨あがりの草原を訪れると、早朝から雲雀が上空で賑やかに囀ずっていました。雨露を纏ったみずみずしい草原では、シマセンニュウが控え目に囀ずりながら飛翔し、忙しく子育てに励んでいました。間もなく、雛鳥が巣立ちの時期を迎えるでしょう。

巣立ち ゴジュウカラ

 森の片隅からピイピイ、ピイピイと雛鳥が、親鳥に餌をねだる鳴き声が聴こえてきます。その鳴き声がする方向へと進むと、3羽のゴジュウカラの雛鳥が寄り添うように横枝に止まり、羽を震わせながら餌を求めアピールしていました。親鳥は雛鳥のアピールに応え、休む暇なく次々と虫等を運んできます。巣立ちした雛鳥は全部で五羽。アピールの強いもの弱いものと個性が各々ありますが、親鳥は均等に餌を運び、子育てに励んでいます。

森の美食家 エゾリス

 森は緑が深まり、鬱蒼としてきました。つい先日まで林床を彩っていたタンポポは綿毛へと変わり、ひと風ごとにふわふわと舞っています。そのなかを早朝から母リスが、駆け回っていました。実はこのタンポポの葉や茎をエゾリスは好んで食べています。エゾリスはクルミやドングリを食べるイメージが強いと思いますが、実は雑食性でヒグマに負けないほどの美食家です。樹木や植物の新芽や若葉、果実に種子、花の蜜に樹液やキノコ類、昆虫や昆虫の幼虫、時に幼蛇等の爬虫類を捕らえ、食べる事もあります。まだまだ他にも多くの森の恵みを食べているのでしょう。季節毎に森の中でエゾリスが何を食べているか、観察するだけても面白いですね。

小さな鼓動 エゾリス

 早朝から生後2ヶ月ほどのエゾリスの子供たちが、樹上と林床を行き来しながら楽しそうに駆け回っています。もう間もなく離乳する頃だと思うのですが、母親が現れると分散していた子リスたちが、どこからともなく母親の周りに集まってきました。子リスたちは若葉などの植物を食べ始めていますが、もう少し母乳が恋しいようです。母親に甘えられるのも、あと僅か。今月中には離乳し、来月には母親と別れて、この森で自分自身の力で生きていくことになります。風のように季節が移ろう北の森では、小さな命の鼓動が少しずつ力強くなっています。 

儚い生命 アカゲラ

 5月にアカゲラが巣作りをしていた森へ、再び様子を見に行って来ました。小鳥たちの恋の季節のピークも過ぎ、幾分静まりかえった森の中からアカゲラの雛鳥が餌を求める鳴き声が聴こえてきました。約2週間の抱卵を終え、小さな命が誕生したのです。この森で一生を過ごすアカゲラは厳冬を耐え抜いて、春から初夏にかけてこの森で命を繋げていきます。南からの渡り鳥とは違い、この森で厳寒を乗り越えたからこそ、この初夏の温もりや柔らかさ、森の恵みを沁み沁みと感じ、子育てに励んでいるのでしょう。初夏は、生命溢れる季節です。しかし、その裏には、目を背けたくなるような自然の厳しさも、これまで数多く目にしてきました。写真の雛は、孵化後間もなく力尽きたのでしょう。卵の殻を割るので精一杯だったのか、兄妹間でのし烈な餌の取り合いに負けたのか、それとも寒さに耐えられなかったのか、その答えは判りません。ただ、ただ、感じるのは命の脆さや儚さです。そんな生き物たちの光景に触れる度に、新たな生き物たちとの出合いは奇跡的な事だと一層と強く感じるのです。その後もアカゲラの雌雄は子育ての為、休む暇なく餌運びに励んでいます。巣立ちは今月下旬、みな無事に巣立ってくれる事を願っています。

 

すくすくと タンチョウ

 生まれて約2週間が過ぎた2羽のタンチョウの雛鳥は、親鳥に守られながら行動範囲を広げ、すくすくと成長しています。成長に伴い雛鳥の食欲も旺盛になり、餌の種類も増え、そのサイズも随分大きくなってきました。潮汐の影響を受けるこの生息地は、タンチョウの活動にも変化をもたらせます。満潮時には草原で昆虫の幼虫やカエル等を採餌し、潮が引き始めると雛を連ねて干潟へと移動し、ギンポ等の小魚を採餌して雛にせっせと与えています。このタンチョウの親子は、潮汐のリズムに合わせて活動していると言っても過言ではないでしょう。この時期、まだ小さな雛鳥はオジロワシやキタキツネ等の天敵が多く、常に危険が伴います。このまま、2羽ともに無事に成鳥になることを願っていますが、過去の観察から見ても自然界は、そう思うように簡単にはいきません。

潮間帯、いのちの攻防 キアシシギ

 四季を通じて潮間帯には、多くの生き物たちが集まってきます。この季節、タンチョウやオジロワシにシギやチドリの仲間、カモメや水鳥たちは、潮が引き始めるとどこからともなく次々と姿を現し、潮溜まりや藻に潜む魚貝や甲殻類を採餌しています。干潮から満潮になるまでの数時間、あるものは、息を潜めじっと潮が満ちるのを待ち、あるものは必死に獲物を探し続けます。太古から変わらず続く月と太陽の引力によって引き起こされる自然の摂理が、人も含めて多くの生命に恩恵を与え続けてくれでいます。そこには、無数のドラマチックな命の攻防が、星の数ほど繰り広げられてきたのだと、海辺を見つめながら想像します。そんな事を考えると、あらためて神秘的な世界に生きていることを実感し、森羅万象繋の繋がりを感じるのです。

きずな キタキツネ

 雨上がりの森は、植物のほのかな甘い香りが漂っています。数日前からエゾハルゼミの鳴き声も加わり、また一層と森の中は賑やかになってきました。この森で生まれた9匹の子ギツネたちも、順調にすくすくと成長しています。この9匹の子ギツネは、この春に母ギツネと娘(去年もしくはそれ以前に生まれた子供)から産まれ、同じ巣穴を使いながら生活をしています。僕自身、二匹の母ギツネが共同で子育てをする姿を観察するのは、初めての経験でキタキツネの新たな生態や習性を垣間見る事が出来ました。いま北の森では、深い愛情と強い絆によって無数の小さな命が、刻一刻と育まれています。

息をひそめて コゲラ

 先日、紹介したアカゲラは巣作りを終えて、いま抱卵に入っています。そのアカゲラと同じキツツキの仲間のコゲラが、ミズナラの幹を覆う苔の中から昆虫を探し出して食べていました。いつも雌雄で仲良く行動し、つがいの絆の強さで知られているコゲラなのですが、一羽しか見当たりません。この森の片隅で、コゲラも息をひそめて卵を抱いているのかもしれませんね。

初夏の風 オジロワシ

 エゾヤマザクラの花びらがはらはらと散り、いよいよ北海道にも初夏の風が吹きはじめてきました。原生花園の植物も芽吹き、早いものは間もなく小さな花を咲かせるでしょう。そんななか、早朝から、小高い草地に立つオジロワシが水鳥の群れをじっと見つめていました。水鳥の狩りは、そう簡単ではありませんが、お腹を空かせた雛鳥が待っているため、粘り強くチャンスを待ち続けています。

巣材はこび シジュウカラ

 シジュウカラの雌雄が、苔むしたトドマツの根元に巣材を次々と運んでいます。巣材の多くは緑一色の林床を、いま競うように真っ直ぐ伸びるゼンマイの綿毛です。昨年はミソサザイが、ゼンマイの綿毛を巣作りのために忙しく運んでいました。間もなく、シジュウカラは、ふかふかの温かい巣を完成させるでしょう。その巣の入り口には、オオサクラソウが可憐な花を咲かせていました。この時期、森を歩くと多くの出合いがあり、豊かな生態系が垣間見られます。いま森は生命力で溢れ、微笑ましい光景に満ちています。

キョウジョシギ (京女鷸)

 キョウジョシギの和名は、その美しい夏羽の模様から「京都の女性が派手な着物を着ている姿」に例えて名付けられたようです。鳥の名前の由来は、他にもユーモアにあふれた名前が多くあります。そんなキョウジョシギが浜辺で朝日を浴び、藻の中から虫を探し採餌していました。シギやチドリの仲間が小走りで移動する姿は、何とも可愛いものです。間もなくキョウジョシギは、繁殖のためにシベリアへと旅立ちます。

森の大工さん アカゲラ

 数日前から森の中でコツ、コツ、コツと小刻みに木をつつく小さな乾いた音が聞こえてきます。その音の方角を覗くと、アカゲラのオスが白樺の古木に営巣穴を掘っていました。その音を耳を澄まして聞いていると、荒堀りと仕上げ堀りを交互に繰り返し巣作りを進めているのが分かります。掘削をして巣穴に木屑が溜まると、それを数回に分けて外に嘴を器用に使い排出しています。巣作りの多くはオスの役目で、一日に何度もメスが新居の進捗状況を確認にやってきます。その行動からメスが繁殖期において主導権を持っているようです。巣作りの合間に樹上で交尾行動も確認出来ました。巣が完成すれば、間もなく抱卵が始まるでしょう。アカゲラの巣立ち後、巣穴はエゾモモンガやヒメネズミの塒に使われる事もあります。

多彩な音色に包まれる森 アオジ

 ゴーゴーと強風で木々が揺れる森の中で、その轟音にもかき消される事なく、小鳥たちの美しい囀りが森に響き渡っています。静かで寂しかった冬の森から、植物の芽吹きとともに小さな命が日々躍動し変化していく姿を、一日森で過ごしていると感じます。早くも子育てを始めたものや巣材集めに忙しく飛び交っているもの、巣作りに励んでいるものにテリトリーを争っているもの、皆それぞれ限りある命を、この季節に託し謳歌しているように感じます。

新緑萌ゆる湖沼 タンチョウ

 水芭蕉が見頃を迎えた新緑萌ゆる湖沼で、タンチョウが息をひそめて卵を温め続けていました。抱卵期間は約30日、雪や雨のなかもじっと卵を守り続けていたのでしょう。もう間もなく雛が誕生する頃ですが、ブラインドに入って観察しているものの、親鳥の警戒心が強くストレスを与えていると判断し、観察を断念しました。個体によって生息環境や性格が皆違うので、それを察することが何よりも優先すべき事だと思います。

春の海 ゴマフアザラシ

 流氷が消え海明けとなったオホーツク海にゴマフアザラシの姿を見つけました。干潮になると、お気に入りの岩礁へと上がり春の陽気を満喫している様子です。岩礁が並ぶ遠浅の海岸には、青々とした藻類が見られ豊かな生態系が育まれていることが分かります。山も海も春色が増し、日々季節の移ろいを感じます。

新緑芽吹く山麓で エゾユキウサギ

 まだ早朝や夕暮れ時は、日差しが恋しくなるほど冷え込みますが、日に日に夏鳥の囀りが増し、季節の移ろいを感じています。先月まで神々しく輝いていた峰々は勢い良く山肌が露出し、山麓のエゾヤマザクラも例年より早い開花を迎えています。そんな瑞々しい新緑芽吹く山麓で、夏毛に変わったエゾユキウサギが朝日を浴びた草原に佇んでいました。少し離れた所にいるもう一羽を、執拗に追い続けています。どうやら、今エゾユキウサギは恋のまっただなかのようです。

北帰行 

 南から渡ってきた雁の仲間や白鳥たちが、雪原から顔を出した田畑の落穂を目当てに次々と集まってきています。冬には白く美しかった白鳥ですが、羽が土に汚れながらも必死に落穂を食んでいます。もう間もなく、繁殖のためにシベリアへの長い長い旅が始まります。鳥たちにとって、田畑に残された落穂は貴重なエネルギー源となっています。人の営みが多くの生命の糧となり、遥か彼方の土地で連綿と命を繋げています。

春の空

 春がもたらす景色の移ろいは、芽吹き始めた大地だけではありません。毎日、空模様を伺い生活していると、空の表情が冬とは違うことに気付きます。冬の輪郭がぼやけた鉛色の低い雲から、輪郭がはっきりとした綿のような雲が多く見られるようになってきました。そんな、ぷかぷかと浮かぶ綿雲を目にする度に、ほんわかとした気持ちになります。それと同時に、平和への強い思いが日々募るばかりです。

春色へ エゾユキウサギ

 北海道も春本番を迎え、山麓の森の中も雪解けが勢い良く進んでいます。沢沿いには、可愛いらしい銀白色を纏ったネコヤナギの花穂が芽吹き、景色が少しずつ春色へと染まっています。気温が上がり、小鳥たちの囀りで賑わい始めた森の中でエゾユキウサギが息を潜め佇んでいました。エゾユキウサギの美しい純白の冬毛は、もう間もなく夏毛へと生え変わり、繁殖の季節へと入ります。

黄昏時に浮かぶ影 流氷とオオワシ

 この数年、野付半島のオオマイ(氷下魚)漁や風蓮湖の氷下待ち網漁等の不漁に伴い、雑魚を目当てに飛来するオオワシの姿が減少しているように感じます。今季は昨冬にも増して、オオワシの姿を見る機会が少ない年でした。写真は今季最後に撮影した黄昏時に流氷の上で休んでいるオオワシです。間もなく、全てのオオワシが北帰行のため北海道を旅立ちます。来季は多くのオオワシの姿に出合えると良いのですが・・・。

多彩な生命 タンチョウヅル

 タンチョウヅルが繁殖地へと舞い戻り、繁殖の準備をはじめています。解氷が進む湖にはオナガカモ等の水鳥が次々と集まり、オジロワシが上空を舞う度に、大きな羽音とともに大群で舞い上がっています。北海道の湖沼にも多彩な生命が溢れ始め、いよいよ春本番です。

冬と春が出合い織りなす風景 エゾシカ

 福寿草が顔を出した樹林から海岸へと下りてきたエゾシカが、遠浅の干潟へと青々とした海草(アマモ)を目当てに移動しています。警戒心の強い牡鹿の姿は見えませんが、10頭ほどのメス鹿の姿が、流氷の合間に確認出来ます。春にこの海岸に流氷が辿り着いた数日間見られる、冬と春が出合い織りなす風景です。

流氷が育む小さな生命 ツグミ

 日一日と雪解けと解氷が進む汽水湖の潮間帯で、小さな生命のドラマが繰り広げられています。この冬に最も多く目にした冬鳥のツグミが、先日の時化で流氷に絡まり漂着したアマモの中からオキアミを探して啄んでいます。その様子を双眼鏡で観察しているのですが、何を採食しているのか確認する事が出来ません。その疑問を解消してくれたのが、この一枚の写真です。目を惹かれる雄大な世界に息づく動物たちの姿にも魅了されますがミクロの世界に息づく生物たちのドラマにも発見と感動が満ちています。この一連の密やかに繰り広げられているドラマも、流氷がもたらす豊かな生態系の一端です。

根室海峡の流氷

 先日の暴風で汽水湖に流入した海氷が、引き潮と南風に乗って勢い良く海へと流れて行きます。時折、巨大な氷同士がぶつかり発生する「流氷鳴き」が聴こえ、迫力が一層と増しています。刻一刻と表情を変える息を呑むような光景が、春の陽光に照らされ煌めいています。一時、根室海峡を埋め尽くしていた流氷ですが、もう間もなくこの海から離れて見えなくなるでしょう。

初春の嵐 オジロワシ

 午後からファインダーを覗く目を開けられないほどの暴風雪が吹きはじめてきました。道東の幹線道路の多くが通行止めとなり、いま暴風に煽られる車内でこの記事を書いています。写真は、今週の始めに撮影した湖の氷上に立つオジロワシの雌雄です。この日の午後には、このエリアの氷は、風波にもまれて消えていました。この初春の嵐で湖の解氷も進み、道東の冬も終わりを告げようとしています。100日以上に及んだ長い冬の撮影が、いよいよ終わりに近づいてきました。

ふかい霧の朝 エゾシカ

 3月に入り、冬の抜けるような青空が見られなくなってきました。南風で運ばれる湿った大気と植物の芽吹きによる水蒸気の発生が、霞みの要因になっているものと思われます。この日も、暖気の影響で早朝から深い霧のなか、エゾシカがミズナラの森のなかへと静かに消えて行きました。間もなく、雪解けが進んだ林床から福寿草が顔を見せてくれるでしょう。

春の風 根室海峡の流氷山脈

 根室海峡を彷徨うように流動していた流氷が、ようやく根室半島に接岸しました。陽光が燦々とふり注ぐ海原に、巨大で純白の美しい氷塊が青白い光を放ちながら水平線まで広がっています。早くも、タンチョウの雌雄が越冬地から繁殖のために根室半島に戻ってきました。北国にも春の風が吹き続けています。

 

夏鳥の越冬 ホオジロ

 厳冬期から目にしてきた2羽のホオジロが、無事にこの草原で越冬を終えようとしています。本来、北海道では夏鳥のホオジロですが、少数は留鳥として生息しているのでしょう。年毎に夏と冬、伴に小鳥たちの飛来数が減少し、寂しい思いに駆られるなか、この2羽のホオジロの逞しく生きる姿に愛おしい感情が募ります。

流氷をめぐる命の攻防 オジロワシ

 メスを追いかける複数のオスのシノリガモの一群が、遠くの流氷の合間に確認出来ます。シノリガモも恋の季節を迎えているようです。その様子をオジロワシの雌雄が、じっと見つめていました。この日は観察出来ませんでしたが、オジロワシの雌雄は、連携をして巧みに水鳥の狩りを行います。一羽で狩りをする時には、水鳥が海に潜り海鷲の攻撃をいとも簡単にかわします。しかし、2羽で狩りを行う時は、潜水した水鳥が呼吸の為に海面に顔を出す瞬間を、2羽でタイミングをずらしながら襲いかかります。この場合は、高い確率で狩りに成功しています。今月の中旬、オジロワシは枝を積み重ねて作り上げた樹上の巣で、卵を抱き始めるでしょう。

オホーツクの流氷

 春の訪れを告げる南風が、オホーツクの流氷を少しずつ解かし始めています。厳冬期にはエッジが鋭く荒々しい表情を見せていた流氷も、丸みを帯び、迫力が失われつつあります。これから風と潮汐に揉まれながら海を漂い、ある日、忽然とオホーツクから消え、海明けとなります。

猛吹雪の朝 エゾシカ

 急速に発達した低気圧が、春に向かっていた景色を白銀の世界へと一変させました。こんな猛吹雪のなか、動物たちはどう過ごしているのでしょうか。そんな思いで、吹雪の日もフィールドに足を運ぶようにしていますが、視界が悪く、動物たちの生息圏にたどり着くまで困難の連続です。また、多くの生き物たちは、森林等、風雪を遮られる場所で身を潜めているため、なかなか出合うことが叶いません。併せて風や木々が揺れる音で、動物たちの警戒心も高まります。そんな森のなかで、オスの大鹿が息絶えていました。深い雪に足をとられ力尽きたのでしょうか。その立派な大角と体の大きさから、これまで多くの子孫を残してきたと思われます。そんな事を思いなから、雪に覆われ消えていく大鹿の前で立ち尽くしていると、その様子を森の奥から若いオス鹿がじっと見つめていました。いつか、この若い鹿が群れの先頭に立つ日がくるのでしょう。

吹雪が明けて キタキツネ

 二日間続いた吹雪が収まり、キタキツネが柔らかい陽光を浴びに巣穴から姿を見せました。日当たりの良い、吹きだまった雪庇の上で暖を取りながら休んでいます。少しずつ春めいてきているとは言え、まだまだ太陽の温もりが恋しい季節です。

雪のふる森 エゾフクロウ

 春が少しずつ近づいています。流氷が知床半島を越え、根室海峡へと南下を続けています。根室半島に流氷が接岸する頃には、湖沼でタンチョウの姿を目にするのも、そう遠くはありません。この日、朝から湿った雪が降り始めたので、久しぶりにエゾフクロウの棲む森へと向かいました。いつものようにミズナラの大木の洞で羽を休めています。しばらく遠くから観察を続けていると、いつもと少し様子が違います。フクロウが樹洞の中をしきりに覗いています。よく見ると、樹洞の奥からもう一羽が顔を覗かせていました。エゾフクロウも恋の季節を迎えているようです。

恋の季節 キタキツネ

 2月に入り、恋の季節を迎えたキタキツネの、仲睦まじい姿を見かけるようになってきました。夜中にキタキツネの寂しげな何とも言えない甘えた鳴き声で目を覚ます事が多くなり、昼夜を問わずメスへのアプローチを続けている様子です。そんなある日の早朝、ぐっすり眠るオスのキタキツネに出合いました。それから数日後、繁殖行動を続けて5回確認する事が出来ました。粘り強く続けてきたアプローチがようやく実ったのです。きっと春には、元気な仔ギツネたちが顔を見せてくれる事でしょう。いのちの物語は、連綿と繰り広げられていきます。

春の兆し オオハクチョウ

 立春を迎えて日も長くなり、日差しも強くなってきました。厳しい寒さの峠を越えて、春へと向かっているのを日一日と感じます。けれども、オオハクチョウは一日の多くを体を丸めて体力を温存し、寒さをやり過ごしています。そんな動物たちの、健気に生きる姿にいつも勇気をもらいます。春の兆しは、もう少し先になりそうです。

厳冬が織りなすハーモニー

 結氷を始めた湖は、寒暖差の影響で氷が膨張と収縮を繰り返し、厚みを増しています。その際、湖が鳴いているかのように高低音が混在した神秘的な轟音が木霊します。また強風の後、湖岸を歩けば変化に富んだ氷の光景が広がり、新たな景色との出合いに心踊ります。ここでも、また多彩な音が聴こえてきます。厚い氷や薄い氷が擦れる音、そして水の音、冷気を伝う風の音、共鳴する冬が織りなすハーモニーに感性が刺激されます。けれども美しく輝く氷の造形も、ひと雪降れば雪原へと変わり消えてしまいます。冬の光景は、とめどなく移ろい続けています。

雪深い森のなか エゾシカ

 今朝も氷点下18度と寒い朝を迎えました。雪深い森の中に足を踏み入れると、無数のエゾシカの足跡が森の奥まで続いていました。森の至る所に雪を掘り起こし採餌した植物の食痕と、体温で雪が解け氷板になった寝床が見られます。50cm以上の積雪で移動や採餌、全ての活動において体力を多く失うため、エゾシカにとって過酷な季節の到来です。そのため、春までに力尽きる個体も少なくはありません。そんな森のなかで、寄り添いながら逞しく生きるエゾシカの親子に出合いました。まだ仔ジカは小さく、あどけない顔つきをしていますが、その表情や眼差しから、この冬を耐え抜く力強さが感じられました。

イタヤカエデの樹液 ヒヨドリ

 イタヤカエデの枝先から滴ったほんのり甘い樹液が氷柱となり、それを目当てに多くの生き物たちがやって来ます。エゾリスにミヤマカケスにヒヨドリ、シマエナガやハシブトガラ等、次々と順番を待っていたかのように集まって来ます。氷柱ごと咥えるものや舐めるもの等、各々食べ方に特徴があります。この一本のイタヤカエデの老木が、厳冬に生きる多くの生命を育んでいます。

樹氷の森

 道東内陸部の寒さは、オホーツク海を南下する流氷の動きに伴い増しています。連日の真冬日で森や湖、あらゆるものが凍結しはじめていますが、動物たちは力強く生きています。樹氷を纏った針葉樹の森のなかで、一羽のクマゲラが甲高い鳴き声を発しながら、雪降る森の奥へと消えて行きました。この先も、厳しい寒さは続きそうです。

薄明のなか ノスリ

 薄明のなか一羽のノスリが霧氷を纏った樹上に舞い降りました。すぐに周囲を見渡しネズミ等を探してますが、積雪が増し簡単には見つからない様子です。時に餌となるベニヒワ等の冬鳥の姿も少なく、この冬を越す事が簡単ではないように感じます。近年、ユキホオジロやベニヒワ等の小柄な冬鳥の姿を目にする事が少なくなっており、渡り鳥の飛来数からも自然のリズムが変わっていることを実感します。

月光と霧氷

 昨晩は二日間ほど続いた暴風雪が収まり、白銀の稜線から月が顔を見せました。写真は数日前に撮影したものですが、月明かりに照らされた霧氷が何とも幻想的で美しく、しばらくの間見とれていました。

マジックアワー タンチョウ

 薄明の時間帯は、時に魔法をかけたような世界を見せてくれます。今朝は氷点下5℃、この時期にしては温かい朝を迎えました。写真のタンチョウの雌雄は、日の出とともに羽づくろいをはじめ、餌場へと飛び立っていきました。

ダイヤモンドダストと霧氷の共演

 今朝は昨日までの穏やかな天候が一変し、急発達した低気圧の影響で暴風雪となっています。予想以上に気温が高く、湿った重たい雪で雪掻きも一仕事です。写真は一昨日に氷点下20℃で撮影したものですが、今後しばらくの間は暖気と風の影響が続きそうなので、霧氷やダイヤモンドダストを見ることは叶わないでしょう。

幻想的な世界 オオハクチョウ

 毎日のように霧氷に包まれた幻想的な景色のなかで朝を迎えています。気温は零下20度ほどですが、風が弱いため、それほどの寒さは感じません。そんな白銀の世界で、多くの動物たちが密やかに息づいています。この日は、3羽のオオハクチョウが河川の緩やかな流れの場所で、羽根を休め、暖かくなるのをじっと待っていました。

陽光 ホオジロガモ

 北海道は強い寒気の影響で真冬日が続いています。白銀の世界で羽根を休める水鳥たちに、雪曇の合間から陽が射し込むと景色が一変しました。冬はどの季節よりも、光の有り難さが身に沁みます。

新年のご挨拶

 昨年も多くの動物たちとの素晴らしい出合いに恵まれました。そのなかでも、5年ぶりに知床の森でヒグマの撮影に臨み、親子グマと共有した時間が何よりも感慨深いものになりました。2009年に大雪山の稜線で、約3ヶ月に及ぶキャンプをしながら、夢想だにしなかった親子グマの授乳シーンを目の当たりした時の感動に似た感覚が身体中を駆け巡りました。12月18日を最後に、この親子グマを見ていませんが、今頃は知床の深い森のなかで、鼾をかきながらスヤスヤと身を寄せ合って眠っている事でしょう。

 

 本年が皆様にとって健やかな一年になりますことを、心よりお祈り申し上げます。

厳寒の朝 タンチョウ

 今朝も気温が氷点下21度まで下がり連日厳寒の朝を迎えています。僕にとっては心踊る寒さなのですが、動物たちにとって過酷な季節の訪れです。河川で夜を越したタンチョウは、寒さのため、太陽が昇っても動く気配はありません。日の出から一時間後にようやく餌を探しに動きはじめました。動物たちは、寒さが厳しくなればなるほど活動が鈍くなります。

氷点下20℃の世界 ダイヤモンドダスト

 ようやくこの時期らしい寒さになってきました。この数日、氷つくような寒さのため未明3時に一度目を覚まし、もう一度蓑虫のように布団に潜り込む日々が続いています。ただ、この厳寒でしか見る事の出来ない光景が僕のモチベーションになっている事は間違いありません。今朝も氷点下20℃まで気温が下がり、刻一刻と変わる厳寒の自然美を見せてくれました。

厳冬のはじまり オオハクチョウ

 この数日氷点下15度前後 まで冷え込む朝を迎え、ようやく冬らしい寒さになってきました。一夜にして平地も銀世界へと 変わり、このまま根雪になるでしょう。結氷を始めた湖沼にオオハクチョウの姿を見つけました。これからしばらくの間、この氷上が安眠の場所になりそうです。

いのちの連鎖 オオワシ

 12月の中旬に入り、河川の中流域を遡上するシロザの姿もめっきり少なくなってきました。それに伴い、産卵を終えて力尽きたシロザケを目当てに河畔林に集まって来る海鷲の姿も日に日に少なくなってきています。時に遥か上流域の山麓まで遡上するサケマスの命が、多くの生命の糧となり、豊かな生態系を育んでいます。

小春日和 オオワシ

 越冬のためにロシアから渡ってきたオオワシやオジロワシが河川を遡上するシロザケを目当てに集まって来ています。平地は変わらず暖かい日が続き、季節感のない景色が広っています。そのためか遥か彼方に 望む雪山が、いっそうと美しく輝いているように感じられます。

暖冬 エゾシカ

 近年、暖冬が続いていますが、今冬ほど温かく、小雪の初冬を迎えるのは初めてのように思います。当初、ラニーニャ現象の影響で厳冬になると期待していたのですが、温かい日か続いています。しかし北国に生きるる人や動物たちにとっては、有難い気候と温もりなのかもしれませんね。エゾシカが、日だまりで気持ち良さそうに休んでいました。

ドキュメンタリー映画「GUNDA / グンダ」のご紹介

  先日、ドキュメンタリー映画「GUNDA/グンダ」を拝見し、コメントを書かせていただきました。このようなドキュメンタリー映画が、日本の多くの皆様の目に触れる機会が増える事を願っています。12月10日(金)から全国順次ロードショーされます。是非、映画館に足を運んでみて下さい。

銀世界 オオワシ

 強い北西の風がもたらせた雪雲が、一夜のうちに知床の山裾を晩秋から白銀の世界へと一変させました。そのおかげで、この一月ほど毎日早朝から通う見慣れた景色が、違う空間に感じられ新鮮な気持ちで朝を迎える事が出来ました。毎年この時期になると、真っ白な新雪を見る度に心踊るのですから、やはりこの季節が好きなんだな、と自分ながらそう感じます。もうしばらく、知床の森で動物たちの生活を観察したいと思っています。

 

ヒグマとの時間

 動物や鳥たちの澄んだ瞳はどれも美しく魅力的で、いつも吸い込まれそうな感覚を覚えます。そのなかでも一際美しく、つぶらな瞳を持つヒグマに見つめられると、全てを見透かされているような感覚に陥ります。森のなかで彼らと向き合う度に、偽りのない世界に触れている事に喜びを感じ、幸福感で満たされます。そして何よりもヒグマと対峙する時間は、自分自身を見つめ直す大切な時間でもあります。

冬の足音

 いま知床は、季節が足踏みしている様子です。山麓の森に初雪が降るのを待っているのですが、なかなか思うようには自然は動いてはくれません。知床連山の頂は白いべェールに包まれ、その崇高な山容から、簡単にはその世界に触れられない事が分かります。動物や鳥たちは、山麓へと移動したものもいれば、そのまま長い長い眠りについたものもいるのでしょう。本格的な冬の足音は、もうそこまでやって来ているのですが、もう少し時間がかかりそうです。

河畔林のオオワシ

 知床の河畔林に越冬のため渡ってきたオオワシの姿を場所によっては20羽ほど見かけるようになってきましたが、全体的には少ない様子です。河川を遡上する秋鮭を目当てに、ここにやって来るのですが、その鮭が極端に少なく、今後もこの河畔林でオオワシの姿を多く見ることはないように思います。

不思議な出合い エゾシカ

 近年、知床でエゾシカを目にする事が少なくなり、今季もなかなか思うような撮影が出来ていませんでしたが、ようやく森のなかで立派な牡鹿と出合う事が叶いました。知床では珍しく警戒心の薄い牡鹿で、僕に出合うと「ついておいで」と言わんばかりに森の中へとゆっくりと進んで行きました。独特な獣臭を放つ牡鹿の10m後方を追うように笹薮を払い除けて進むと、苔むした倒木が転がる美しい森に出ました。そこで立ち止まった牡鹿は、大角で地面を掘り起こした後、大きな体を折りたたむように座り込み、休みはじめました。40分ほど経った頃でしょうか、若いメスジカ2頭が姿を見せ警戒音を発すると、牡鹿はすっと立ち上がり、その後を追うように森の奥へと足早に消えて行きました。いま思うと、何とも不思議な感覚を覚えた時間だった事に気づかされます。

羅臼岳とクマタカ

 晩秋から初冬へと移ろう知床の森で、この数日、毎日のようにクマタカを目にします。樹上からエゾライチョウやエゾタヌキ等の小動物を探しているのでしょうか。オオワシやオジロワシとは、またひと味違う精悍な姿が、知床の原生的な景色をより一層引き立ててくれています。

夏鳥の旅立ち イカル

 多くの夏鳥が南へと旅立つなか、知床の森で美しい囀りを最後まで聴かせてくれていたイカルも南へと旅立って行きました。この場所に足を運ぶ度に、イカルの囀りを楽しみにしていたのですが、もう聴こえてこないと思うと、すこし寂しい気持ちになります。これから夏鳥と交代するように、越冬のために北から渡ってくる冬鳥の姿を楽しみにするばかりです

知床の森 エゾシカ

 早朝、知床の森にすこし足を踏み入れると、ヒグマやエゾシカにエゾリス、エゾモモンガ等の動物たちに半径50m のエリア内で確認する事が出来ました。これまで多くの森を歩いてきましたが、同時にこれだけ多くの動物たちに出合えるのは、他に類を見ない知床の森の魅力の一つだと思います。多様な生命を育む、原始的で豊かな森が今も多く残されています。

ヒグマの森

 いま知床の森のなかで、ヒグマの個体識別をしながら観察を続けています。ヒグマも、人と同じようにみんな性格が各々違います。おっとりしているクマや警戒心の強いクマ、同じクマでも不機嫌な時や穏やかな時など、環境や状況に応じて色々な表情や行動を見せます。どこの森に入っても同じなのですが、ヒグマの多い知床の森に入る時には、特に動物たちの聖域に入らせてもらっている、と言う気持ちが強くなります。可能な限り、ヒグマの表情や動きを見ながら最適な距離を保ち、ヒグマの行動の妨げやストレスにつながらないように努めているのですが、この距離感を見極める事がとても難しく、最も大切な事だと思っています。

 初めてヒグマを目にした時、こんなに大きな動物が北海道の森に生息している事に、強い驚きと感動、そして衝撃を覚えました。その時感じたヒグマへの畏敬の念を胸に、この先もヒグマの撮影に臨みたいと思っています。

 

林床は黄色い絨毯 ヒグマ

 知床の森はイタヤカエデやカツラ等の黄葉が樹冠を美しく彩っていましたが、この数日の雨と風で多くが落葉し、いま秋色が林床を覆っています。そんな森のなかでヒグマは、堆積した落葉を掻き分けながら、ミズナラのドングリをひたすら食べています。これからやって来る長い冬に備え、脂肪を蓄えて日に日に大きくなっているように感じられます。黒々とした冬毛は、毛艶が一段と増し光沢を帯びてきました。着々と冬眠の備えが、進んでいるようです。

知床峠のダケカンバ

 昨日、今季初めてオオワシの姿を確認しました。青空のなか、雪化粧をした羅臼岳の頂から秋色を纏った裾野へと悠然と舞いながら消えて行きました。知床峠周辺のダケカンバは、早くも落葉を終え、長年強風に耐えしのいだ白い幹が山肌に強い存在感を醸し出していました。強風に揉まれ、折れ曲がった白い幹を見る度に、植物たちの強い生命力をひしひしと感じます。

秋の恵み コクワ(サルナシ)

 阿寒から知床の森へと移動して来ました。早くも知床の峰々は雪化粧をしています。森に入るとすぐに潮風と一緒に山ブドウやコクワなどの、熟れた果実の甘い香りが漂ってきました。ドングリも豊作とは言えませんが、それなりに林床に見られます。ヒグマやエゾシカ、ネズミ等の小動物が越冬出来るだけの秋の恵みが森で密やかに育まれています。

初雪 雀

 今朝、阿寒の森で初雪を迎えました。しっとりとした牡丹雪が紅葉と馴染み、少しの時間でしたが美しい世界を見せてくれました。

 

 写真の雀は、毎年この時期になると冬の寝床を探しに雌雄で此処にやって来ます。まだ今年の寝床は決まってないようですが、温かい寝床が早く見つかると良いですね。

冬支度 シマリス

 大雪山の頂に初雪が降り、山の動物たちも冬の備えに忙しそうです。シマリスが真っ赤になったウラジロナナカマドの果実を、丁寧に果肉だけを剥いて口一杯に頬張っていました。この山域に生息するシマリスは、10月下旬には長い長い冬眠に入ることでしょう。

冬鳥

 この数日、毎日のように白鳥のV字編隊が喉を鳴らしながら大雪山を越えて南下する姿を目にします。越冬のため、幼鳥を連れてシベリアから長い長い旅を続けて来たのです。昨晩は上弦の月と星々が瞬くなか、頭上を飛んでいるのを、鳴き声から確認する事が出来ました。まるで、お互いを励まし合うように、力強い鳴き声が夜空に響きわたっていました。

 9月上旬に大雪山の稜線から始まった秋色は、早くも平地まで駆け下りてきました。もう平地でも、いつ初雪が降っても不思議ではない季節です。

夜明けの樹海

 まだ夜に包まれた大雪山の麓で、太陽が顔を出すのを待つことにしました。下弦の月が眼下に広がる樹海を照らし、樹冠の輪郭を微かに描きだしてくれています。時折、遠くから聴こえてくるエゾフクロウの鳴き声に、耳を澄まし、その方角を確認します。秋はエゾフクロウにとっても、一年の中で最も栄養を蓄えなければならない季節です。夜が明ける間際まで、狩に精を出しているのでしょう。やがて、陽光が差し込み始めると、靄のなかから秋色に染まった樹海が顔を出し始めました。

錦秋水面 大雪山

 いま大雪山の山裾を染める秋色を求めて広範囲を移動しています。日一日と色濃くなる山肌を染める錦秋に心ときめかせ、新たな風景との出合いを探しています。森の奥からは、繁殖期を迎えた雄鹿の鳴き声を多く耳にするようになってきました。季節は一歩ずつ冬へと近づき、美しい秋も終わりに近づいています。毎年名残惜しく過ぎてゆく季節に、あと何度出合えるのだろうか。そんなことを考えると、すこしの寂しさと焦りが入り交じった感情が体の内から芽生えてきます。

錦秋 大雪山

 今季の紅葉は、ウラジロナナカマドの赤とダケカンバの黄色が競うよう色づいています。例年、ナナカマドの落葉が始まる頃にダケカンバの黄色が色づき始めるのですが、日照りの影響もあってなのか鮮やかな秋色がいま山肌を彩っています。

有終の美

 大雪山の山麓も氷点下まで気温が下がり初霜がおりました。陽光にきらめく葉たちは、有終の美を飾るようにひらひらと舞い落ちていきます。季節は移ろい続け、もう秋も終わりに近づいています。

山裾へ 大雪山の紅葉

 大雪山の紅葉のピークは、稜線から山裾へと勢い良く駆け下りてきました。忙しく貯食行動に励んでいた稜線のシマリスは、もう間も無く長い長い眠りにつくことでしょう。

雲海の朝 大雪山

 東の空から星が一つ、また一つと消えはじめると、薄闇の中から山間を縫うように流れる雲海が少しずつ見えはじめました。うねりながらゆっくりと山々をのみ込むように流れる雲海が薄紫色に染まりはじめると、ハイマツの茂みから一羽のカヤクグリが顔を覗かせ、ハイマツの海へと飛び立っていきました。

初雪の気配 大雪山

 大雪山は早くも初雪の気配を感じるほど、気温が下がっています。早朝の稜線を歩くと初霜に霜柱や薄氷が見られ、草紅葉は早くも黒ずみはじめています。紅葉前線は近年に見られないスピードで山麓へと駆け下り、美しい山容を見せてくれています。

大雪山の紅葉

 この夏続いた日照りの影響もあり、平地の植物は紅葉する前に落葉や黒褐色するものが目立ち、山の紅葉も諦めていたのですが、いざ大雪山の稜線に立つと、目の覚めるような光景が広がっていました。ただただ美しいと、心から思える紅葉です。

エクリプス(夏羽) オシドリ

 鬱蒼とした森の中の小さな湖沼で、オシドリの雌雄が羽を休めていました。この時期は非繁殖期のため、雌雄を羽毛で判別するのが難しい季節ですが、夏羽から冬羽へと少しずつ換羽が始まっています。あと一月もすれば、繁殖期(10月~5月頃)を迎えたオスドリが、美しい銀杏羽(冬羽)を纏った姿を見せてくれることでしょう。

夕凪  アオサギ

 夕暮れ近くの湖沼に、何処からともなく一羽のアオサギが飛んで来ました。周囲の様子を伺った後、風が止み鏡のようになった水面を一歩ずつ、ゆっくりと歩きながら小魚を探しています。太陽が山にかかる頃、首を長く伸ばしたアオサギの周囲を、小魚の群れが水飛沫を上げてジャンプしながら逃げ惑っている姿が逆光に浮かび上がってきました。黄金色に輝く光が、命の攻防をより一層とドラマチックに演出しています。やがて、夜が辺りを包みはじめると、風波が立ち、アオサギは川下の方角へと飛んで行きました。

しずかな朝

 朝の美しい光景に出合いました。早朝の柔らかい光は、刻一刻と変化を続け、赤く染まった雲がゆっくりと東へ流れて行きます。冷え込んだ水面には朝霧と雲、深緑が共演し、辺りは静寂に包まれています。鏡面のような水面は、太陽が稜線から顔を出すと同時にさざ波が立ちはじめ、目の前の景色があっという間に一変しました。北の森は、もう秋の風が吹きはじめています。

早くも冬支度 ナキウサギ

 10年以上前に良く通った、大雪山の麓にあるナキウサギが生息するガレ場へと移動して来ました。毎回、このフィールドからの雄大な山容を望む度に、朝から夕暮れまでナキウサギやシマリス、オコジョを追いかけていた懐かしい記憶がよみがえってきます。当時と比べれば、ナキウサギの鳴き声が少なく、個体数も減少しているように思います。今回、この山麓で半日ぼどの観察で、タイミング良く仔ナキウサギに出合えました。早くも、越冬に備えて植物を貯食する行動が何度も見られ、山の動物たちは秋の訪れを感じているようです。高山で健気に生きる仔ナキウサギの表情や仕草、その全てに、こころ癒されます。

湖沼のハンター ミサゴ

 毎年、春先になると南から渡ってくるミサゴの生息地へと移動して来ました。10年ほど前から、山間に位置するこの湖沼で観察していますが、いつ見てもニジマスやアメマスを見事に捕らえる名ハンターです。とは言っても、狩りの成功率は3割ほどです。この個体は気象条件に合わせて、様々な狩りの方法を見せてくれます。無風の時には樹上に潜んで顔を大きく左右に振り、距離を計っています。風が吹き始めると上空へと飛び立ち、魚影の真上でホバリングをしながら狩りのタイミングを待っています。前記、後記ともに翼を畳んで一気に急降下し、鉤爪から水中に飛び込みます。雨の中では高速滑空をしながら魚影を探し、緩やかな角度で降下し狩りを行っていますが、狩りの成功率は更に下がり、苦労している様子です。

 まだ、このミサゴは仔育て真最中のようです。捕らえた魚は、毎回、同じ方角の山深い場所へと運んでいきます。営巣地を確認する事は出来ませんが、親鳥の帰りを待つ雛鳥の様子が目に浮かんできます。この秋、この湖沼で幼鳥が狩りをする姿が見られると良いのにな…と、稜線に小さく消えて行く親鳥の姿を追いながら思っています。

イチイ(オンコ)の果実 エゾリス

 北海道はお盆が過ぎると、もう秋だと言われていますが、一雨ごとに少しずつ季節は移ろいでいます。先日までの酷暑が嘘のように朝晩は冷え込み、木々や林床の植物は秋色へと染まり始め、早くも冬への備えに入った様子です。そんな森のなかで、赤い小さな果実を多く実らせたイチイの木に、エゾリスがやって来ました。僕も何度か口にした事がありますが、ほんのり甘くて美味しい果肉です。只、種子には「タキシン」と言う毒素があるので食べられません。なので、エゾリスも、器用に種だけを残して夢中に食べています。

 この果実を目当てにやって来るのは、エゾリスだけではありません。キタキツネやカラ類等の小鳥たちもやって来ます。有毒な種子ですが、キタキツネは種も一緒に食べていますし、シジュウカラは種だけを樹皮の隙間にせっせと貯食しています。森と言う一つの大きな生命体の中で、小さな命ひとつひとつが共存共栄しながら生きています。動物たちに見られるひとつひとつの行動にも意味がきっとあるのでしょうね。

清流のハンター ヤマセミ

 台風10号から変わった温帯低気圧が、太平洋の東へと遠ざかると、先日までの暑さが嘘のように大気が一変しました。朝の気温は6℃、ダウンジャケットと手袋が欲しくなる寒さです。湖沼は朝霧が立ち、右へ左へとまるで生き物のように渦巻きながら流動しています。そんな中、薄明からヤマセミの親仔が、鋭い声で鳴きながら湖畔林を行き来していました。樹上や倒木から、鏡面のような水面へダイブして小魚を捕える姿が見られます。その巧みな狩りの様子から「清流のハンター」と呼ばれる由縁も納得できます。いまヤマセミの幼鳥も、原生林に囲まれた自然豊かなこの湖沼で、親鳥から多くを学んでいます。

森の恵み タモギダケ

 待ちに待った雨の翌日の森のなかで、沢を跨いだ倒木に黄色いキノコが顔を出していました。短い夏に、ニレの倒木に群生する事が多いタモギダケです。鬱蒼とした森のなかで、木漏れ日が当たると黄金色に輝き、この森の景色の彩りを一層と美しいものにしてくれています。辺りは微風に乗り、ほのかにタモギダケの甘い香りが漂ってきます。以前、ヒグマが、この香りに誘われてタモギダケを食べている姿を目にした事があります。ヒグマの他にもエゾリス等も好んで採食しています。森の恵みは、多くの生命の糧となり、育んでいます。

針葉樹の森で クマゲラ (幼鳥)

 記録的な猛暑が続いている北の森ですが、クマゲラの幼鳥3羽がすくすくと成長し、逞しく生きています。もう親鳥と見分けがつかないほど成長し、深い青色だった虹彩も白色へと変わっています。まだ親鳥からの給餌に頼る場面も見られますが、自ら針葉樹の森で蟻等の昆虫を採食しています。この森で親鳥と一緒に行動し、兄妹が共に学ぶ時間も、そう長くはないでしょう。

ネムロコウホネの咲く湖沼 タンチョウ

 原生林に囲まれた静かな湖沼で、一羽の幼鳥を連れたタンチョウの親仔に出合いました。緑映える水面に咲く黄色い可憐なネムロコウホネが、見頃を迎えています。孵化後、すくすく大きく成長した幼鳥ですが、まだ飛ぶことは出来ません。今も、親鳥に守られながらの給餌に頼っていますが、単独での行動も目立つようになってきました。親鳥が少しでも目を離すと、その様子を樹上から伺っているオジロワシが、幼鳥に襲いかかろうとする場面が見られます。その度に危険を察知した親鳥が、すぐに幼鳥の元に飛んで行き、嘴を空に向けて鳴き威嚇します。しばらくの間、雌雄の甲高い鳴き声が森のなかに響き渡っていました。タンチョウの親鳥は、まだ一月ほどは油断の出来ない日々が続きそうです。

日照り オオルリ(メス)

 依然として北の森は日照りと酷暑が続き、林床の植物も枯れ始めているものも見られます。この暑さのせいもあってか、森のなかの鳥たちの囀りや動物たちの動きが、例年に比べ少ないように感じます。そんななか、オオルリのメスが姿を見せてくれました。美しく澄んだ声で鳴くオスと比べ、少し控え目な囀りですが、またこの囀りも良いものです。山麓の森の中の様相も、少しずつ秋へと移りはじめています。

優しい囀り ウソ

「フィーフィー、フィー」口笛のように何とも優しい歌声が、薄暗い森の奥から少しずつ近づいてきます。やがて、その声の主が目の前に現れました。「ウソ」の雌雄です。針葉樹林帯で繁殖をする鳥ですが、囀りは良く耳にするものの、なかなかその姿をこの時期に確認する事ができません。今回はタイミング良く、しばらくの間、林床の植物を頬張ってくれました。ウソの涼しげな囀りが、この暑さを少しだけ忘れさせくれます。

夏山へ ギンザンマシコ

 早朝、知床に位置する夏本番を迎えた山の頂上を沢筋のルートから目指しました。気温は30℃を超えていますが、豊富な水量がもたらすマイナスイオンを含んだ冷気が流域を包み、暑さを和らげてくれています。登りの途中、森林帯ではエゾクロテンやシマリスが顔を見せてくれ、森林限界を越えたハイマツ帯では、ギンザンマシコやノゴマ、カヤクグリ等の高山の鳥たちの美しい囀ずりに迎えられました。深い緑の夏山やオホーツクブルーの景観だけでなく、動物たちとの出合いが色濃い山行にしてくれました。山頂付近には、早くも青紫色の秋の花「イワギキョウ」が咲き始めていました。

猛暑日 エゾユキウサギ

 北海道各地で日照りが続き、農家さんは作物の生育に頭を抱えています。連日の酷暑に参っているのは、人も動物たちもみな同じようです。山麓の林床で地面を掘り起こして昼寝をしているエゾユキウサギに出合いました。休んでいると言うよりかは、この暑さに伸びていると言った方が良いかもしれません。草地より土の方が冷たくて心地良いのでしょう。普段、警戒心の強いウサギですが、近づいても全く警戒する様子はありません。これまで、繁殖期には大胆な行動を見せるウサギを見てきましたが、僕のなかの常識を更に上回る行動を目の当たりにし、驚きを隠せません。時に動物たちは、想像を超えた行動を見せてくれます。環境の変化に適応し、類い稀な個性を持った個体に出合うことも少なくはありません。そんな個性溢れる動物たちに出合うために、山や森を歩き続けています。

夏、まっ盛り キビタキ

 いよいよ北の森にも本格的な夏がやってきました。連日、30℃ほどの暑さが続き、午後になるともくもくと積雲が湧いてきます。動物や鳥たちの仔育てのシ-ズンも終わりに近づき、巣立ちを終えたヒナ鳥の姿も多く見かけるようになってきました。今、この森で早朝から美しい囀ずりを聴かせてくれるのはキビタキです。この夏鳥の囀ずりが、森に響き渡る日も、そう長くはないと思うと少し寂しい思いになります。季節は止めどなく移ろいでいます。

雨上がりの森 ミドリシジミ

 早朝の雨上がりの森ほど清々しい気持ちにさせてくれるものはありません。草木の甘い香りや小鳥たちの囀ずり、瑞々しい深い緑に包まれた森が深呼吸するかのように多彩な雨音が聴こえてきます。そんな森の中で、一際美しい小さな蝶と出合いました。森林に生息し、ゼフイルスに属するミドリシジミの仲間です。ターコイズブルーの羽を数秒間隔で開いたり閉じたりしています。羽を開いた瞬間、煌めく宝石のようなその美しさに虜になってしまいました。森に光が差し込むと、樹冠へと舞い上がり、テリトリーに侵入してきた他の雄を追いかけはじめました。深緑のなか乱舞するその姿は、幻想的な世界を映し出してくれていました。

エゾシカの親仔

 この数日、森の中でエゾモモンガの仔が穴から顔を覗かせるのを、今か今かと期待しながら待ち続けているのですが、なかなかその姿を見せてはくれません。苔むした倒木に腰を下ろし身を潜め待ち続けていると、まだおぼつかない足取りの仔鹿が、母鹿の後を追って鬱蒼とした森の中を連なって歩いてきました。15mほどの近距離なのですが、全く此方に気づいていない様子です。しばらく時間をおいて、そっとその後を追いかけると、少し開けた草地で親仔の仲睦まじい姿を見ることが出来ました。親仔の強い絆は、いつ見ても微笑ましいものです。

しずかな旅立ち ヤマゲラ

 この森に移動してきた目的は、クマゲラの仔育ての撮影でしたが、タイミングが合わずに、それは叶いませんでした。その代わりにヤマゲラの営巣木を2箇所見つけることが出来ました。クマゲラやアカゲラと比べ、比較的静かに仔育てを行うので出合うのが難しいキツツキの仲間です。その一つの営巣木は、ヒナ鳥が顔を出して鳴き続け、巣立ちが間もないことが分かります。早速、そこにブラインドを張って様子を見ることにしました。早朝4時前から15時間の観察を続け、時に豪雨と雷鳴が轟くなか、2日かけて7羽のヒナ鳥が巧みな親鳥の誘導によって旅立って行きました。これから小さな命、ひとつひとつが逞しくこの森で生きていくことでしょう。

 
 

山裾の森へ エゾライチョウ

 エゾフクロウの森を離れ、大雪山系の山裾に広がる森へと移動してきました。早速、森に入るとエゾライチョウの親仔と遭遇しました。親鳥の後を歩くヒナ鳥の大きさから孵化後2~3日頃だと思われます。いま森の中は、巣立ちを終えたヒナ鳥たちの鳴き声で賑わっています。

つながるいのち エゾフクロウとアカハラ

 約一月にわたってエゾフクロウの親仔の観察を続けてきましたが、今回初めてネズミ以外の給餌を確認しました。この森で春先から美しい囀ずりを聴かせてくれたアカハラです。きっとこの森のどこかで忙しく仔育てに励んでいたことと思います。何も知らないヒナ鳥たちは、今も親鳥の帰りを待ち続けているのでしょう。とても残酷なようですが、自然界では密やかに繰り広げられている命の営みです。ひとつの命がひとつの命を育んでいるのです。そうして、全ての命はつながっていきます。

緑深まる森 シジュウカラ

 森の緑が深まるにつれ、虫たちも多く飛び交うようになりました。それに伴いシジュウカラの仔育ても終盤に入り、給餌も忙しそうです。早い時には、雌雄で30秒おきに餌となる昆虫を運んでいます。もう間もなく、巣立ちの時がやって来ます。

エゾハルゼミの鳴く森で エゾフクロウ

 森は樹冠を覆うように葉が茂り、エゾハルゼミが勢いよく鳴いています。エゾフクロウのヒナたちは、母親の後を追い鬱蒼とした森を飛び回るまでに成長しています。そのため毎朝、その姿を探すのが大変になってきました。親鳥が餌を捕獲し、鳴き声で給餌の合図を出すと、ヒナ鳥は一回でも多く餌がもらえるように、高い枝先へと移動しその鳴き声に応えます。その鳴き声を頼りに森を歩き探しているのですが、緑が深まりそう簡単には出合えません。この頃になると餌を求めて集まった三羽のヒナ鳥が寄り添い、仲睦まじい姿を見せくれます。ほのぼのとした心休まる時間が、エゾハルゼミが鳴く森の中でしばらくの間流れていました。

森が育むいのち エゾフクロウ

 今朝は、まだ暗い3時前にセンダイムシクイの囀ずりで目を覚ましました。鳥たちの囀ずりひとつにも、季節の変化を感じる事が出来ます。3羽のエゾフクロウのヒナたちは、木々を自由に飛び回るまでにすくすくと成長しています。巣立ち間もない頃には、親鳥が日中に何度もネズミを給餌していましたが、その回数も減り仔育ても一段落した様子です。1日森にいると、日一日と緑が深まり、移ろいでいく景色の中に多くの命が育まれていることに気づかされます。

SONY「a Universe」に記事が掲載されています

Sony a Universeに「a 7SⅢで捉える野生動物の世界」、4K動画と写真とともに記事が公開されています。是非、ご覧下さい。

初夏 ツツドリ

「ポッポッ、ポッポッ・・・」森の中で日に何度かツツドリが繰り返し鳴く姿を見かけるようになってきました。センダイムシクイ等の小鳥に托卵するチャンスを伺っている様子です。北の森で夏鳥のカッコウやツツドリの鳴き声が聴こえ始めると、みじかい夏のはじまりです。

いのちの攻防 エゾフクロウ

 この森のエゾフクロウの雌雄は、惚れ惚れするほど巧みに狩りを行います。木々を移動しながら横枝に止まると、顔を回しながら林床を覗きこみ始めました。パラボラアンテナのような顔で集音し、気配を感じると一瞬にして林床に飛び込みます。エゾフクロウは羽音を立てないので、林床に敷き詰められたミズナラの枯れ葉に飛び込んだ時の「バサッ」という音で、狩り場を確認する事も少なくありません。飛び込んだフクロウの鉤爪には必ずと言っていいほどアカネズミが掴まれています。これを日中に何度も繰り返すので、3羽のヒナ鳥はすくすく成長しています。新たな命の誕生で、いのちの攻防はさらに激しく、北の森で密やかに繰り広げられています。

新緑のなかで エゾフクロウ

 雨露を纏ったみずみずしい新緑のなか、二羽のエゾフクロウのヒナが巣立ちました。ミズナラの樹洞から3番仔も顔を覗かせています。親鳥は日中もネズミを捕獲し、ヒナ鳥に給餌しています。これからヒナ鳥は、親鳥の誘導で営巣木を離れ、餌の豊富な森の奥へと少しずつ木々を渡って移動します。

新しい森の仲間 エゾフクロウ

 北の森は朝から雨が降っています。昨日、ミズナラの樹洞からエゾフクロウのヒナが顔を見せてくれました。はじめて見る外の世界に興味津々のようで、小鳥の囀ずりや風に揺れる木々を、首をぐるぐる回して覗きこんでいます。春の陽気に誘われ、こくりこくりと居眠りする微笑ましい仕草も見せています。森に漂う緊張が一気に緩む瞬間です。何度見ても、ずっと見ていたい、そんな気持ちにさせてくれる、新しい森の仲間たちです。

真昼の狩り エゾフクロウ

 先日出合ったエゾフクロウの森を再び訪れると、日中にも関わらず「ゴロスケ・ホーホー」とオスのフクロウが繰り返し鳴きはじめました。鳴き声は、暗い松林の方向から聴こえてきます。すると間もなく、ミズナラの洞からフクロウが顔を見せました。洞から顔を覗かせたのはメスで、オスが餌を運んで来るのを待っている様子です。その行動から、この洞で仔育てをしているのは間違いありません。鳴き声を頼りに松林へと進むと、ネズミを捕らえたフクロウが、じっと視線を反らすことなく此方を見つめています。日中にも餌を運ぶ様子から、ヒナ鳥の数が多いのかもしれません。 まだ母鳥が洞に入っているので、ヒナ鳥の巣立ちはもう少し先になりそうです。

原生林

 何度訪れても、惚れ惚れしてしまう森を歩いています。林床は青々としたミズゴケに覆われ、足の踏み場を迷ってしまうほどです。至る場所で倒木更新が行われ、美しいリズムで生態系が連綿と循環しているのがわかります。日中夜問わず、多くの鳥たちの賑やかな囀ずりが聴こえてきます。アカハラやコマドリ、ルリビタキ、ミソサザイにクマゲラ、トラツグミ…の恋の歌が、この森の豊さを物語っています。昨日、真新しいヒグマの足跡を泥地で見ました。食痕から沢地沿いのフキを好んで食べているのがわかります。夏になれば冷涼地を求めて、この森のどこかで昼寝をしているのではないかと、歩きながら想像しています。

色づく森 エゾオオサクラソウ

 いま北の森は、小さな草花が一斉に咲きはじめています。20代の頃には、あまり興味を抱かなかった足下に咲く小さな花ですが、10年ほど前に高山で可憐に咲く花に魅せられてから、ふと立ち止まり気にするようになりました。日一日と色づいていく森のなかにいると、鳥や虫に植物、全ての生き物たちが短い夏を謳歌しているように感じられます。

萌ゆる森 エゾフクロウ

 昨日から冷たい雨が、降り続いています。タンチョウの親仔に別れを告げ、広葉樹が芽吹きはじめた森へと移動してきました。辺りが薄暗くなると、ミズナラの大木の洞からエゾフクロウが顔を見せてくれました。この洞の中でヒナ鳥を抱いていると思うのですが、この日はじめて確認したので状況は判りません。毎年、フクロウは繁殖をするとは限らないので、何とも言えないのです。もしも、この森で仔育てをしているのなら、広葉樹の葉がもう少し成長し、樹冠が緑で覆われた頃に、ヒナ鳥は顔を見せてくれるでしょう。また、一週間後に訪れてみようと思います。さらに、深い森へと移動します。

仲良し兄妹 タンチョウ

 タンチョウのひな鳥2羽は、すくすく成長し日に日に行動範囲を広げています。2番仔が孵化した当日は、一番仔が突っついたり押したりと、いじめる姿を見ましたが、もうその行動は見られません。親鳥の後を追って二羽が仲良く連なって歩き、疲れると寄り添って昼寝をしています。この親仔は、間もなく目の前の湿地を離れ奥深い湿原へと移動します。

誕生 タンチョウ

 南からの心地好い風が止めどなく吹いています。今朝8時52分、タンチョウの雌雄が約30日にわたって交替で温めてきた2つの卵のうちの1つが孵化しました。もう一つの卵は、あと1日か2日で孵化すると思われます。雛鳥2羽が揃うとタンチョウの親仔は2日ほどで営巣地を離れ、仔育てするのに環境の良い湿原の奥へと移動します。いま新緑萌える北の大地は、生命溢れ山川草木が輝きはじめています。

間もない旅立ち タンチョウ

 前回紹介したタンチョウの一番仔が誕生した後、翌々日には二番仔が顔を見せてくれました。一番仔は孵化して間もない2番仔を執拗に突っついていじめています。親鳥の愛情が半分になるのが面白くない様子ですが、いずれ仲良くなる事でしょう。今朝、二羽の雛鳥は親鳥の根気強い誘導に促され巣を離れて旅立ちました雛鳥は一本のヨシを越えるのもおぼつかない足取りで大変そうです。けれども親鳥の深い愛情に支えられ、この先の困難もきっと乗り越えていけると、この親仔の健気な姿から感じることができました。

春の雪 ミズバショウ

 朝からゴルフボールほどの牡丹雪が降っています。昨日までの賑やかな小鳥たちの囀ずりも消え、辺りはしーんと静まりかえっています。タンチョウやオジロワシの雛鳥たちも孵化を迎え顔を出す頃です。きっとこの雪のなかも、母鳥が小さな生命を優しく包み込んで守っているのでしょうね。

春風 キタキツネ

 この数日、早朝から夕暮れまでキタキツネの巣から少し離れた場所でブラインドを張って観察を続けています。母ギツネの行動から、目の前の地中で子育の真っ最中だと確信はしているものの、仔ギツネの姿を見るまでは不安でしかたありません。今回はその不安もすぐに解消されました。まだ黒毛を纏い歩くのもおぼつかない小さな小さな仔ギツネが顔を見せてくれました。確認できた三匹の仔ギツネの成長の度合いは、まばらですが、すくすくと成長し、ほのぼのとした表情や仕草を見せてくれています。この森にもオオルリやルリビタキの囀ずりが春風に乗って聴こえてきます。季節は止めどなく移ろいでいます。

水芭蕉が見頃を迎えた森のなかで キタキツネ

 水芭蕉が見頃を迎えた森の中でキタキツネと出合いました。良く見ると、お腹の乳房が膨らんでいるのがわかります。この森のどこかで子育てをしていると思われます。仔ギツネとの出合いが何時やってくるのか、そしてどんな表情や仕草を見せてくれるのか、いまから胸が高鳴ります。

ヒグマの気配 エゾユキウサギ

 ダケカンバの森でようやくエゾユキウサギに出合えました。僕を長い間待っていてくれたかのように微動だにせず、じっと此方を見つめています。春の締まった雪でウサギの足跡が残らず、勘だけを頼りに一時間ほど歩いた森の奥での遭遇です。足跡を辿って5~6時間歩いても簡単に出合えないのに本当に不思議なものです。その他にも、もう何時どこでばったり出合ってもおかしくないヒグマの気配に神経を尖らせ歩いていた事も功を奏したのかもしれません。

 今季は諦めかけていたウサギとの出合いに、幸福感と安堵が入り混じった何とも言えない感情が内から込み上げてきました。

移りゆく時のなかで トラツグミ(夏鳥)

 季節は、時の流れの一瞬でしかありません。解氷した水辺の表情は刻一刻と変わり、そこにとどまってなどくれません。冬鳥が一羽、また一羽と旅立つと翌日には夏鳥が渡ってきます。そんな移りゆく時のなかに、木々が揺れる森のなかに、繰り返す雨音のなかに空気のように僕を優しく包み込む仲間が何時もいることに、ふと気づかされます。

はじめて見る世界 エゾリス

 まだ雪深い山の斜面を登下降しながらエゾユキウサギを追って歩いています。春の固く締まった雪には、もうウサギの足跡は見られません。僕の他にもキタキツネが追跡している痕跡が見られ、ウサギの警戒心はより強くなっています。遠い木陰に美しい冬毛を纏い背筋をピンと伸ばしたウサギの姿は目にするのですが、簡単に寄せてはくれません。また今朝も痕跡が薄く、直ぐに見失ってしまいました。けれども人気の無い静かなこの山の尾根に上がれば、手に届くような高さをコハクチョウが鋭い羽音を立て頭上を越えて行きます。これまで聞いたことのない大気を裂く風切り羽の音に、驚きそして強い感動を覚えます。他にもエゾライチョウやエゾリス等の多くの動物たちがこの森に生息し、時間を持て余すことはありません。写真のエゾリスは、今日初めて人間を見たのでしょう。クルミを咥えたまま、しばらくじっと此方の様子を伺っていました。五分ほど経った頃でしょうか、手先を器用に使ってクルミの殻を割り美味しそうに食べ始めました。こんな山中なので、もう二度とこのエゾリスに合う事はないと思うと、より一層愛おしく感じます。

薄暮の森 エゾフクロウ

 名残惜しい冬の景色に誘われ、雪深い山間部へと車を走らせ再びエゾユキエザキの足跡を辿ることにしました。車窓から流れる景色は芽吹き始めたネコヤナギやフキノトウが、春色をより濃く演出し始めています。山の雪は春の固く締まった雪質で、歩くのにスキーやスノーシューの必要がありません。けれども肝心なウサギの足跡が残らず、感を頼りに歩き続けたのですが結局出合うことは叶いませんでしたその代わりに糞等の痕跡が多く残るエゾモモンガの巣穴を見つけました。巣穴の周囲に獣毛が多く付着しているので、ここに入っているのは間違いありません。そこで、夕暮れまで顔を出すのをじっと待ち続ける事にしました。しかし、エゾモモンガよりも早く顔を見せたのはエゾフクロウでした。羽音を立てずエゾモモンガの巣穴の近くの樹上にそっと止まり、エゾモモンガが出て来るのをじっと待っています。その様子からこの冬、壮大な命の攻防がこの森で繰り広げられていた事が想像できます。来季の冬、この森を再び訪れてみたいと思います。

シベリアへの旅 コハクチョウ

 この冬の道北エリアは積雪が多く湖沼の解氷が遅れていましたが、ようやく開いた水辺にコハクチョウが次々と羽を休めに集まり始めています。ここで羽を休めるのは10日ほどで、間もなくシベリアへ向かって北へと旅立ちます。彼らの長い長い旅の途中に目にする世界を一目見てみたいものです。きっと僕らの知らない絶景を眼下に旅をしているのでしょうね。

多様な生命の営み エゾモモンガ

 この森のエゾモモンガにもようやく春がやってきたようです。本来夜行性のエゾモモンガですが日中にも関わらず、巣穴から出て追いかけっこをしたり戯れたりと仲睦まじい姿を見せてくれています。この営みは年に1度か2度見られるエゾモモンガの求愛行動(春と夏に2度繁殖する個体もいる)で、この行動が見られるのは1日か2日ほどです。太古から続く多様な生命の営みが、これから森の片隅で密やかに繰り広げられていきます。

「春の森 Forest in spring」フォトギャラリーを更新しました

 やわらかい春の風と陽光が雪解けを進め、いま北の森は一斉に息吹き始めています。森の至る所から雪解け水が流れ、どこからともなく鳥たちが水浴びにやって来ます。恋の季節を迎え、絶え間なく囀ずる小鳥たち、雪から顔を出した落葉のなかをリズミカルに澄まし顔で歩くエゾシカの親仔。毎年この季節になると決まって繰り返される生命の営みです。山川草木あらゆる存在に生命が宿り、そこに秘められた新たな物語が始まります。連綿と受け継がれてきた森の生命の物語を「春の森 Forest in spring」から少しでも想像していただけたら嬉しく思います。

日一日と春に向かって ミソサザイ

 数日前から数羽のミソサザイがテリトリーを回りながら絶え間なく囀ずり始めました。この森で一際美しく大きな囀ずりです。早くも林床には暗紫色のザゼンソウが、湿地には白いミズバショウが顔を見せ始めました。春は思いのほか早く訪れそうです。

小さな春 福寿草

 森の中を歩いていると足下に一輪の福寿草が美しい花を開かせていました。福寿草を探し歩いていたわけではありませんが、タイミング良く出合うことが出来ました。辺りの林床を見回しても今咲いているのはこの一輪だけです。毎年この花を見るともう春だな、と細やかな幸せを感じます。雪解けが進むと同時に、張り詰めていた冬の間の緊張感が少しずつ動物や鳥の行動から、そして自分の内面から解かれていくのを感じます。もうすぐ、待望の春がやって来ます。

春の陽気に誘われて エゾモモンガ

 21日(日)の雪で真っ白になった北の森ですが、翌日には瞬く間に消えてなくなりました。この数日、最高気温が10度前後とぽかぽか陽気が続き、春へと急加速しています。そんな陽気に誘われて、小鳥たちの美しい囀ずりが森中に響き渡っています。その美しい囀りに誘われるかのようにエゾモモンガが巣穴から顔を出してくれました。来月下旬には、この森のどこかで小さな生命が誕生します。

春の嵐 キタキツネ

 夜中から降りだした雪が、明朝には吹雪となり春めいてきた景色は忽ち雪景色へと逆戻りしました。そんななか、キタキツネが原生花園の中でじっと体を丸め暴風雪をやり過ごしていました。一見微動すらしないように見えますが、呼吸をする度に身体を震わせています。今回、初めて出合ったキタキツネですが、その鼓動のタイミングに合わせるようにそっと少しずつ距離を詰め、近距離まで近づくことができました。僕の気配を察しているものの気にしていない様子で、ぐっすり休んでいます。時々、目をつむりながらも雪の下のネズミの気配を感じ、耳を小刻みに動かしています。この3時間ほどの間に2度突然飛び起き、むき出しの野生でネズミのハンティングを試みましたが成功することはありませんでした。名ハンターのキタキツネでも、狩りはそう簡単にはいかないようですね。

やわらかい春の日差し ハシブトガラス

 まだ植物が芽吹くまで少し早い北の森ですが、じっと一人森で過ごしていると春の訪れを感じます。やわらかい日差しの下、小鳥たちの囀ずりが日一日と賑やかになり、アカゲラの求愛行動も始まりました。そんななか、テリトリーを主張して一際騒がしく飛び回っているのがハシブトガラスです。その様子から間もなく巣材運びを始めるでしょう。いま北の森は駆け足で季節が移ろい、動物たちは子育ての準備に追われています。

もう少し キタキツネ 

 キタキツネが雪原を足早に移動し小動物を探しています。今季、餌場を転々とするフクロウやキツネの動きを見ていると、主食のネズミの数が少ないように感じます。あと一月ほどでキタキツネは出産を迎え、森の生命は一斉に息吹き始めます。長い冬が終わりを告げ、待望の春が訪れます。

北帰行 オオハクチョウ

 日一日と陽光が強まり、北海道にも春の足音が近づいています。北海道東部の湖沼に繁殖のために北へ帰るオオハクチョウが、羽を休めに次々と集まっています。繁殖地のシベリアまで、長い長い旅がまだ始まったばかりです。しばらくの間、この地で休息をとって北へと旅立ちます。

 

夜明けの闘い エゾユキウサギの足跡

 すっかり春めいてきた平地の森は、早くも福寿草が顔を出す勢いで雪解けが進んでいます。まだ冬が名残惜しい僕は、冬の情景を求めて山へウサギやキツネの足跡を追って日の出前から歩き始めました。歩き始めて間もなく、尾根伝いにカッラン、カッランと乾いた音が響き渡ってきました。牡鹿の角突きの音です。耳を澄まし、その音の出所を確認して急いで沢を駆け下ります。幸運なことに、硬い雪を踏みつける大きな音にも牡鹿は気づいていないようです。あと一月ほどで抜け落ちる立派な角を惜しんでいるかのように、山並みを背景に激しく角を突き合って闘っています。少しずつ陽が当たり始めた尾根伝いに、しばらくの間その乾いた音は響き渡っていました。

雪から雨、霧氷から雨氷へ

 昨日の朝、暗雲に覆われた山へ車を走らせました。お昼前には雪から変わった雨が樹木を氷で包み始め、今季2度目に見る雨氷となりました。薄暮まで雲間から差す微かな光を待ちましたが、その光景に出合う事は叶いませんでした。山で一夜を越し、今朝は眩い黄金色の光が稜線に差し込み、樹木を覆った雨氷が少しずつ暗闇から浮かびあがってきました。目を凝らして樹林帯に潜むエゾシカやキタキツネの姿を探しましたが見つけることが出来ません。きっと、暴風雨から逃れ森の奥へと避難しているのでしょうね。

つながる生命 オジロワシ

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 毎年、雪解けが進むこの時期になると長い冬の厳しさで体力を失い、力尽きる動物たちの姿を目にします。この日もキタキツネとエゾシカの変わり果てた姿を続けざまに見ました。それを目当てにカラスやキツネ、海鷲が集まっています。写真のオジロワシ(右下)はこの地域をテリトリーとし繁殖をしている個体です。もう間もなくすると産卵をし、新しい生命を育みます。ひとつの生命の死は、新しい生命のはじまりです。全ての生命はつながりをもって息づいています。

雨氷の森 エゾシカ

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 森の全てが雨氷に覆われ、森は宝石のようにキラキラと輝いています。一夜にして魔法にかけられたかのような森のなかへと、誘い込まれるように森の奥、奥へと入って行きます。時間のことなど忘れて夢中になって動物たちを探し続けました。この森のどれもが美しいのですが、五感で感じる以上のものを映像で伝えることは難しいと歩きながら薄々感じていました。この先、こんな光景にあと何度出合えるのでしょうか、自然の神秘さに感動し、改めて畏敬の念を抱く一日でした。

雨氷 オジロワシ

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 一昨日の雨が美しい自然の光景をもたらせてくれました。樹木がガラス細工のようにキラキラと輝きながら、強風に揺られてカランカランと音を立てています。この自然現象は「雨氷」と呼ばれ、僕自身5年ぶりに目にする光景です。一昨日、雨模様になった時点で雨氷になると想定はしていたので、夜のうちに移動し早朝からフィールドに入って海鷲やエゾシカの撮影をする事が出来ました。このような条件に巡り合うことは希少なので、早朝から夕暮れまで、休むことなく撮影を続け、充実した素晴らしい一日となりました。自然の恩恵と幸運に感謝です。

また、雪の日に タンチョウ

 吹雪や大雪予報の前日は、翌日の被写体を決めるのに風速や風向き、気温等の予報を参考にしながら計画を立てます。いま降雪が少ない道東エリアで撮影しているので、雪の日は貴重です。今朝、目を覚ました海沿いでは予報に反してみぞれ混じりの雨、急いで更に低温で風が比較的弱い内陸部へと車を走らせました。夕暮れまで待ってみたのですが、ここでもイメージしていた牡丹雪が降る事はありませんでした。また雪の日に、この場所を訪れてみたいと思っています。

不漁とともに オジロワシ

 昨年の秋鮭漁や今季の氷下待ち網漁の不漁もあって道東の海鷲の数が明らかに少ないように感じます。例年だと風蓮湖の漁場周辺の氷上が海鷲の黒で一色に染まるのですが、今季はその光景が見られません。近年、不漁が続く北海道の海ですが、それに伴って動物や鳥たちの動向も変化しているように感じます。

「情熱大陸」ご視聴ありがとうございました

 皆様、「情熱大陸」を御視聴いただき有り難うございました。この番組を機会に野生動物も命を繋ぎ懸命に生きている事を少しでも想像、感じていただけたら幸いです。僕自身もこの14年の歩みを回想する良い機会となり、新たな目標へと進む事が出来そうです。また、過酷な環境で根気強く取材していただいた番組クルー、及び編集スタッフの皆様、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

小雪舞う森のなかで エゾシカ

 小雪舞う森に入って間もなく、小鹿を含む10頭ほどのメス鹿と出合いました。こちらを見つめるエゾシカの表情から緊張の糸がピーンと張り詰めていくのがひしひしと感じられます。僕はその場で立ち止まり低く三脚を構えて、その緊張が解れるのをじっと待つことにしました。5分ほど見つめ合い、少しずつその表情や仕草が、緊張から解き放されていくのが感じとれます。僕にとって、張り詰めていた緊張の糸が解れるまでの時間が、動物たちと対話する大切な時間です。それは動物たちが心を許し認識してくれた証であり、喜びを感じる瞬間です。

春の気配 オジロワシ

  先日の大型の低気圧が暴風雨をもたらせ、風蓮湖は季節外れの解氷が進んでいます。どこから解氷の噂を聞きつけたのか、早くもタンチョウの雌雄が越冬地から風蓮湖に戻って来ました。例年なら3月に入って見られる光景です。粉雪舞うなか、オジロワシが水面に群れるカワアイサをじっと見つめています。動物たちの行動から季節はもう春へと移ろいでいるようです。

「エゾシカ Hokkaido Sika Deer」フォトギャラリーを更新しました

 2010年の初夏、お腹の大きさがひときわ目立つエゾシカに出合いました。森の中から出てきたこの母鹿は、とてもつらそうに横になったり立ち上がったりと落ち着きがありません。そのあわただしい様子から出産が間近であることを直感しました。母鹿の警戒しない距離までそっと近づき、じっとその瞬間が来るのを待つことにしました。2時間ほど経った頃でしょうか、太陽は西へと傾き、斜光が降り注いでいます。苦しそうな母鹿が力をふりしぼって立ち上がった瞬間、胎盤とともに草原に新しい生命が産み落とされました。産み落とされた瞬間、仔鹿は全く微動だにしませんでしたが、必死になめる母鹿に応え、息を吹き返すように動き始めました。やがて仔鹿はよろめきながら立ち上がり必死にお乳を探し飲み始めました。太陽がオホーツク海に沈み暗くなり始めると、仔鹿は母鹿の後を追って、おぼつかない足取りで森へと密やかに消えて行きました。

今まで動物の出産に立ち会ったのは、このエゾシカの親仔だけです。もう10年ほど前の事ですが、知床を訪れる度に今も鮮明に当時の感動がよみがえってきます。そんな生命溢れていた知床が、今は懐かしく思えます。

「エゾシカ Hokkaido Sika Deer」

「情熱大陸」に出演します

 2月21日(日)23時放送予定の毎日放送「情熱大陸」に出演します。これまで自ら発信することがなかったフィールドワークやライフスタイル、動物や野鳥を撮影するまでのプロセスを臨場感溢れる映像とともにお伝えできると思いますので、是非ご覧ください。

大切な時間 エゾモモンガ

 日没後にアカゲラが掘ったと思われる巣穴からエゾモモンガが顔を見せてくれました。これまで何度も巣穴から顔を出す瞬間を見つめてきましたが、何度その瞬間に出合ってもときめく気持ちは変わりありません。この日はこの巣穴から4匹が次々と顔を見せてくれました。巣穴に入っているのかどうか、自分の直感を信じ一人待ち続ける時間も大切な時間だと感じています。

夕暮れの森 エゾモモンガ

 写真はエゾモモンガのお決まりの可愛らしいポーズですが、実は外敵への警戒心を強め辺りの様子を伺っています。この森ではカラスやフクロウが最も警戒すべき天敵です。この日も夕暮れ時にカラスが騒がしくエゾモモンガの塒に集まって来ました。モモンガはカラスの鳴き声に反応して、巣穴とお気に入りの横枝を何度か行き来して強い警戒を見せています。辺りが薄暗くなり始めるとあっと言う間に樹上へと駆け上り、静かに松林へと消えていきました。

 

再会 ハクトウワシ

 昨年に続いて、今年もハクトウワシと出合うことができました。昨年より一回り大きく、頭部の羽毛がより白く美しくなったように感じられます。猛禽類独特の凛々しさと風格を併せ持ち、それに加えて逞しさも強く感じられます。

このフィールドにいつまでいてくれるのかは分かりませんが、もうしばらく観察を続けようと思います。

「EZO RED FOX」フォトギャラリーを更新しました

 これまで山の頂から海沿いまで多様な環境でたくましく生きるキタキツネの姿を撮影してきました。あらゆる環境に順応し、優れた5感で狩りをするキタキツネは、僕にとって魅力的な野生動物のひとつです。季節を問わず豊かな表情を見せてくれるキタキツネですが、特に仔育ての時期は思いもよらないドラマティックな生命の物語を見せてくれます。母と仔、これほどまでの強い絆で結ばれていることに何時も感慨深い思いにさせられ胸が熱くなります。そんな彼らの生きる姿を、すこしでも想像していただけたら幸いです。「EZO RED FOX」

思いがけない出合い サンピラー

 深い雪が積もる森のなかで3日間エゾユキウサギの足跡を辿り探していましたが、結局出合うことが叶いませんでした。狩の名手キタキツネもそう簡単には捕えることが出来ないのですから、そう上手くいくはずもありません。すこし気持ちがめげていたのですが、今朝は素晴らしい出合いがありました。空模様は曇天で気象条件も決して良くはなかったのですが、雲の隙間から光芒が差した瞬間、サンピラーが黄金色にキラキラと輝きはじめたのです。これまでにこうした思いがけない出合いに、どれだけ勇気づけられてきたことでしょう。多くのかけがえのない動物や風景との出合いが、今の僕の原動力となっています。

極寒に生きる 雀

 僕にとって、雀もカラスも大切な被写体です。極寒の吹雪のなか雀が、羽毛をふくらませてじっと横枝に止まっていました。北の大地で逞しく生きる雀を見る度に、幼少期に巣から落下した雛鳥を育て、放鳥した記憶を思い出します。今も昔も、小さな命に宿る力強い生命力に感動する心は変わりません。

粉雪舞うなかで 花鶏(アトリ)

 粉雪が舞うなか、花鶏(アトリ)の群れが雪原に顔を出す植物の種子を求めて移動していました。今季は広範囲を車で移動していますが、冬鳥の姿を見かけることが少ないです。年々北海道に飛来する渡り鳥の数が少なくなってきているように感じます。

降雪のあと エゾリス

 北の森は強い寒気が弱まり寒さがやわらいでいます。その代わりに連日のように雪が降り、真っ白な世界が森を包み込んでいます。早朝、さらさらの雪が降り止むと、エゾリスが姿を現しました。ふわふわと降り積もった雪のなかを泳ぐように餌を探して駆け回っています。飛んだり跳ねたり、二匹で戯れたりと、その光景はまるで降りたての雪を喜んでいるかのように感じられます。

吹雪のなか エゾフクロウ

 未明から慌ただしく除雪車が行き交う町を抜けて、この初冬に初めて出合ったエゾフクロウの森へと向かいました。大型の低気圧が道東に待望の雪をもたらせ、白一色へと変わった森は、ようやく冬らしい姿を見せてくれました。風がゴーゴーと唸るように樹冠を抜ける音以外は何も聴こえてきません。いつも賑やかな森の鳥たちも、この吹雪がおさまるのを、じっと待っているようです。この森のエゾフクロウも風雪に耐えながら密かにたたずんでいました。

月光夜 タンチョウ

 近年、稀に見る厳冬を迎えています。冬型の気圧配置が強い寒気をもたらせ、大雪山の峰々を境に日本海側は大雪、太平洋側は小雪で乾いた冷気が大地を包み込んでいます。この季節になると何時も思う事ですが、小雪の冬は大地の下で眠る動物や昆虫たちが少し心配になります。雪が保温効果となって、冷気を遮断してくれるからです。今頃、極寒から逃れるように、更に地中深くに潜り込んでいるのでしょうか。

 そんななか、タンチョウの塒を訪れてみました。放射冷却の影響で温度計は氷点下18度を指しています。タンチョウはこの寒さをやり過ごすため、川の中で片足で立ち、交互に足を入れ替えながら休んでいます。厳冬は、まだ始まったはかりで、想像以上に過酷な冬になりそうです。もしかすると、思いがけない冬の表情に出合えるかもしれません。

新年のご挨拶

 昨年はコロナで始まり、コロナに翻弄されながら一年が終わっていきました。年内にコロナが収束し、健やかで平穏な世界が戻ってくることを祈っています。コロナ・パンデミックによって更に世界の人々の分断や外的排除のニュースを多く耳にするようになりました。このような危機的状況だからこそ、他者に配慮し、敬う行動が大切だと日々自然を見つめながら感じています。地球の裏側の他者の憂いや悲しみより、幸せな姿を想像し感じていたい。きっとそれは、いつか自分自身にも繋がり反映される事だと思います。

 
 皆さまにとって、より良い一年になりますように心よりお祈り申し上げます。

毛嵐(けあらし) タンチョウ

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 気温は氷点下23度、今季最も冷え込んだ朝を迎えました。タンチョウが眠る水面には毛嵐が上り、タンチョウの姿が薄明のなかに霞んで見えます。寒さが増すに連れて、この河川にタンチョウが日に日に集まってきています。時折タンチョウの鳴き声が聴こえてきますが、太陽が昇り明るくなっても全く動く気配はありません。日の出から約1時間経って気温が上がり始めた頃、一羽、また一羽と群れから離れて川下へゆっくりと歩きはじめました。刻々と変化する幻想的な世界に魅了され、いつの間にか寒さなど忘れています。ふと気がつくと3時間が経過し、燦々と輝く陽光が冷えきった体を暖めてくれていました。

カラスの出現 エゾフクロウ

 この初冬に出合ったエゾフクロウの森へ、再び足を運びました。いつものようにリラックスした様子で居眠りをしています。しばらくすると、4羽のカラスがフクロウの眠る大木の上を騒がしく旋回しながらやってきました。異変に気づいたエゾフクロウはふかふかの羽毛で丸々していた体を棒のように細め、じっと身を潜めてカラスが過ぎ去るのを待っています。しかしその思いとは裏腹に、カラスはエゾフクロウを見つけて襲いかかってきました。エゾフクロウはその瞬間、身をよじらせ樹洞の中へと潜り込み難を逃れる事が出来ました。樹洞はこのような時の安全な避難場所にもなるのですね。カラスが去って、10分ほど過ぎた頃でしょうか。瞳孔が開いた大きな目で辺りの様子を伺いながら顔を出し、さっきまで何もなかったかのように、またすやすやと眠りはじめました。

冬至の朝 タンチョウ

 この数日、氷点下20度に迫る厳寒の朝を迎えています。車内にストックしてある水はカチカチに凍りつき、飲料水の確保にもひと手間かかる季節になってきました。タンチョウが道東各地の繁殖地から、冬の給餌場へと日に日に集まってきています。年末から年始にかけて更に厳しい寒さが続く予報です。この先どんな景色が待っているのか、今から胸が高鳴ります。

再び、シマフクロウの森へ

 氷点下15度前後の朝を連日迎えるなか、再びシマフクロウのいる森にやってきました。河川は思っていた以上に早く凍りはじめ、この様子だと年末までには全面結氷するでしょう。晩秋にあれほど賑やかだったヤマセミの鳴き声が聴こえてきません。魚が採餌できる河川へと移動してしまったのでしょうか。変わらず姿を見せてくれたはカワガラス。氷上から餌を探し水中に潜って採餌しています。しかし、この寒さのせいか、いつもの軽快な動きが見られません。標高約700mに位置するこの森は、想像していた以上に過酷な冬を迎えようとしています。魚類が採餌出来なくなると、シマフクロウにとっても厳しい冬となるでしょう。ただ、小動物やエゾライチョウの姿は多く見られ生態系の豊かさを感じます。この森のどこかでシマフクロウが越冬しているのか、否かはわかりませんが引き続き観察を続けていくことにします。

樹洞 エゾフクロウ

 春から北の森の動物や鳥たちの撮影を続けています。新たなフィールドに足を踏み入れたこともあって、晩秋から初冬にかけてエゾフクロウが休む樹洞を6ヵ所見つけることができました。フクロウを探し散策すると言うよりかは、大木の樹洞を探して歩いていると言った方が正しい表現かもしれません。樹洞の形状も多彩でそれぞれに個性があり、長い年月をかけ形成された美しい自然の造形そのものです。更に美しい森の光景と光を探しに、今日もまた森に入ります。

厳しい冬のはじまり オオハクチョウ

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 早くも北海道東部の湾内沿岸や河川が凍結しています。今季は、この地域特有の強い風の吹く日が少ないことも影響しているのだと思います。毎朝、河口で朝を迎えていたオオハクチョウの数も少なくなってきました。もう間もなく厳しい冬がはじまります。

夜の森のハンター エゾフクロウ

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 落葉した森のなかは、しばらく日没後も薄明かりが続くのですが、やがて闇にゆっくりと包み込まれていきます。この頃になると、昼間はいつも眠そうなエゾフクロウも、瞳孔が大きく開き顔を上下左右に動かしながら周囲の様子をうかがっています。間もなくすると大きなペリットを苦しそうに一つ吐き出し、樹洞から横枝へと飛び移りました。その表情は森のハンターのように鋭い眼光を放ち、もう昼間の愛らしい面影はありません。此方を一瞬見つめたあと、森の奥へと静かに消えて行きました。耳を澄ますと、笹藪からネズミの動く音が至る所から聴こえてきます。冬の間、フクロウはこの森にずっといるかもしれません。

至福のとき エゾフクロウ

 北の森はこの数日氷点下10℃近くの寒さが続き、河川や湖沼が凍りはじめています。けれども太陽が昇り落葉した森のなかを陽光が隅々まで照らしはじめると、風さえ無ければ気温ほどの寒さを感じません。森のなかを歩いていると、一羽のエゾフクロウがすやすやと陽光を浴びて気持ち良さそうに眠っていました。長い夜の狩りを終えて、今頃どんな夢を見ているのでしょうか。こんな日和は、フクロウにとっても至福の時なのでしょう。

初めての冬 エゾモモンガの仔

 一月ぶりに春から通い続けているエゾモモンガの森に足を運びました。初冬を迎え、仔エゾモモンガは、ふかふかの冬毛を纏っていました。温かそうな冬毛を纏った仔モモンガは一回り大きく、そしてたくましく見えます。先月訪れた時は夏毛から冬毛へと換毛が始まったばかりで、まだ茶褐色の短い夏毛が目立っていましたが、すっかりクリーム色の美しい冬毛に生えそろっています。これから初めての冬を迎える仔モモンガにとって、長く厳しい季節が訪れます。

静かな冬のはじまり オオワシ

 道東の海岸沿いを車で走っています。今季はどこの浜も港もどこか活気がないように感じます。秋鮭(シロザケ)の不漁が大きな要因だと思うのですが、それに連鎖してカモメやカラス、そして海鷲の数も少なく感じられます。けれども所々でロシアから渡ってきたオオワシの姿も見られるようになって来ました。静かな冬の始まりです。

夕空 オオハクチョウ

 茜色に染まった水面でオオハクチョウの群れが羽を休めていました。その見事に染まった夕空から、これから天候が崩れることがうかがえます。しばらくの間澄んだ青空は、顔を見せてくれない模様です。

孤高に生きる エゾシカ

 雪の日の夕暮れ刻、雌鹿が多く集まる風衝地へと移動する雄鹿が夜が深まるとともに空の彼方に浮かびあがって来ました。この季節になると、群れから離れた雄鹿が雌鹿を巡り、ひたむきにそして孤高に生きる姿をよく目にします。早くも、ハーレムを作っている雄鹿もいますが、これから冬にかけて生命をつなぐ闘いが繰り広げられていきます。

冬のはじまり

 朝起きるとシベリアからの強い寒気の影響で、辺りの景色は銀世界へと一変していました。風の無いとても静かな朝です。これまで途切れることなく森に響いていた雄鹿の雄叫びも全く聴こえて来ません。静かに森に潜んでいる様子です。つい先日までいた白鳥の親仔を探しに湖沼に行ってみましたが、やはりもう南へと飛び立っていました。少し寂しい気持ちにもなりましたが、直ぐに思い直し、無事に越冬地へと向かってくれたと思うと安堵の気持ちでいっぱいになりました。まだ、ここは根雪になるには早いとは思いますが、確実に季節は冬へと向かっています。今年の冬は厳しい寒さになるように感じています。

安息の地 ハクチョウの親仔

 白鳥の親仔が遥かシベリアから越冬地への旅の途中に湖沼で羽を休めていました。周りを見渡しても、この親仔2羽だけのようです。多くの白鳥たちは群れとなってV字編隊を形成し、風の抵抗が強い先頭を交代しながら旅を続けますが、2羽だけでここまで来たとなれば、かなりの疲労がたまっていると思われます。まだ、親鳥より一回り体の小さな幼鳥は、必死になって水草を食べています。もう間もなくすると、ここも白一色の世界となるでしょう。それまでに、早く体力を回復させて、更に南の越冬地へと無事にたどり着く事を願うばかりです。

朝の静寂

 晩秋の朝の静けさほど心地好く、穏やかな気持ちにさせてくれるものはありません。ピーンと張りつめた冷気が漂うなか、時折聴こえてくるのは遥か上空を飛ぶ白鳥の声と森の奥から雌鹿へラブコールする雄鹿の雄叫び、そして水面を飛びながら甲高く鳴くヤマセミの声だけです。毎日、薄明から水辺に現れる雄鹿をじっと待っているのですが、そう思うようにはいきません。けれども、何故か幸福感に満たされています。秋は美しい光景と出合う度にそんな気持ちにさせてくれます。

晩秋の森 シマフクロウ

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 毎朝、肌を刺すような寒さを迎えています。寒空の彼方にはV字編隊を組んだ白鳥が喉を鳴らしながら雪化粧した山々を越えて南へと向かっています。北の森は、早くも季節が晩秋から初冬へと駆け足で移ろいでいます。秋の始めからシマフクロウを探し歩いていましたが、結局出合えたのは2日間だけでした。白いペンキのような糞は各所で見ましたが、その痕跡は薄く、やはり魚を求めて広範囲を移動しているようです。それでも、この広大な森でシマフクロウと出合えた事は、幸運だったと思います。そして、その出合いに感謝するばかりです。行動圏が限定される厳冬期に、再びこの森に戻ってきたいと思っています。

真夜中の決闘 エゾシカ

 真夜中の森のなかで、突然乾いた鋭い音が響き目を覚ました。寝ぼけながらも、その音がエゾシカの雄の角突きだとすぐに分かりました。その激しく力強い衝突音から、間近で行われていることが分かります。これだけ激しく本気でぶつかり合う争いは稀で、一目その様子を見たいとライトを照らして様子を見ようと思いましたが、真剣勝負の妨げをしては悪いと思いとどまりました。耳を澄まし、その攻防を想像しながら、戦況を見守ることにしました。刻々と変わる鋭い音の出所から、押したり退いたりと30m四方で激しく動いているのが分かります。5分過ぎた頃でしょうか、ヤギの鳴き声に似たメーメーという鳴き声とともに真夜中の決闘は終わりを告げました。いま森のなかは、恋の季節を迎えた雄鹿の雄叫びが夜通し響きわたっています。何とも寂しげに夜の森に響きわたる鳴き声ですが、僕にとっては子守唄のように心地好い森の音です。

山のキツネ

 夏にはこの森で出合うことが少なかったキタキツネを、夕暮れ時に毎日のように見かけるようになりました。夏毛からふかふかの冬毛に換毛し、ひとまわり大きくなったように感じます。このキタキツネを見ていると、以前に古老の猟師から山と海のキツネでは毛皮の値段が違い、山のキツネの方が高く売れると聞いた事を思い出しました。目の前のキタキツネの立派な冬毛を纏った姿に、この森の冬の厳しさが想像できます。

雲海の朝 ミヤマカケス

 この数日、明け方に0度まで気温が下がり、森は晩秋へと駆け足で移ろいでいます。夏鳥が南へと渡り、静かになった森の中を忙しく飛び交っているのがミヤマカケスです。生き物のように漂う雲海が明けると、挨拶をしに来てくれたかのように目の前に姿を見せてくれました。いま僕にとってミヤマカケスは、寂しくなった森のなかを賑わせてくれる友達のような存在です。

 

魔法の森

 魔法にかかったかのように、この森の虜になっています。それだけ手つかずの自然が残る美しい森です。ようやくヒグマもこの森まで、ヤマブドウを求めて下りて来ました。ヤマブドウの皮と種の混じった大きな糞は見かけるのですが、まだその姿を見せてはくれません。今季はドングリが不作なので、ヤマブドウが大切な栄養源となるでしょう。

 一日中獣道を辿り、ヤマセミの鳴き声が響く沢を渡りながらシマフクロウを探し歩いていますが、そう簡単には出合えません。この時期、海岸付近に生息するシマフクロウは、サケ、マスが主食となり餌場が限定されますが、山麓に生息するシマフクロウはヤマメ等の魚影が濃い餌場を転々と変え移動しています。シマフクロウのテリトリーは、10k㎡ほどと言われているので、沢伝いに広範囲に移動していると思われます。(シマフクロウのテリトリーの範囲は環境や地形によって異なります)

 落葉が進み、森のなかも明るくなって視界が広がってきました。この秋色が終わるまでにシマフクロウとの出合いがあればと思うのですが、秋風でひらひらと舞う葉を見る度に気持ちばかりが焦り、落ちつかない日々が続いています。

秋深まる渓谷

 都会は多くの色で賑わっていますが、それでもこの森の色合いほど多彩で美しくはないと思います。この森にある渓谷へと無数に延びる獣道を辿って、毎日のように色づく木々の変化を楽しみながら通っています。この渓谷の秋色も、後一週間もしないうちにピークを迎えるでしょう。この深い渓谷のどこかにシマフクロウやエゾヒグマが息づいているのですが、なかなか出合うことが叶いません。けれども、目の前に広がる景色に動物たちを感じ意識するだけで、ひとつひとつの世界が広がりをもっていることに気づかされ、それまでとは違う森の景色に見えてきます。そして、自然は2度と同じ光景を見せてはくれません。季節は時間の流れの一瞬でしかなく、とどまってはくれないのです。名残惜しく過ぎ去る季節を感じさせてくれる秋が、僕は大好きです。これまで秋の彩りによって、どれだけ色彩感覚を鍛えられてきたかと、落ち葉に敷き詰められた森のなかを歩きながら、ふと思うのです。

夜の森 エゾモモンガの子供

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 日一日と深まる秋とともにエゾモモンガの子供たちもすくすくと成長しています。あどけない表情が少しずつ消え、体も一回り大きくなったように感じます。夜の森を自由に滑空しながら樹々を伝って移動する姿に、もう不安や戸惑いはなく自信さえ感じられます。夜の森は夏鳥の囀ずりが消え、静寂に包みこまれています。耳を澄ますと喉を鳴らす仔エゾモモンガの声が闇に消えた樹冠か爪音とともに聴こえてきます。その鳴き声から兄妹で戯れている姿が想像できます。東の空が静かに紅く染まり始めると、エゾモモンガと交替するようにエゾリスが樹上を駆け始めました。仔モモンガは夜の活動時間が長くなるにつれて、昼間に顔を出す頻度も少なくなっています。北の森はとめどなく移ろい、動物たちはやがて来る冬への備えに忙しく活動しています。

冷たい雨 シマフクロウ

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  冷たい雨が降り続いています。今季は今まで台風の影響もなく少雨で穏やかに季節が巡り、順調に撮影が進んでいます。一方で友人の鮭漁師は不漁が続き、早く大きな台風が太平洋を北上して欲しいと願望しています。台風が北上すると海が荒れ、攪拌されることで海水温が下がりシロザケが海岸に近づいて来ると言うのです。今回の台風から変わった温帯低気圧の影響で、漁場の状況も良くなればと思うのですが、どうなることでしょうか。

 仕事や立場が違うと、これだけも人の思いは相違します。多様な社会に生きる人々や大自然に生きる動物たちなら尚更です。ほんの一瞬でもお互いの立場から世界を見て、想像し行動することが出来れば世界は変わり、奇跡か起こるはずだと思います。この冷たい雨も、それぞれが様々な思いで感じていることでしょう。

朝陽の出合い エゾシカの親仔

 夜の撮影を終えた帰路の途中、朝陽が降り注ぐ森のなかでエゾシカの親仔と出合いました。お互いに緊張した場面で、しばらくの間見つめ合っています。親仔鹿は鹿の子模様の夏毛が徐々に冬毛へと換毛している最中です。やがて警戒していた親仔の張り詰めていた緊張が、少しずつ解けていくのが表情と仕草から伝わってきました。それから間もなくすると母鹿は、初夏に産まれ成長した仔鹿を愛情溢れる優しい表情で舐めはじめました。どうやら大切なスキンシップの時間をお邪魔したようです。仔鹿は母鹿の愛情を確かめるように目をつむり身をゆだねて、目一杯その愛を受けとめています。2分ほどの出来事だったのでしょうか、スキンシップを終えると森の奥へと連なってゆっくりと歩いて行きました。心温まる光景に、朝から幸せな時間を共有する事ができました。エゾシカの親仔は私たちが想像する以上に強い絆で結ばれ、仔鹿はその愛情を糧に成長していきます。森の奥へと消えて行くしっかりとした足取りに、厳しい冬を越えていくだけのエネルギーが早くも感じられました。

色づく森 エゾモモンガの子供

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 秋真っ盛りの紅や黄色に染まる森も美しいですが、冷え込む朝を迎えて少しずつ秋色が深まっていく初秋の森にも心惹かれます。木々が多彩に色づく紅葉の美しさは、北の森の豊かさを物語っています。そんな森のなかでエゾモモンガの子供がハリギリの洞から、毎日のように顔を覗かせています。雨が降らないかぎりお昼頃に顔を見せるのですが、何時もうつむき加減で眠そうな顔をしています。この日はどこからか飛んできたスズメバチに反応して、顔を上げてじっとその様子を追うように見つめ、その後も外の様子を伺っていました。毎日、色づいていく森の様子を不思議に感じているのかもしれませんね。この小さな森の友達のおかげで、私もより一層この森の変化に敏感になっています。何時もなら何気ない森の景色も、気になって仕方ありません。この森で動物たちと出合うたびに、さらに森の微かな呼吸を感じようと、ひとり見つめる日々が続いています。

初秋の森で エゾモモンガの子供

 夏鳥の多くは南へと旅立ち、大雪山の尾根では草紅葉がゆっくりと色づき始めています。季節は本格的な秋へと移ろい始め、稜線に生きる動物たちは慌ただしく冬に備えていることでしょう。乾いた初秋の風が吹く森のなかで、すーっと高く伸びたハリギリ(センノキ)の洞からエゾモモンガの子供が顔を見せてくれました。今季2度目の繁殖で誕生した5匹の兄妹です。日中から兄妹で仲良く洞から顔を出したり、樹上に登ったりと好奇心旺盛で遊んでいます。この季節には天敵のカラスや猛禽類の子育ても終わり、森のなかは初夏のような慌ただしさはありません。時折姿を見せるカラスもエゾモモンガには無関心な様子で、まだ青い山葡萄を採食しています。エゾモモンガにとって最大の天敵であるエゾフクロウの気配も、今のところはありません。とりあえず夜も安心して活動できそうです。このまま、すくすく育ち、夜の森を縦横無尽に滑空する姿を近いうちに見せてくれるでしょう。

 

オ二グルミとエゾリス

 夏日が続く北の森ですが、季節はゆっくりと進んでいます。早朝からエゾリスが青々としたオニグルミの実を咥え樹上から駆け下り、枯れ葉の下に両手を使って丁寧に貯食をしていました。お昼頃まで30往復はしたのでしょうか、ほぼ休むことなく忙しく駆け回っていました。足下にはたくさんの熟して黒くなったオ二グルミの実から新鮮な青い実まで見られます。森の至るところで、その光景が広がり、今季は豊作のようです。この初秋の実りに森の動物たちは喜んでいることでしょう。冬眠をしないエゾリスやネズミたちも安心して冬を過ごせそうです。

 

別れの時 エゾライチョウ

 先週までの暑さが嘘のような寒い朝を迎えています。気温は7度、この寒さでスイッチが入ったように植物も秋色へと変わりはじめています。森のなかに足を踏み入れると黄色や茶色に色づいた広葉樹の葉がひらひらと落葉し、足元に広がっています。そのなかを親鳥と変わらないほどに成長したエゾライチョウの幼鳥5羽と親鳥が一塊となってピイピイと鳴きながら歩いていました。幼鳥はこの2ヶ月ほどで多くを経験し、学んだのでしょう。とても警戒心が強く、あっという間に分散してしまいました。この森で何度かキタキツネがエゾライチョウの雛に襲いかかる瞬間を目の当たりにしました。キタキツネは身を潜めていた茂みから勢いよく飛び出し、前肢を伸ばし捕らえようとしましたが、間一髪で身を交わした雛鳥が樹上へと回避しました。しばらくの間、諦められないキタキツネは雛の下で上目遣いでぐるぐると回り歩き、森の奥へと消えていきました。これだけ野生をむき出しにしたキタキツネの姿を見ることは多くありません。きっと、このキタキツネにも育ち盛りの仔ギツネが待っていたのでしょう。

 もう間もなくするとエゾライチョウの親子にも別れの時がやってきます。ひとり立ちした幼鳥は、この森の片隅で逞しく生きていくことでしょう。

 

森の神 シマフクロウ

 北海道では「お盆が過ぎれば秋」と言われていますが、まだまだ連日の暑さが続き、本格的な秋の訪れはもうしばらく先のようです。いま標高600mを越えた辺りの森に入っています。森を縫うように流れる沢には、多くのヤマメ等の魚影が見え隠れ、原生的な自然が色濃く残る美しい森です。先日、この森でシマフクロウと出合いました。生息していても不思議ではない環境だとは思っていましたが、まさかこんな偶然な出合いが訪れるとは思ってもいませんでした。今まで多くのシマフクロウを見てきましたが、どれも長い時間と労力をかけてきたので尚更そう感じるのかもしれません。森のなかで見るシマフクロウは他の猛禽類にない気品に満ちた特別な存在感があります。樹上から注がれる鋭い眼光と凛としたその姿に神々しささえ感じられます。その姿から「コタン・コル・カムイ(村を守る神)」と、アイヌの人たちが崇めていたのも納得できます。

 このシマフクロウの生息環境は標高600mと厳しい環境下で生きています。以前、標高800m付近でシマフクロウを確認したことがあります。厳冬期には多くの湖沼や河川が凍結し、主食の魚を採餌するのが難しくなってきますが、替わりに鳥類や小動物を採餌しているのがペリットから分かりました。
今いるこの森もシマフクロウが生命を育むだけの豊かな森が残されています。シマフクロウの存在は豊かな森、そして、その森が未来へと残されることを願う希望の象徴です。

南へ アマツバメ

 黄金色に染まった空の下で無数のアマツバメが飛び交っています。子育てを終え、これから南へと渡る準備をしているようです。 毎晩、子守唄のように聴いていたトラツグミの鳴き声も聴こえなくなりました。早くも鳥たちは季節の移ろいを感じ、南へと旅立ちはじめています。

無数の爪痕 ヒグマ

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 北の森も連日の真夏日が続いていますが、絶え間なく吹く風のおかげで、それほどの暑さを感じません。暑さよりも森に入れば、耳元で「ブンブン」と付きまとうアブの襲来に困っています。8月に入って子育てを終えた鳥たちの囀ずりもめっきり少なくなり、季節が秋へと近づいているのだと感じます。深山にある森に入ると、トドマツの幹に残るヒグマの爪痕を良く見ます。その幹や周囲の樹木には必ずと言っていいほど山葡萄やコクワ(サルナシ)の太い蔓が樹上まで絡みながら伸びています。なかには何十年前のものだろうかと推測出来ないような古い爪痕から、近年のものまで無数の爪痕が樹上まで太い幹に残っています。そんな木々を見る度にヒグマが舌を伸ばして器用に果実を採食する姿など、ユニークで多彩な行動が目に浮かんできます。あと2ヶ月ほどすれば、甘い果実を目当てに、このトドマツにもヒグマがきっと登ることでしょう。

2度目の繁殖 エゾユキウサギ

 早朝、林のなかでエゾユキウサギがクローバーを採食していました。7月上旬に訪れた時は、今季2度目の繁殖を迎えたエゾユキウサギのオス2羽が日中もメスを執拗に追いかけていたのですが、さすがにもうその行動は見られません。交尾期には天敵に捕食されるリスクを顧みず大胆不敵な行動を見せますが、それが終わると警戒心が強まり、危険を察知するとすぐに茂みの奥へと消えていきます。これまで季節を問わずエゾユキウサギを観察してきましたが、どうも気分屋の一面があるようで捉えどころのない動物のひとつです。

夏鳥の減少 ハチクマ

 晴れ間が少なく低温が続いていた北海道ですが、ようやく夏らしい日差しが北の森を包み込んでいます。連日のように世界中の異常気象がニュースで流れてきますが、北海道にも気候変動の兆候が見られ、気象状況や自然環境が変化しているように感じます。その中でも著しい変化が見られるのは、南から繁殖のために渡ってくる夏鳥の数の減少です。夏鳥の越冬地である東南アジアの熱帯雨林の減少が大きな要因の一つではありますが、それだけではないでしょう。長い年月をかけ、あらゆる要因が相互作用し大きく生態系のバランスを崩した結果が今にあるのです。人間も自然の一部です。いずれ私たちにも大きな影響を及ぼすことになるでしょう。

 深山の森で出合ったこのハチクマも夏鳥で減少している鳥の一つです。この他にも、アオバスクやコノハズク、ヨタカ等が観察してきたこの10年ほどの間に減少しています

ヤマゲラの子育て

 朝露のついた草原でヤマゲラの親子が地面を掘り起こして昆虫を採餌していました。もう親子の判別をするのが難しくなるぐらい雛鳥は成長しています一週間ほど前には巣立ち後も親鳥からの給餌に頼っていた雛鳥ですが、もうその行動は見られず、親鳥の後について自ら採餌しています。雛鳥の旅立ちの時は近づいています。

ハプニング アカハラの子育て

 朝の森のなかでアカハラが巣立ちした雛鳥に餌を運んでいました。しかし、その様子は何時もと少し違います。雛鳥は飛ぶことを嫌っているのか、この木の窪地が居心地良いのか分かりませんが、親鳥がここから離れるように促しても頑なに動こうとはしません。その様子は巣立ちを促す時と全く同じ状況です。親鳥は給餌の間隔をあける方法をとり、しばらく運んでこなくなりました。それから6時間後、雛鳥の鳴き声に反応した親鳥は餌を咥えて囀ずりながら、その周囲の横枝や樹上を回り、雛鳥に自ら餌を食べに来させようと促しますが、一向に動こうとはしません。親鳥は諦めたのか徐々にその距離を縮め、雛鳥の側までやって来ました。雛鳥は目一杯大きく口を開けています。そのまま親鳥は給餌するものだと思っていたのですが、その予想は大きく裏切られました。親鳥が飛翔しながら雛鳥の頭部を足で掴み、強引に引きずり出そうとしたのです。思いがけない親鳥の行動に雛鳥は驚き、きょとんとした表情をしています。その行動が2回繰り返されましたが雛鳥は動きませんでした。結局、親鳥は諦めた様子で給餌をして、その場を離れました。私も続くように、暗くなりはじめた夕暮れ迫る森を複雑な心境で後にしました。翌朝、その森に行くと親鳥の囀りは聴こえてきましたが、その木に雛鳥の姿はありませんでした。

 

白樺 アカゲラの巣立ち

 新緑の季節、白樺の新芽は鳥や動物たちの餌となり、幹にできた洞やキツツキの穴は鳥や動物たちの住みかとなります。白樺の幹で羽化し樹液を吸うエゾハルゼミ、それを次々と雛に与えるアカゲラ。この日、孵化から約20日かけてアカゲラの雛が4羽巣立ちました。白樺は多くの生命を育み、繋いでいます。

ルピナスの咲く草原 ノビタキの子育て

 風が吹くとドロノキの綿毛が牡丹雪のように舞っています。ルピナスの花期が終わりに近づいた群生地で、ノビタキが子育てに追われていました。花の甘い香りに誘われ寄ってくる昆虫を、親鳥が巣立ちした雛鳥に繰り返し給餌しています。成長の度合いが違う雛が4羽確認できます。成長の早い雛鳥は、いち早く餌をもらうために親鳥について回り、また自らも飛翔し採餌しています。親鳥が採餌すると、雛鳥は我先にと給餌をアピールし、競うように大きな口を開ています。いまの雛鳥にとって、少しでも食べて早く成長する事が最優先です。この草原で繰り返されるその光景は、生命の輝きそのものです。これから親鳥は徐々に給餌の回数を減らし、自立を促していきます。

 

森の天敵 エゾモモンガの子供

 この日も日没前からエゾモモンガの子供が巣穴から顔を覗かせました。日没前とは言え、森のなかは薄暗い状況です。好奇心旺盛な仔モモンガは、何時ものようにしばらく外の様子を伺ったあと樹上へと飛び出しました。樹上へと上り、幹から枝先へと移ろうとした瞬間でした。「危ない!」思わず声が出てしまいました。林冠からその様子をじっと伺っていたカラスが、襲いかかったのです。仔モモンガは間一髪身をかわして難を逃れましたが、そのまま10m下の林床へと落下しました。すぐに仔モモンガが巣穴に戻って来るだろうと思っていましたが、なかなか戻ってきません。すこし心配になり、落下した周辺のクサソテツの茂みを探しましたが見つかりません。それからしばらくして、仔モモンガは巣穴へと戻ってきました。その表情はすこし強ばったように見えます。これでまたひとつ、この森で生きていく術を学んだはずです。

小さな生命 エゾライチョウのヒナ

 この日、クマゲラの影を追って森の奥へと入っていました。早朝からどんよりとした空が広がっているため暗く静かな森です。雨露がつく草ソテツの茂みを歩いていると突然エゾライチョウが鋭い羽音とともに飛び出しました。その様子を伺うと何時もと少し行動が違います。警戒心の強いエゾライチョウは普段は危険を察知すると樹上に上がるのですが、10mほど先で羽をばたつかせ足を引きずっています。すぐにその行動が地上で営巣する鳥に見られる「偽傷行動」だとわかりました。きっと近くに雛鳥がいるはずです。一歩ずつ足下を気にしながら周囲を探すのですが見当たりません。しばらく探し諦めかけていたところ、「ピヨ、ピヨ、ピヨ・・・」と聴き慣れない鳴き声が微かに聴こえてきました。耳を澄ますと四方の茂みから複数の鳴き声が聴こえてきます。鳴き声を頼りにその方向へと進んで行きますが、その姿を確認することができません。鳴き声の主が間近にいるのに落ち葉に同化し見つからないのです。しばらく立ち止まり周囲を凝視し、ようやく出合えました。苔むした倒木の上で必死に母親を呼んでいます。まだ孵化して間もなく飛ぶことができません。少しでも高い場所へと歩きながら母親を探しているのです。この森にはキタキツネやカラス等の天敵が多く、あまり深追いすると雛鳥に危険を招くので、この一枚を撮影して後にしました。しばらくすると母親を呼ぶ雛鳥たちの鳴き声は、この森から無くなりました。

クマゲラの巣立ち

 この日、4羽いたクマゲラの雛が2日間かけて無事に巣立ちました。キツツキの仲間が巣立つ瞬間はどれもみなドラマチックなのですが、なかでもクマゲラの巣立ちが一番感動的です。なぜなら親鳥が巣立ちを促す際に見せる多様な行動と、雛鳥が巣穴から顔を出す時の表情や仕草が他のキツツキよりも多彩で感情的だからです。またその行動に強く感情移入するのは、巣立ち前にかいま見せるクマゲラの親子それぞれの心境が、どこか私たち人間と似ているところがあるからです。早く巣立ちさせたい親といつまでも留まりたい雛、そして新たな環境へ飛び込むことに臆病になっている雛鳥の心境が共感できるからです。この写真の雛鳥も一歩踏み出す勇気をためらっていましたが、昼から2羽が続くように飛び立ちました。待ち続けていた親鳥の誘導で木々を渡りながら森の彼方へと消えていきました。もう今頃は自由に森を飛び交っていることでしょう。

蝦夷梅雨 クマゲラの子育て

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 北の森は連日のように厚い雲が広がり雨を降らせています。また、雨の森も晴天の雰囲気とは違って良いものです。しっとりと雨露で緑濃くなった森は、植物の甘い香りに包まれています。冷たい雨でエゾハルゼミの鳴き声が消えた森には、雨粒が葉に当たってはじける音や幹を伝って大地に染み入る音、小鳥の羽音や雛鳥の鳴き声まで多彩な音が聴こえてきます。そんな森のなかでクマゲラの雌雄が、雛鳥への給餌に追われていました。晴天ほど主食のアリや幼虫を運ぶことは出来ないようですが、約2時間おきに給餌しています。この様子だと、もう一週間ほどで巣立ちの時を迎えそうです。クマゲラの巣立ちは何度見てもドラマチックな瞬間です。

夏至 エゾモモンガの親子

 夏至は夜行性の動物たちにとって活動時間が最も短い日です。この時期になると日没まで待てずに活動をはじめる動物たちを目にする事があります。この日も日没前にアカゲラが使ったハンノキの古巣からエゾモモンガが顔を出しました。しばらく外の様子をうかがったあと、巣から飛び出し横枝に駆け上りました。すると続くように、巣穴からひとまわり小さな顔が出てきました。この春に産まれた仔どもです。見るもの全てが仔モモンガにとっては初めての経験ばかりなのでしょう。すこし控えめに外の世界を見つめています。夜が森を包みはじめると、母親について2匹の仔モモンガが樹上に上がり、エゾアカマツの林へと滑空して消えて行きました。母親に森を案内してもらっているのでしょうか、それとも美味しいご馳走の在りかを教えてもらっているのでしょうか・・・。もう間もなくすると、母親は仔別れをして2度目の繁殖を行います。

ひそやかに ヤマゲラの子育て

 今朝は森のなかでヤマゲラの甲高い鳴き声で目を覚ました。きっとこの周辺で子育てをしているはずです。早朝からヤマゲラの影を追って森を歩き回るのですが、黄緑色した体が木々の緑と同化して、なかなか姿を見つけ出すことができません。またその習性から雛鳥へ給餌する際にも、あまり鳴かずに静かに行うため営巣木を特定するのも困難です。まるで森の忍者のような鳥なのですが、どうにかタイミング良く巣穴に入る姿に出合えました。その様子から、もう間もなくすれば雛鳥も巣穴から顔を見せてくれるでしょう。耳を澄ますと森の奥からもカラ類やアカゲラなどの雛鳥が給餌をねだる声が聴こえてきます。山深い豊かな森で、密やかに新しい生命がすくすく成長しています。

出産間近 エゾシカ

 6月に入って仔連れの雌鹿を目にするようになりました。仔鹿の足どりは、まだ弱々しく母鹿について歩くのも大変そうです。夕暮れ前の小沼に水を飲みに現れたこの雌鹿もお腹が大きく間もなく出産を迎えます。水を飲み終えたあとに一瞬目を合わすと、そのまま森の奥へと消えて行きました。やがて夜に森が包まれはじめるとヤマシギが樹上を飛翔しながら鳴き始めました。
 いまこの時間にもどこかの森のなかで生命が誕生し、母親が濡れた仔鹿を必死になめまわしているでしょう。

渓流で子育て中 カワガラス

 いま山深い森に原生的な自然を求めて入っています。そんな森のなかにある琥珀色の川床が美しい渓流でカワガラスが子育てに追われていました。親鳥が交互に稚魚や水生昆虫を巧みに捕らえ運んでいるのですが、少し様子が違っています。給餌をする前に小岩や倒木の上で尾羽を上下に振り、しばらく鳴いているのです。餌を運ぶたびに見せるその行動から巣立ちを促しているのがわかります。あと数日で、この渓流にも雛鳥が姿を見せてくれるでしょう。

霧の朝 エゾライチョウ

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 初夏を迎えた森は鳥たちの囀ずりが少なくなってきました。かわってエゾハルゼミが勢いよく鳴いています。恋の季節も終わり、小鳥たちの多くは抱卵しています。早いものは雛鳥への餌運びをはじめ、忙しく飛び回っています。早朝、深い霧に包まれた森からエゾライチョウの甲高くリズミカルな鳴き声が聴こえてきました。もう間もなくすると森に新しい仲間が誕生します。

きずな キタキツネ

 ミズナラの大木の下で生まれた仔ギツネは、日一日と成長しています。巣穴から顔を出した頃のおぼつかない足どりも、今では力強くなりました。巣穴の周囲に群生するバイケイソウの中で戯れたり、駆け回ったりと楽しそうに兄弟で過ごしています。近くで雛に忙しく餌運びするハシブトガラスの羽音にも驚かなくなりました。数日前から母ギツネは授乳の回数を減らし、少しずつ小動物等の離乳食へと慣らしています。そのひとつひとつの表情や仕草から母と仔の間には、計り知れない絆があることに改めて気づかされます。

 北の森にもツツドリの鳴き声が聞こえ始めました。これから短い夏がはじまります。

春紅葉

 新緑のみずみずしい若葉の美しさは、緑色ばかりではありません。秋の紅葉のように多彩な色が春の山や森を彩っています。芽吹き始めたばかりの葉は、まだ緑色が薄く、光合成が活発になるまでの短期間に本来の色素である赤や黄色が見られるものがあります。秋の紅葉と同様に新緑も本当に美しいのは1日か2日。北国の季節は慌ただしく移ろいでいきます。

高層湿原

 雨上がりの森は植物の甘い香りで包まれています。冷涼で高湿な場所に自生しているせいか、まだミズバショウが綺麗に花を咲かせています。やがて霧が晴れ、日差しが注ぎはじめると森の奥からコマドリやトラツグミの声が聞こえてきました。木々の隙間からはエゾシカの警戒した表情が窺えます。いつもこの森を訪れる度、ふかふかの絨毯のようなミズゴケに覆われた林床を悠然と歩くヒグマを想像します。

森の歌姫 ミソサザイ

 今、この森で甲高い美声を競い合うように鳴き交わしているのがミソサザイ。早朝からテリトリーを飛び回り、体長10cmほどの小さな体を震わせ囀ずっています。その合間に巣材であるコケ類やキツネの冬毛等を集めています。いつ見ても忙しく動いている働きものです。ミソサザイは森林や 渓流などの薄暗い環境を好み、北海道では高山帯から平地まで多様な生息地で見られます。今ごろ大雪山の山陵でも自慢の喉を披露していることでしょう。

春の息吹 キタキツネ

 北の森はあらゆる生命が冬の間に蓄えてきたエネルギーを一斉に発し、春の息吹で満ちています。林床の植物は日一日と緑濃くなり、南から渡ってきた小鳥たちの囀ずりも多彩になってきました。この森で一際美しく囀ずっているのが体の小さなミソサザイ。そんな春色の世界を、巣穴から顔を覗かせた仔ギツネが好奇と不安が混在した何とも言えない表情で見つめています。この森でこれから出合う全てが、仔ギツネにとって初めてのことばかりですが、多くを学び成長していきます。

春の営み 雀

 春の陽気のなか、雀の雌雄が忙しく巣材運びに追われています。巣作りも完成間近のようで、綿のような柔らかい材質を運び始めています。きっと上質な寝床に仕上がっているのでしょう。この数日、巣作りの合間に繁殖行動も見られました。雀の雌雄は仲睦まじく、いつも一緒です。もう間もなくすると抱卵に入ります。

春の雪 コハクチョウ

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 しんしんと降り続く牡丹雪が、春めいてきた景色を冬へと後戻りさせました。雪降るなかもコハクチョウの群れは繁殖地のツンドラを目指してV字編隊を組み、喉を鳴らしながら北へと渡って行きます。

北帰行 コハクチョウ

 大雪山の裾野に広がる田園地帯からコハクチョウの姿が消え、雪解けた田畑は農作業の準備で賑わっています。いまコハクチョウの群れは更に北へと移動し、宗谷地方の湖沼に姿を見せています。もう間もなくするとオホーツク海を越えサハリンへと渡り、それから更に約1ヶ月かけて繁殖地である北シベリアのツンドラへと長い旅を続けます。

春の陽気 エゾユキウサギ

 静かに春の日差しが山麓の森の雪解けを進めています。森の小鳥たちの囀りも一段とにぎやかになってきました。この森に棲息するエゾユキウサギも春の陽気に誘われて木陰でうとうとと眠っています。しばらくして目を覚ましたエゾユキウサギは前足を使って顔のグルーミングをした後、カンジキのように大きな後ろ足を入念に舐め始めました。春の陽気は冬の間に張り詰めていた動物たちの緊張を少しずつ緩めていきます。

冬をさがして エゾユキウサギ

 先日、早春を彩る福寿草が黄金色の花を咲かせていました。北海道にも春が近づいています。大雪山の裾野に広がる田園地帯は雪解けが進み、ハクチョウたちが落穂を目当てに集まっています。そんななか、名残惜しい冬を探してまだ雪深い山麓の森へとスキーを履いて入ることにしました。雪の上には多くの動物たちの足跡が残っています。キタキツネにエゾユキウサギ、エゾクロテンやエゾリスにネズミ類、エゾライチョウのものまで色々見られます。その中から真新しいエゾユキウサギの足跡を辿って1時間ほど歩くと足跡の主がようやく姿を見せました。雪より白い冬毛を纏ったエゾユキウサギがじっと座り込み、此方の様子を伺っています。私はスキーをゆっくり静かに滑らせ距離10mまで近づきましたが、動く気配はありません。その表情からすこし眠そうに感じられます。ナキウサギもそうですが時々このように警戒心の弱いウサギに出合うことがあります。山麓では、あともう少し冬を楽しめそうです。

ハクトウワシの越冬 北海道・風蓮湖

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 時に自然は思いもよらぬ幸運を運んでくれます。毎年訪れる冬の風蓮湖。本来北米に生息するはずのハクトウワシとの出合いは、私に運命的なものすら感じさせました。その美しい姿に引きつけられるように、風蓮湖から姿を消す2月下旬までそのハクトウワシを追い続けました。オオワシやオジロワシの海鷲の群れのなかで、1羽だけ違う姿のハクトウワシは力強く生きていました。

ハクトウワシとオオワシの攻防 北海道・風蓮湖

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 ハクトウワシはアメリカの誇り高き国鳥です。しかし自ら狩りをする事が少なく、オオワシやオジロワシと同様に他の動物や海鷲から獲物を奪うことが多く、その習性からスカヴェンジャー(死肉の掃除屋)とも呼ばれています。今回観察した風蓮湖でのハクトウワシの生態は、非常に興味をそそるものでした。当初、想像していた魚を得る方法は、自ら氷上に下りて氷下待ち網漁の雑魚を得るか、それとも体長が同等のオジロワシ、もしくは小さなトビから奪うものだと思っていました。しかし多くの場合、魚を持つオオワシに上空で果敢にアタックしているのを確認しました。体がひとまわり大きく飛翔能力の高いオオワシから魚を奪うことは、容易ではありませんでしたが、粘り強くチャレンジを続け能力の限りを尽くして魚を得ていました。大空で繰り広げられるハクトウワシとオオワシの攻防は、神々しくそして強い好奇心をかきたてる夢のような光景でした。

霧氷の湿原 エゾシカ

 北海道の平地では冬の終わりが近づいています。雪解けも進み、湖は解氷をはじめました。早くも多くのハクチョウたちが南から羽を休めに集まっています。今季は少雪のため、山から植物を求めて風衝地に下りてくるエゾシカが少なかったように思います。今朝も薄暗い時間帯に山の方へと戻っていくエゾシカの群れを見かけました。今年は春が早そうです。

雪原の舞踏会 タンチョウ

 この日は一日中、晴れの予報でしたが夕方近くになると雪が降ってきました。そんななかタンチョウたちが、まるで雪を喜んでいるかのように舞いはじめました。雪のなかで求愛のダンスをするタンチョウたちは、優美でいつも見とれてしまいます。

厳寒の造形 藻琴山

 降雪のあと屈斜路湖を取り巻く外輪山の最高峰、藻琴山に向かいました。稜線は10m以上の風が吹き、雪煙が次々と舞い上がりながら樹木を包み込んでいきます。ここが風衝地であることが、風雪に耐えるダケカンバの幹の形状からよく分かります。聞こえてくるのは、風が雪面を削る音と樹氷を纏った枝がぶつかり合う音だけです。動物たちの気配は感じられませんでしたが、しばらく進むとエゾユキウサギの丸く茶色のフンを見つけました。足跡は雪煙で消されていましたが、状況から明け方近くのものだと思われます。その姿を見ることは出来ませんでしたが、厳寒に耐えるユキウサギを想像することができました。

求愛の季節 タンチョウ

 いま給餌場に集まっているタンチョウたちは、もう一月もしないうちに越冬を終え繁殖地へと帰っていきます。今季は暖冬のせいか、早くも繁殖地にタンチョウのつがいが戻ってきていました。これから求愛の季節を迎え、優雅なタンチョウのダンスが道東各地で繰り広げられることでしょう。

月光夜 オオハクチョウ

 月光注ぐ穏やかな夜、群れから離れた1羽のオオハクチョウが水辺で羽を休めていました。目をつむり眠っているように見えますが、常にキタキツネなどの天敵に神経をとがらせています。気にかけるのは天敵ばかりではありません。厳寒の夜には、水辺で羽を凍らせてしまうことがあるのです。もう何年も前のことですが1度だけその光景を見たことがあります。一見すると夜は、オオハクチョウにとって羽を休める安らぎの時間のように感じますが、寒夜を越すことは命がけなのです。

冬の小さな来訪者 ベニヒワ

 越冬のために北方からやってきたベニヒワと3年ぶりに出合いました。毎年冬になると全長13cmほどの小さな冬の来訪者を探してまわるのですが、近年その姿を見ることが少なくなってきました。40羽ほどの小さな群れだったのですが、出合えて幸運でした。出合う度にいつもこの小さな体のどこに、遙か遠方から渡ってくるエネルギーがあるのだろうかと、いつも感心しながら見つめています。小雪降る早朝、私のことなど気にせず道ばたに生える植物の種子を夢中に食べていました。その姿に、いつも勇気をもらいます。

新雪の朝 エゾリス

 夜明け前からエゾリスが深い新雪のなかをもぐったりジャンプをしたりと数匹で追いかけっこをしています。樹上からはやわらかい雪の塊がエゾリスが移動する度に降ってきます。大雪が降った後のように私の体は、もう真っ白です。雪が降った朝の森は、エゾリスたちが久しぶりの雪を楽しんでいるかのように賑わっていました。

モノクロームの世界 釧路川

 今、この時期になっても北海道は暖冬が続いています。そのために大雪山山麓も記録的な少雪が続いています。雪の下で眠っている動物たちが、すこし心配です。たくさんの雪が保温材になって温かい寝床になっているのですが・・・これだけ雪が少ないと動物たちも一大事です。そんなことを思いながら三国峠を越えて北海道東部に入ってきました。今朝は氷点下19℃まで冷え込み、釧路川流域はモノクロームの世界に包まれました。日の出前からシマエナガの群れが囀りながら樹木を渡りあるいています。少し離れた林でクマゲラが喉を鳴らしながら飛翔しているのがわかります。厳寒のなかも動物たちは力強く生きています。

凍れた朝

 夜明け前の河畔林を、朝霧がゆっくりと包み込んでいきました。寒気の影響で氷点下16℃と、この時期らしい冷え込みです。やがて太陽が昇り、間もなくすると霧が生き物のようにゆらゆらと動き始め、目の前に白銀の世界がゆっくりとあらわれました。そのなかを、キタキツネが早足で臭いを嗅ぎながら上流の方向に向かっています。きっとお腹を空かせているのでしょうね。その様子を見えなくなるまで見つめていました。

晩秋の森

 大雪山の裾野に広がる森は例年にない長い期間、美しい紅葉を見せてくれています。これも温暖化の影響なのでしょうか。どこか緊張感のない暖かい晩秋を迎えています。8月下旬に大雪山の稜線で始まった紅葉前線は、平地まで駆け下りてきました。紅や黄色、それぞれ一色に染まる紅葉のピークも美しいですが、落葉間近の多彩な色を纏った森も、また惹かれます。今、そんな森ではミヤマカケスがドングリを落ち葉の下に忙しく貯食しています。今季はドングリが豊作のようです。

出合い ジュウジギツネ

 大雪山山麓の森は例年に比べ雪の少ない状態が続いています。寒気と暖気がくり返しやってきて、生活するには良いのですが何となく物足りない思いで過ごしています。そんな思いを引きずりながら山麓の森にスノーシューを履いて入ってみました。小鳥のさえずりも少なく森は、静まりかえっています。しばらく散策すると見慣れない動物と出合いました。はじめはタヌキかと思っていたのですが、近くまで寄ってみると、どうも違うようです。それは冬毛を纏った美しいジュウジギツネでした。知床の森では何度か見たことはあったのですが、大雪山の山麓では初めてです。森を歩いていると、いつも思いがけない出合いや発見があるものです。

雪降るなか アカゲラ

 強い寒気が北海道に連日の雪をもたらせています。そんななか、朝の森を歩いていると樹上から湿った雪の塊が落ちてきました。見上げてみるとエゾリスが横枝の根元でクルミを両手で大切に持ち、これから食事をするところでした。今年の夏の終わりに貯食したクルミなのかは分かりませんが、これから訪れる雪深い季節を越えるために貴重な栄養源になっています。それから間もなくすると、アカゲラが木々を渡り歩いて目の前までやってきました。鋭いくちばしで樹皮を突っついて昆虫類を探しているようです。雪降るなか、動物たちも力強く生きています。

 

ミズナラの森  エゾフクロウ

 北海道の平地でもようやく初雪が降り、この時期らしい寒さがやって来ました。毎年この季節になると、決まったようにミズナラの巨木が群生する森を散策します。今年の9月上旬に訪れた時には、ヘルメットを被りたくなるくらいにドングリが次々と落ちてきました。今、それを目当てに多くの動物たちが集まっているのが、雪の上に残る足跡からわかります。1番多いのはエゾシカの足跡で雪と枯れ葉を掘り起こして食べています。今季は、たくさんの栄養を蓄えることができるでしょう。今回、森に入った1番の目的はエゾフクロウを見つけることです。以前から目星をつけていた洞には居たり居なかったりと、年や季節によって異なります。この森に数カ所ある洞を確認して回っていると、一羽のエゾフクロウが目を閉じ、気持ち良さそうに休んでいました。今季はこの周辺が餌場になりそうです。夕暮れ近くになると、辺りの林床からはネズミが枯れ葉のなかを動く音が聞こえてきます。11月は、エゾフクロウが1年の中で最も狩りをし、脂肪を蓄えると言われています。

冬眠前 シマリス

 先週から雪虫が飛び始め、平地でも朝は氷点下まで気温が下がるようになってきました。大雪山の山腹は紅葉のピークを終え、駆け足で山裾へと下りています。今、この山域を生活圏とするシマリスは、真っ白い実(シラタマノキ)ばかりを頬ばっています。この実は甘く、ほんのり湿布薬のような香りがするのですが、それほど栄養素が高くはありません。本来ならこの時期、栄養素の高いハイマツの実を好んで食べているのですが、今季は希に見る不作のようです。もう間もなく冬眠に入るシマリスですが、それまでしっかり脂肪を蓄えて、来春も元気な姿を見せてくれることを願っています。

山麓の森のなかで エゾライチョウ

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 大雪山の裾野から伸びる田園地帯の稲刈りも終わりに近づいています。風に揺れる黄金色と濃い緑のパッチワークが映える光景もあっと言う間に消えて、晩秋の殺風景な景色が広がりはじめました。そこから少し足を伸ばした森の中で、繁殖期の春ほど大きな鳴き声ではありませんが、エゾライチョウが鳴いていました。鳴き声を頼りに近づいてみると、此方を気にせず林床の植物の種子をついばんでいます。本来、警戒心の強いエゾライチョウですが、来るべき季節に備え秋の実りを必死に蓄えているのでしょうね。北海道の秋は、人も動物たちも慌ただしく生きているように感じられます。

冬のはじまり シマリス

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 先日、大雪山の峰々をオオハクチョウの群れが、喉を鳴らしながら北から南の空へとV字編隊で越えていきました。繁殖を終えたシベリアから、越冬のため南へと渡ってきたのです。それから数日後、シベリアから張り出した寒気が大雪山に雪をもたらせました。吹雪の間、じっと巣の中で身を潜めていたシマリスは、2日間ほどで変わった景色に少し戸惑っているようです。まだ冬の蓄えが終わっていないのか、植物を探し雪原の中を駆け回っています。山の上に生息するシマリスは、あと一月もしないうちに長い長い冬ごもりに入ります。

貯食行動 エゾナキウサギ

 10年ほど前によく通った大雪山系にあるエゾナキウサギの生息地を久しぶりに散策した。記憶をたどりながら沢筋のガレ場に足を踏み入れて間もなくすると、エゾナキウサギのお出迎えがあった。2~3度岩の上で鳴くと、周辺に生息する植物の葉を岩の下にある貯職場へと運びはじめた。これから10月下旬にかけて、冬に備え忙しく植物を運ぶ力強い姿が見られるだろう。

秋色 シマリス

 大雪山の稜線付近の高山植物は早くも秋色へと変わり、コケモモやガンコウラン等の秋の実りを目当てに動物や鳥たちが忙しく駆け回っている。日一日と濃くなる秋色は一月ほどで山裾まで駆け下り、今月下旬には雪化粧した山容が見られるだろう。

ひと雨ごとに ヒグマ

 北の森ではお盆を過ぎると、ひと雨ごとに季節が秋へと移ろいでいく。秋は冬眠に備える動物たちにとって大切な季節。静かな場所でしっかりと栄養を蓄えて欲しいと願う。

真夏日 エゾシカ

 燦々と照りつける夏の日差しのなか、初夏に生まれたエゾシカの子供が森のなかで母ジカの帰りを待っていた。産まれたばかりの子ジカの体重は6kgほどと、小さく頼りないが日一日とすくすく成長し、いま森の中を勢い良く走りまわっている。

エゾユキウサギ

 早朝、白樺の幹が目立つ森はカラ類の囀りで賑わっていた。緑萌ゆる林床は朝露できらきらと輝き、50mほど離れた木陰からエゾシカの親子が不安そうに顔を覗かせていた。しばらく森のなかを進むと、夏毛に換毛したエゾユキウサギが周囲の環境に溶け込みじっと身を潜め休んでいた。

木漏れ日のなかで キタキツネ

 まだ雪が残る4月下旬に巣穴から初めて顔を見せた仔ギツネが、森の中で母ギツネの愛情を受けてすくすくと育っている。母ギツネが給餌した蛇やネズミを3匹の兄弟が取り合ったり、遊んだりと元気よく駆け回っている。子別れを迎える秋まで多くのことを、この森で学び成長していく。

 

巣立ち前 クマゲラ

 原生林の森にクマゲラの鳴き声が響き渡っていた。この時期に繰り返される鳴き声は、ヒナ鳥への巣立ちを促すものだ。その行動は巣立ちに向けて日に日に強くなり、ヒナ鳥への給餌も少なくなってくる。間もなくこの周囲からクマゲラの鳴き声が無くなるだろう。

密やかに コサメビタキ

 気温が上がりはじめると体長13cmほどのコサメビタキが、緑深い林から姿を現せた。木陰を飛び交う昆虫をじっと枝先から見つめた後、目当ての昆虫を飛翔し捕らえヒナ鳥が待つ樹上の巣へと忙しく運んでいた。

子リスの冒険 エゾリス

 緑濃くなる森では、エゾリスの子がすくすく成長している。好奇心旺盛な子リスは樹上にある巣穴から顔を出し、少しずつ行動範囲を広げている。時には樹上から落下したりと失敗しながら多くのことを学んでいく。

森の小さなハンター ハイタカ

今まで賑わっていた森が、突然静まりかえった。この数日、樹上を旋回するハイタカを目にする度に小鳥たちの囀りが少なくなり、森に張り詰めた空気が漂っていた。ハイタカは日一日と色濃くなる樹冠を縫うように飛翔し、横枝に止まるとじっと森の彼方を見つめていた。

美しい囀り キビタキ

 朝から気温が上がり例年にない熱気が、北の森を包み込んでいる。しかし、そんななかでも小鳥たちの美しい囀りは、森中に響き渡っている。なかでも一際、美しく囀っているのはキビタキのオス。毎年、この囀りを楽しみに初夏を待っている。

「BEAR LAND」フォトギャラリーを更新しました

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 4月の上旬、まだ雪深い大雪山の山麓で親子グマの足跡を見つけました。真新しい足跡ではありませんでしたが、その足跡を少したどることにしました。まだ食べられる植物が少ない季節、行くあてもなくさ迷うように移動しているように感じました。母グマは自分の身だけではなく、2頭の子熊を守り育てていかなければならないので必死です。しかし、それらを育むだけの豊かな森が減少し、どうしようもなく人里に姿を見せることが多くなっています。

 

 想像してみてください。私たちと同様に強い絆と感情で結ばれている動物たちもこの土地に生き、人知れず生命を育んでいることを・・・

 

フォトギャラリー 「BEAR LAND」

萌ゆる春

 山麓の森を春色に彩っていた山桜の花びらも散り、季節は駆け足で移ろいでいる。エゾリスは冬毛から夏毛へと生え変わり、これから向かう季節への準備をしている。北の森は南からの渡り鳥も集まり、多彩な音で賑わいはじめている。

つながり 大雪山 シマエナガ

 鋭い刃物で切断されたようなエゾユキウサギの食痕から滴る樹液を目当てにシマエナガがやってきた。自然界には無数にこのような小さなつながりが、密やかに繰り広げられている。

森のスプリンター 大雪山 エゾユキウサギ

エゾユキウサギは、天敵キタキツネを上回る瞬発力をもつスプリンターだ。特に雪の上では、カンジキのような大きな足で、あっと言う間に森の彼方へと消えていく。逃げ足時の歩幅は2m~2、5mあり、体長50cmほどの小さな体からは、想像出来ない跳躍力だ。

森の剪定屋  大雪山 エゾユキウサギ

 樹林のなかに続くエゾユキウサギの真新しい足跡を辿ると、雪の重みで倒れたカンバ類やハンノキの若樹と樹皮を採餌しながら移動しているのがわかる。足跡を1時間ほど辿っても天敵キタキツネの足跡は見当たらず、食痕や歩幅からリラックスしている様子が目に浮かんでくる。それと同時に直感的にエゾユキウサギとの距離が近いことを感じた。それから間もなく、ハンノキの根元に潜むエゾウサギに出合うことができた。過酷な環境で生きているにも関わらず、その表情はなんとも穏やかで、そして気品に満ちていた。

春の気配 大雪山

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 照りつける強い陽光が大雪山の長く厳しい冬に終わりを告げ、ようやく春へとゆっくり進みはじめた。春の気配を待ちわびていたかのように、キタキツネやエゾユキウサギの足跡が樹林から稜線へと続いていた。

雪上の足跡 大雪山 エゾユキウサギ

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 新雪が降ったあとの雪原に、エゾユキウサギの足跡が樹林へと続いていた。その足跡を辿るとキタキツネが姿を見せ、足跡を追うように樹林へと消えていった。

 捕食者であるキタキツネは、鋭い嗅覚と足跡を頼りにエゾユキウサギを追い続ける。命の攻防は、僕らの知らぬ世界で連綿と続いている。

優しい音色 大雪山 ウソ

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  ふと立ち止まると、口笛を吹くような優しい囀りが夕暮れの森を包みこんでいた。双眼鏡で声の主を探すと数羽のウソが、トドマツの樹上で鳴き交わしている。丸一日、雪上に残るエゾユキウサギの足跡を追った疲労を忘れさせてくれる優しい音色にしばらく聴きほれていた。

新雪の朝 大雪山 キタキツネ

 朝、目を覚ますと15cmほどの新雪が降り積もっていた。森林限界付近の森は、霧と雪で白一色の世界が広がり、その中をキタキツネが獲物を追っている最中なのか、低姿勢で足早に通りすぎていった。

ファッション雑誌「Fine」に写真が掲載されています

 ファッション雑誌「Fine ファイン」5月号(日之出出版)に大雪山で撮影したエゾシカの写真が掲載されています。是非、ご覧ください。

北帰行 オオハクチョウ

 春の日差しと風が湖沼や河川の解氷を進め、オオハクチョウの群れが南から続々と集まっている。しばらく羽を休めて4月半ばには、繁殖地のシベリアへと約3千kmの旅に出る。

まだまだ、大雪山は白銀の世界  ギンザンマシコ

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  春の兆しが強くなった道東エリアを離れ、大雪山へと移動した。標高1500m付近の森林限界は、白一色の世界が広がり、まだ長い冬は続いている。氷点下13℃の凍てつく冷気のなか、ギンザンマシコの少群が針葉樹の森を餌を求めて移動していた。

春のめぐみ エゾリス

 森の樹木も冬眠状態から目覚め、春の芽吹きに向けて準備をしている。根から大量の水を吸い始めたカエデやシラカバの幹からは、樹液が滴っている。森の動物や鳥たちは、ミネラル豊富な樹液を目当てに集まり、春のめぐみを喜んでいるようだ。

流氷接岸 根室半島

 2年ぶりに根室半島に流氷群が接岸した。早朝から繁殖期を迎えた水鳥たちの甲高い鳴き声が、流氷の海に響き渡っていた。

恋の季節 エゾモモンガ

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 早春の森の中をエゾモモンガがメスを求めて滑空し、忙しく活動していた。本来夜行性のエゾモモンガも繁殖期を迎えた数日間、カラスや猛禽類等からの捕食のリスクをかえりみず日中に活動する。5月上旬には、樹洞内で2~5匹の生命が誕生するだろう。

雪原のハンター キタキツネ

 駆け足で春へと進んでいた道内だが、大型低気圧が再び白銀の世界をもたらせた。ぼたん雪が舞うなか、キタキツネが雪の下を移動するネズミを感じとり、頭から雪原にダイブした。特殊な能力をもつキツネでも、狩りの成功率は高くはない。

角突き エゾシカ

 秋、メスをめぐり争うオス鹿は70cmほどの大角を振りかざし、繁殖行動を勝ちとる。この頃になるとオス鹿は目が充血し鼻息も荒くなるので、近づくのをためらうこともある。角突き行動は繁殖期だけではなく、角が落ちる春まで続く。今、この季節に見せる角突きは、若いオス鹿が遊びで行うことが多いが、大角の成獣が餌場をめぐるテリトリー争いで激しく戦うこともある。

湖上の道 エゾシカ

 1月下旬から長く続いた大寒波で風蓮湖は広範囲にわたり結氷したが、連日続く暖気の影響で勢い良く解氷が進んでいる。早くも北帰行を始めたオオハクチョウは、シベリアへの旅支度のため羽を休めにやってきた。氷上に無数に続くけもの道も、今月中には消えてなくなるだろう。

晩冬の朝 キタキツネ

 夜通し餌を求めて動き回り疲れたのか、それとも厳寒に耐え丸まっているのか定かではないが、陽が昇ってもぐっすり休むキタキツネ。早ければ今月下旬に土穴で3~5匹(通常)の生命が誕生する。

恋の季節 エゾリス

 北の森は日一日と雪解けが進み、日差しもすっかり春らしくなってきた。朝から森は、恋の季節を迎えたエゾリスたちが忙しく樹林を駆け回っている。4月には樹上で新しい生命が誕生する。

スズメの越冬

道内は小雪が舞い、まだ寒い朝が続いている。スズメたちは羽毛を膨らませ群れになって暖をとり、厳冬を越す。春はもう少し先になるだろう。

全面結氷  摩周湖

結氷し始めた摩周湖に一週間ほど足を運んた。毎日のように氷面は多彩な表情を見せ、幻想的で美しい光景が流れるように過ぎていく。月明かり注ぐ穏やかな夜を越えると、摩周湖は全面結氷していた。

サンピラーとダイヤモンドダスト 摩周湖

 強風が吹く極寒の朝、摩周湖の外輪山に太陽が顔を出すと結氷した湖面にサンピラーが降り注ぎはじめた。流れる雲に時折遮られながらも幻想的な世界は1時間ほど続いた。

ダイサギの越冬 釧路湿原

 近年、道南や道央エリアで越冬するダイサギの個体数が多くなっているようだが、道東エリアで目にすることは少ない。日一日と寒さが厳しくなるなか、ダイサギは全面結氷間近にある湖沼の河川流入域で、周りの景色に溶け込み魚を狙っていた。

氷点下28℃の燃えるような朝 釧路湿原

 連日氷点下25℃前後の寒い朝が続いている。釧路湿原を縫うように流れる釧路川は、気嵐が立ち上がり幻想的な表情を見せる。太陽が顔を見せると気嵐は、炎が燃え上がるように河畔林を紅く包み込んでいった。

オジロワシとハシブトガラス  釧路湿原

季節を問わずオジロワシの近くには、カラスが何時も付いて回っている。特に餌の少ない冬には、森林や湿原でその姿を見かける事が多い。カラスはエゾシカなど動物の屍を見つけても、分厚い毛皮を剥ぎ取り肉にありつくことが出来ない。そこでカラスは群れになって樹上で鳴き騒ぎ、鷲やキタキツネを呼ぶ。やがて鷲の採餌が始まると隙を見ながら肉の破片を食べる。カラスは食べ物の場所を教える代わりに、楽に御馳走にありつけることを分かっているのだろう。一見、鷲にとっては厄介者のカラスにみえるが、厳しい冬を乗り切る大切なパートナーだと感じる。

厳冬のオアシス 釧路湿原 オオワシ

厳冬期になり多くの湖沼や河川が結氷するなか、数少ない水場に水鳥が採餌や水浴びのためにやってくる。それを目当てにオオワシやオジロワシが現れ、樹上でじっと狩りのタイミングを待ち続ける。夕暮れ近くになるとオオワシが樹上から飛び立ち上空を旋回すると、一気に水面へ急降下した。勢い良く水しぶきをあげた鉤爪には、しっかりとアメマスを捕らえていた。

サンピラー 釧路湿原

 氷点下18度の風のない朝、釧路湿原に太陽が昇ると光の柱は忽然と現れ、粉雪が舞うように煌めきはじめた。

冬の嵐 シロカモメ

この日は昼まで青空が顔を見せ、氷上で休むアザラシの撮影が出来るほど穏やかな海だった。しかし低気圧がオホーツク海へ抜けると、海沿いは次第に風雪が強まり始めた。夕暮れ近くになると立っていられないほどの暴風雪へと変わり、やがて辺りはホワイトアウトとなる。そんななかもカモメたちは、自由自在に風に乗り飛び交っていた。

ダイヤモンドダストが煌めくなかで  / ハシブトガラ ・ 釧路湿原

 凍った冷気が陽光で温まると、ハシブトガラの群れが樹々を忙しく飛び交い始めた。その中の一羽が、煌めくダイヤモンドダストを見つめるように梢にふと立ち止まった。

雪のあと エゾフクロウ

 昨晩に降った雪で森は、すっぽりと白に包まれた。明け方まで洞のなかに入っていたエゾフクロウは、森に陽が差し込み始めると顔を出し、うとうとと気持ち良さそうにまた眠りについた。

 

霧氷の森 釧路湿原

 風が止み氷点下15度の朝を迎えると、釧路川流域の河畔林は霧氷に包まれた。やがて陽が昇るにつれ、モノクロームの景色へと変わっていく。しばらくすると密生するヨシ原の隙間を縫うように移動するエゾシカが顔を出した。

御神渡り  釧路湿原・塘路湖

 山間にある塘路湖の氷上で、夕暮れから日の出まで「御神渡り」の撮影を続けた。日没から薄暮までの間、氷の表情刻々と変化し1時間あまりで天上に星が瞬きはじめた。突然、歪みによって起こる氷上の轟きと揺れに驚いていると、遠くの湖畔林からキタキツネの鳴き声が聞こえてきた。もうそろそろ恋の季節を迎えるころだ。

凍結湖  釧路湿原国立公園・塘路湖

 釧路湿原の北東部にある塘路湖は、昨年末から続く寒波の影響と降雪の少なさもあって例年にない美しい光景を見せてくれている。全面結氷した湖は、日に日に氷の厚さを増し、数カ所で「御神渡り」が現われている。御神渡りは、氷が昼夜の寒暖差による膨張と収縮を繰り返しながら盛り上がる現象で、いまも轟音とともに規模を増大させ続けている。氷上に雪が積もるまで、その表情を楽しませてくれるだろう。

謹賀新年

新春のお慶びを申し上げます。昨年は、当ウェブサイトを御高覧いただきありがとうございました。近年、日本をはじめ世界中で地震や気象の変化等による自然災害に見舞われることが多くなってきました。この10年余り、道内の自然や動物たちを見つめてきましたが、10年前と比べると動物たちの環境も大きく変化したことを感じます。今後もその状況は、大きく変化すると思います。人と自然、動物たちとの共生は困難な課題ではありますが、微力ながらその関係が良い方向へと進む架け橋となれるように撮影していきたいと思っています。

本年が穏やかな1年になりますように願っています。

「Frozen Hokkaido」フォトギャラリーを更新しました

いま北海道には越冬するためにハクチョウなどの渡り鳥が次々と訪れていますが、今季の冬の訪れはすこし遅くなりそうです。しかし、あと一月もすれば厳しい冬が必ずやって来ます。そんな季節にしか見られない光景とそこに健気に生きる動物たちの姿をまとめてみましたのでご覧ください。「Frozen Hokkaido」

秋風 礼文島・地蔵岩

 海を伝ってくる北寄りの風が冷たくなり、季節は秋へと駆け足で移ろいでいる。この島で生まれたウミネコのヒナも、風を上手くつかみ自在に飛べるようになった。すっかり日没も早くなり、水平線に陽が沈むのと入れ替わるように漁り火が煌々と照らし始めた。

風と花  礼文島

 海岸に沿って続く遊歩道脇に、ノコギリソウが強風に身をまかせながら咲いていた。この島の植物たちは、風とともに力強く生きている。

ガンゼ(バフンウニ)、ノナ(キタムラサキウニ)漁 利尻島

利尻島沿岸は良質な昆布が繁茂し、それを食べるウニの好漁場でもある。早朝から漁師たちは海に出ると箱眼鏡で覗きながらスラスターと足櫂を巧みに使い、タモ網で採取する。腕の良い漁師は、1~2時間で剥き身にして10kg以上のウニを採り出荷する。漁は、9月いっぱいまで凪の良い朝に1~2時間おこなわれる。

森の宝石 ブッポウソウ 

夕暮れ時、利尻山の麓にある森で斜光に照らされ碧く輝く一羽の鳥が目の前を横切り、一本の立ち枯れた木の先端部に止まった。見慣れないその姿に一瞬にして全身に興奮を覚え、鬱蒼と茂る樹林のなかに飛び込んだ。望遠レンズにその姿を鮮明に捉えると、美しく輝く翡翠色の羽と真っ赤な嘴と足、紛れもなく「森の宝石」と呼ばれるブッポウソウだ。見晴らしのきく樹上で頭を上下左右に小刻みに動かし、勢い良く飛び立ちトンボなどを飛翔しながら捕まえ、また元の止まり木に戻ってくる。それを何度か繰返し、太陽が沈む頃には深い森へと消えていった。

姫沼の夜明け 利尻島

 薄明のなか姫沼の水面に星々がひとつ、ひとつと消えていくと、センダイムシクイの囀りが対岸から響きわたってきた。空気は日に日に冷たくなり、オシドリやノゴマなど婚姻色の鮮やかだった鳥たちの生殖羽も換羽し、周囲の環境に馴染んできた。青々としていた樹木の葉も少しずつ黒ずみ始め、最北の島はゆっくりと夏から秋へと移ろいでいく。

「風景写真」(9-10月号 8月20日発売)に大雪山の紅葉の写真が掲載されます

本日発売されます写真雑誌、「風景写真」(9月ー10月号)の表紙と巻頭ページに大雪山の紅葉の写真が掲載されています。是非、ご覧ください!

オタトマリ沼のウミネコ  利尻島

 夕暮れ近くなると風が静まり、オタトマリ沼の水面は鏡面のように周囲の森を映し始めた。どこからともなく現れたアマツバメが利尻山を背景に飛び交い、時折水面すれすれに飛翔しながら大きく開口して水を飲んでいる。沼の中央ではヒナ鳥を連れたウミネコの群れが、斜光を浴びて優雅に水浴びをしている。群れの出入りは忙しく、水浴びを終えて飛び立つと飛翔しながら身震いをひとつして一羽、また一羽と海岸の方へと消えて行った。

利尻の養殖昆布 利尻島

 浜は早朝から昆布(天然・養殖)やガンゼ(バフンウニ)・ノナ漁(キタムラサキウニ)の磯舟で賑わっている。そのなかでも養殖昆布の操業は未明から活気づき、利尻島の漁家の大きな収入源となっている。天上に星が瞬く真っ暗闇から、ライトを灯した和船が次々と出港し、2kほど沖にある養殖場で操業を始める。一航海で2m以上に成長した昆布を纏った100mの綱をウインチで巻き上げると、20分ほどで全長10mほどの和船は昆布の山となる。帰港し昆布をトラックに積み込み干場まで運ぶと、それを20人ほどで干場に隙間なく並べていく。多い日にはそれを4回転し、昆布の重量は乾燥した状態で約1トンにもなる。大規模な養殖昆布の漁家では、ひと夏で10トン以上の昆布を水揚げする。古老の漁師は、「養殖昆布のおかげで、冬の本州への出稼ぎに行くこともなくなった」と話してくれた。

擬態 オオコノハズク

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 夕暮れ前の森に同化したオオコノハズクが、エゾマツの樹上で微動だにせず鋭い眼光をこちらに向けてきた。大きな橙色の瞳が特徴的だ。その近くの低木でヒナ鳥がすやすやと眠っている。まだヒナ鳥は飛翔能力が低く、親鳥がハンティングした昆虫や小鳥などの給餌に頼る。

利尻山  利尻島

  北海道北部に位置する稚内から約50km離れた日本海に浮かぶ利尻島に初上陸した。全周63kmになる円形の島の中心に利尻山がそびえ立ち、山裾には針広混交林が広がる。島を囲むように海岸沿いの道路脇に漁家と昆布の干場が並び、隣接した草原からノゴマやノビタキの囀りが聞こえてくる。島の全域から望める独立峰がもたらすのは美しい景観だけではない。島を周りながら山の表情と気象を観察していると、風量や風向きにより各地域で異なる変化を見せる。利尻山を挟んで風上・風下の地域で天候が違い、北風が吹けば島の北側は雲がもくもくと湧き始め、やがて霧となって原生林を包みこむ。山を越えて南側はフェーン現象が起き、乾いた熱気が下降して雲一つない澄みわたった青空になる。また、山頂付近には笠雲(レンズ雲の一種)が発生しやすく、島と独立峰がもたらす特異な自然現象が見られる表情豊かな美しい島だ。

静寂の夜に オオコノハズクのヒナ

 一昼夜降り続いた雨が止むと、天上には星々が瞬きはじめた。樹林をかすめ、触れるそよ風が心地良い穏やかな夜だ。静まりかえった山麓の森から時折コノハズクやオオコノハズクの鳴き声が聞こえてくる。この森でクマゲラの古巣を使い繁殖する体長20cmほどの小さなフクロウの仲間だ。森に響くその透き通るような声を聞きながら、先日巣立ちしたオオコノハズクの雛との幸運な出合いを回想し、眠りについた。

日本海の夕景を望む オジロワシ

 10羽ほどのウトウの群れが日本海の波間を海面すれすれに飛翔し小魚の群れを追いかけている。この体長40cmほどの海鳥は、ペンギンのように両翼で羽ばたきながら潜水し、時には水深30mまで潜り採餌する。その様子を一羽のオジロワシが、黄金色の夕陽が照らす岩礁の上からじっと見つめていた。

雨上がりの朝 オオジュリン

 雨上がりの朝、エゾカンゾウの咲く原生花園に向かった。低気圧の影響で青々した草木は波打ち、それに付着した滴がキラキラときらめいている。そんななか一羽のオオジュリンが振り子のように大きく揺れるエゾカンゾウの茎につかまり「チュッ、チイ、チイ、チュッ、チイ、チイ・・・」と優し声で囀っていた。

森の歌 コマドリ

「ヒンカラカラカラカラ・・・」山麓の森にコマドリの囀りが木霊している。木々が風に揺れてざわめくなかも、その力強く美しい囀りは、途切れることなく流れてくる。その美声に誘われ、鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れると、まるで合唱をしているかのようにコマドリの美声が至る所から聞こえてくる。しかし間近で囀りを発するものの、生い茂る笹やぶに身を潜めて姿を見せない。しばらくトドマツの大木の陰で観察することにした。すると囀りの合間に笹やぶのなかを機敏に動き回り、昆虫を採餌しているのがわかる。すると突然、笹やぶから赤褐色の小鳥が飛び出しハンノキの横枝に止まると尾羽を上下に振り、小さな身体を目一杯震わせながら囀りはじめた。しばらく森は、コマドリの合唱で包まれていた。

初夏の恵み  シマリス

 あれだけ森を賑わせていたエゾハルゼミの鳴き声も日一日と弱まり、コマドリやウグイスの囀りが森の至る所から聞こえてくる。青々した樹冠からはアオバトやツツドリの鳴き声が聞こえ、その姿をひと目見ようと樹上を見上げ歩いていると、高さ15mほどのハルニレの樹上で2匹のシマリスを見つけた。太い幹から枝先まで手足を器用に使い速やかに渡ると、背伸びをしながら翼果を掴み、次々と頬袋に詰め込んでいく。時折強風で枝が上下に大きく揺れるものの、警戒することなく必死に採餌している。間もなくするとハシブトカラスが現われ、その気配を早々に察した2匹のシマリスは大急ぎで林床へと姿を消した。いまシマリスは地中の巣穴で子育て真っ最中だ。

穏やかな朝 カイツブリ

 風のない穏やかな朝、原生林に囲まれた沼は水鏡となって深緑を映し出していた。周囲の森からはコマドリの美声が途切れることなく聞こえ、時折遠くの立ち枯れた松の大木をクマゲラが鳴きながら行き交い、ドラミングの音が木霊している。沼では体長25cmほどの小さな水鳥カイツブリが巧みに潜水しながら採餌し、「キューリリッー、キュリリッ・・・」と鋭い声で鳴きながら水面を滑るように移動していた。

森の小さな生命 クマゲラ

 「キョーン・キョーン」とクマゲラの鳴き声とドラミングの音が交互に連続して山麓の原生林に蝉の鳴き声をかき消して木霊している。親鳥が営巣木やその周囲の樹上から雛に巣立ちをうながす行動だ。最盛期には日に10回前後の雛への給餌も巣立ちに向けて日に日に減少し、巣立ち間際には2~3回ほどになる。この頃になると雛は巣穴の縁に足爪をかけて体を乗り出し「キュンッー、キュンッー・・・」と親鳥を呼ぶ甲高い声が森中に響き渡る。あと2~3日すれば3羽の雛は巣立ちを終え、営巣木周囲の森はこれまで何もなかったかのようにエゾハルゼミの鳴き声に包まれるだろう。

森の小さな生命 ノスリ

 いま森は新しい生命が次々と誕生し賑わっている。針葉樹林の樹上で営巣し孵化したノスリの3羽の雛が顔をだし、親鳥が持ち帰るネズミを今か今かと待ち続けている。上空を親鳥が「ピーヨー、ピィーエー」と鳴きながららせん状に旋回し見守っている。しばらく観察を続けようと思ったが親鳥の警戒心が強く早々に針葉樹の森をあとにした。

季節外れの寒さ ハシブトガラの子育て

北の森は、先日までの真夏日が嘘のように冷え込んでいる。寒気の到来で日中でも気温が10度に満たず、併せて強い北風がごぉーごぉーと樹木を揺らし身にしみる寒さが続いている。そんななかもハシブトガラの雌雄は雛へのエサ運びを途切れることなく続けていた。体長10cmほどの小さな体のどこにこれだけのエネルギーがあるのか不思議に思うと同時に感心する。営巣木に近づくと風の音にかき消されながらも雛の小さな鳴き声が聞こえてきた。もう間もなく巣立ちの時期がやってくる。

瑠璃色の鳥 コルリ

「チッチッチッ・・」「ピールリピールリピールリ」鬱蒼とした森の奥から美しい囀りが聞こえてくる。コルリの囀りだ。多くの森でその美声を聞くが、なかなかその姿を見せてはくれない。その理由は樹上で囀ることが少なく林床で行動することが多いからだ。早朝、森中に響きわたる美声の主を一目見たいと一本の沢筋にたどり着くが、なかなか姿を見せない。しばらく待つと笹藪から瑠璃色の鳥が飛び出し、ホオノキの枝に止まると小さな体を震わせ囀りはじめた。ひと鳴きし姿を消すと再び森の奥から美しい囀りが聞こえはじめた。

初夏の森 仔ギツネ

 北の森は小鳥の囀りが少なくなり、代わりにエゾハルゼミが元気よく鳴きはじめている。あれだけにぎやかに囀っていたキビタキも巣作りを終え抱卵をはじめた。林床は見る見るうちに緑濃くなっていく。キタキツネの巣穴もオオイタドリやバイケイソウの茂みに隠れ、仔ギツネたちも安心して顔を出し遊んでいる。季節はあっという間に移ろいでいく。

真夏日  エゾリス

 高気圧が張り出した道内は連日30度を超す暑さが続き、地平線に顔を出す山並みから夏雲が次々と湧いてくる。早朝から森の隅々までエゾハルゼミの声に支配され、時折カッコウやツツドリの鳴き声が樹上から聞こえてくる。今、森の動物や鳥たちは子育て中ではあるが、あまりの暑さに動きが鈍く朝晩の涼しい時間帯以外はじっと日陰で休んでいた。

森の音 キビタキ

 日一日と緑濃くなる北の森は、恋の季節を迎えた鳥たちの多彩な囀りでにぎわっている。なかでもひときわ高音で美しく囀っているのはキビタキのオス。樹上で鮮やかな黄色の体から美しい囀りがはじまると森中に響き渡った。ペアになるまでもうしばらく森は多彩な音色で包まれるだろう。

新緑の森 センダイムシクイ

 新緑が芽吹く森でセンダイムシクイが小さな体を震わせながら囀っている。樹上を忙しく移動するためにその姿を見ることは難しいが、甲高く美しい囀りは森中に木霊している。

「大雪山のナキウサギ」フォトギャラリーを更新しました

フォトギャラリー「大雪山のナキウサギ」をアップしましたのでご覧ください。

花薫る森 エゾリス

 雨上がりの森は早朝から甘いエゾエンゴサクの薫りが漂い、オオルリやキビタキなどの渡り鳥とカラ類の囀ずりで賑わっている林床はエゾスジグロシロチョウやシジミチョウの仲間が花の蜜を求め舞い、時折子育て真っ最中のエゾリスが植物の種子を求めて顔をだす。北の森は春の息吹で彩りはじめ、さわやかな風が若葉のなかを吹き抜けていく。

マガンのねぐら立ち 美唄市 宮島沼

 マガンの国内最大の寄留地である宮島沼に今春も5万羽ほどが飛来し、周辺の田園地帯を行き来しながら羽を休めている。沼からは夜通しマガンの鳴き声が絶えず、薄明かるくなると更に強まっていく。やがて東の空が赤く染まりだすと水面を右往左往しながら移動を始め、鋭い羽音とともに一斉に飛び立った。あっという間に空一面を覆いつくすと、そのまま西の方角へと消えていった。もう間もなく繁殖のためにシベリアへと渡っていく。

オナガガモとオジロワシの攻防

 無数のオナガガモの群れが河川を黒一色に埋め尽くし、絶え間ない鳴き声が共鳴し大気が震動している。目の前に広がる無数の生命の躍動に圧倒され引き込まれていく。夕刻、どこからともなく一羽のオジロワシが上空に現れると、オナガガモが鋭い羽音とともに一斉に飛び立った。目の前の光景は一瞬にして異空間へと変わり、オジロワシの標的となった一羽だけが河川にとり残され、オジロワシの攻撃を潜水でかわしながら逃げ惑っている。やがてオジロワシは狩りを諦め去ると、河川は見る見るうちにオナガガモで埋め尽くされていった。

春の海 ラッコ 根室半島

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 春の陽射しがきらきらと輝く青海原に一頭のラッコが姿を見せた。外海は東からのうねりが強く白波が次々と岩礁をのみ込み、その上空をカモメが飛び交っている。雌雄のシノリガモが潜水し採餌する姿が大波のはざまに見え隠れする。この冬、根室半島に何度かラッコを探し訪れたが、出合えたのはこの日が初めてだった。うねりを遮る穏やかな入江にある岩礁の周りを、1分間ほど潜っては魚介類を捕まえ仰向けで食べている。それを何度か繰り返しているうちに、こちらに気付いているのかいないのか目の前までやってきた。すると水中を縦や横方向にくるくる回り始め、器用に手を使い丁寧にグルーミングをはじめた。20分ほど続いただろうか、くるっと体を反転させ潜水すると、岩礁にあるお気に入りの寝床へと戻っていった。

春の雪 タンチョウの抱卵  風蓮湖

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 淡雪が舞うなかタンチョウが抱卵を始めた。観察を始めて3季目になるこの湿原は風蓮川の支流域に位置し、毎年2羽の雛を無事に孵化させ育てている。2つの卵が孵化し育つのは10%ほどと言われ、このタンチョウの番は子育て上手と言ってもいいだろう。巣の周囲は丘陵地に囲まれ、天敵である猛禽類やキタキツネに襲われ難い環境も大きく影響している。また餌となるエゾアカガエルやトゲウオ(トミヨ)などの小魚も豊富に生息し恵まれている。産卵から孵化までの約30日、雌雄が約3時間おきに交代しながらじっと卵を温め続け、夜間は主にメスが温めている。交代時に垣間見る卵は次第に焦げ茶色に変化し、やがて嘴打ちが始まる。孵化は丸1日かけて親鳥の嘴の助けも借りながら誕生する。2卵目の誕生は翌日か翌々日、2~3日ほどで巣から離れ親鳥に必死について移動する。新緑が芽吹く頃、よちよち歩きの愛らしい雛の姿がこの湿原で見られるだろう。

旅の支度 オオハクチョウ 風蓮湖

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 先日の淡雪が春の訪れを告げるように、風蓮湖周辺はすっかり春めいてきた。ヒバリが上空で騒がしく囀りまわり、ミヤコドリが干潟で紅い嘴を忙しく動かしアサリを啄んでいる。辺りの林床は雪どけのあとからフクジュソウやフキノトウが顔を出し日一日と緑濃くなっている。多くは北へと旅立ったオオハクチョウやヒシクイも、まだ少数の群れが湖の片隅で羽を休め旅支度をしている。薄明から30kmほど離れたデイトコ-ン畑へと少数の群れで飛び立ち、夕暮れまで昨年の収穫時に落ちたトウモロコシの実を採餌し風蓮湖に戻ってくる。長距離にも関わらず不思議と毎日同じ沢伝いの飛翔ルートを使い行き来している。その様子を観察しているとこのまま越夏するように思うが、もう間もなくこの湖から忽然と姿を消す。

クラカケアザラシの親子を探して 知床

 昨日から強い南風が吹き続けている。大雪山などでのテント生活が長かったためか風には敏感に反応するようになり一種の職業病になりつつある。この十数年、気象情報を日に何度も確認するのが日課となり、それと併せてオホーツクの流氷が接岸する1月中旬頃から流氷終日まで毎日のように海氷図も確認している。今月の10日時点で海氷群は北緯45度の択捉島西側に位置しており、この風で更に北上したと思われる。春になりこの時期まで流氷の状態が気になるのは、3月下旬から4月中旬にかけて氷盤で出産するクラカケアザラシの親子に出合いたいという思いからだ。3月下旬、早朝から船で流氷群を縫いながら羅臼沖からウトロ沖まで約10時間探し回ったが出合えたのは成獣のクラカケアザラシのオスとゴマフアザラシの2頭だけだった。30年ほど前、羅臼沖でスケソウダラが豊漁だった頃、羅臼沖に浮かぶ大きな氷盤の上で数百のアザラシが休んでいたと漁師に聞いたことがある。当時はアザラシの親子も多く見られたようだが、近年では流氷群で成獣を確認することも難しくなってきている。

 網走地方気象台の海明けの発表を終え、このまま流氷終日を迎えるだろう。来季のクラカケアザラシの親子との巡り合わせを願い、遙か彼方のオホーツク海の氷盤の上で真っ白い産毛を纏ったアザラシのつぶらな黒い瞳を思い描く。

※ 海明けは全氷量が50%以下となって沿岸水路ができ、船舶の航行が可能になった初日。

※ 流氷終日は視界内の海面で流氷が見られた最後の日。

春告魚・ニシンの大群  風蓮湖

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 風蓮湖の解氷に合わせるようにニシンとチカの大群が産卵のために回帰している。漁師は早朝から舟に溢れんばかりの魚を積んで漁場を何度も往復し、船外機の爆音が湖上から絶え間なく響いてくる。多い日には3トンほどの漁獲があり、定置網に入った魚をタモ網ですくっていく。浜には年配の女性3人が腰を落として黙々と魚を選別している。3人の女性に漁師との関係を聞くと、家族でも親族でもないようだ。昔から同じ集落に住んでおり、多忙な時期には皆が一丸となって助け合い、少しの魚をもらえばそれで良いと言う。

 厳冬からニシンの大群を待ち続けた漁師の良く焼けた顔には、この数日の漁労による疲労を醸し出しているが時折見せる笑顔に安堵感を垣間見せていた。

北帰行 オオハクチョウ 風蓮湖 

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 春の風と日差しが風蓮湖の解氷を進め、南からオオハクチョウの群れが数千羽と集まっている。これからシベリアまで約3千kmの長旅を前にひと時の休息をとり体力を養う。このあと強い南風とともにこの土地を離れると昼夜問わず喉を鳴らしながら飛行しV字編隊の先頭を交代しながらチームワークで次の中継地を目指す。

幻氷 知床

 根室海峡の流氷群の合間を縫うように船で北上し知床岬に近づいた頃、北の方角に巨大な氷山が青海原に浮いているように見えた。近づくにつれ、それが光の屈折で浮かび上がる蜃気楼によるものだとわかった。大気の温度差によって光が屈折し観測される四角い太陽なども同じ現象になる。岬を越えウトロ沖に入ると見渡す限りの水平線に幻氷が広がっていた。その先に陸があるかのように錯覚する。昔の船乗りたちは初めて見る幻氷にきっと惑わされたことだろう・・・。帰りの車内のラジオから斜里町の95年ぶりの3月の最高気温更新のニュースが流れてきた。

春の営み  エゾモモンガ

 オホーツク海に面した小さな森で真昼からエゾモモンガが慌ただしく活動していた。本来夜に活動するモモンガも繁殖期を迎える3月中旬から下旬にかけて日中にもメスを追いかけ森のなかを滑空することがある。この日は昼からメスが眠る樹洞に5頭ほどのオスが森のいたるところから木々を飛び交い交替でアプローチに現われた。オスのモモンガは鼻をヒクヒクさせフェロモンを嗅いでいる。メスが出洞すると間もなく樹上で尾を上げ、同じ樹洞に入っていたオスと交尾が始まった。すると、次々と周囲のオスがメスを求めて集まり、樹上を駆けて追い始め、オス同士が取っ組み合ったりとメスを巡る攻防が始まった。時折追い疲れたオスは肩で息をしながら樹上で休憩をしている。年に1度の恋の営みも夕暮れには終わり、森は静寂を取りもどした。翌日も森を訪れたが昨日の出来事が嘘のようにいつもの静かな森にもどっていた。

NHK WORLD TV「Journeys in Japan」で風蓮湖の氷下待ち網漁が紹介されます

NHK WORLDが海外向けに紹介する番組「Journeys in Japan /A Winter Wonderland of Ice /Eastern Hokkaido」が3月27日に放送されます。日本ではインターネットよりご覧いただけます。今年の2月に撮影が行われた知床の流氷や風蓮湖の氷下待ち網漁を行う漁師、オオワシやオジロワシなど北海道東部の冬の魅力をロシア人レポーターのロマン・マルコチェフ氏の目線から紹介されます。私の写真も番組内で紹介されますので是非ご覧ください

春の陽だまり キタキツネ 知床ウトロ

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 早朝に知床の森のなかを新雪に残された動物たちの足跡を追って散策した。この森はミズナラやカツラ、エゾマツなどの大木が混交し多くの動物たちが生息している。森の広範囲にわたってエゾシカやキタキツネ、エゾクロテン、エゾリスの足跡が見られ、大木の根元や倒木の周囲にはイイズナとネズミ(ネズミには尾の跡が線上に残る)の二つそろった2cmに満たない小さな足跡が残されていた。足跡からイイズナがネズミを追いかけているものだと推測できるが、その姿を見ることは難しい。キタキツネの足跡を辿り鬱蒼とした松林に入ると、キタキツネの足跡と交差するようにヒグマの大きな足跡が山の中腹へと続いていた。キタキツネの足跡はエゾマツの根元から根元へと続き、丁寧に見て回っているのがわかる。一本の松の根元でネズミの足跡が途切れた雪上に少量の鮮血が残されていた。知床の森の豊かさと厳しさを同時に見せられた思いで帰路につくと、陽だまりのなかで一頭のキタキツネが幸せそうな顔で眠りについていた。

浜辺の足跡 キタキツネ 知床 ウトロ

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 流氷漂うオホーツク海に夕陽が差しはじめると浜辺に一頭のキタキツネが姿を見せた。ふわふわとした黄金色の冬毛をまとった美しいキツネだ。その姿を追い浜辺に向かうが、私に興味を示さず遙か遠くへとすたすたと駆けて行ってしまった。浜辺や流氷上には古いものから新しいものまで無数のキタキツネの足跡が残っている。海鷲の食べ残しを探し歩いているのか、それとも流氷の接岸に喜びあふれて歩いているのか定かではないが、その姿を見ていると流氷の訪れを歓迎しているように感じる。

氷丘とオオワシ ウトロ

 強い北風によって海岸に押し寄せ積み重なった流氷は多様な姿を見せる。時には高さ5m、長さ数10mにも及ぶ流氷山脈を見ることも。オオワシやオジロワシは遙か彼方まで見渡せる氷丘で羽を休めじっと水鳥を見つめている。そんな姿を見られるのもあと少し・・・オホーツク海から流氷が消える頃にはオオワシも北へと旅立っていく。

海明け間近   ウトロ

 日一日と春の気配が増すなか、今もオホーツク海の流氷は風と海流に乗って漂っている。ホオジロガモなどの水鳥は恋の季節を迎え、流氷の合間を縫いながら首を大きく反らし盛んに求愛のダンス(ディスプレイ)を行っている。これからしばらく北寄りの風が吹く予報だが、オホーツクの海明けは近い。

子別れ タンチョウ  鶴居村

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 タンチョウの恋の季節は同時に昨春に産まれた子供たちとの別れの季節。親鳥は越冬地で子供たちを執拗に追い払い、繁殖地へと旅立ちます。幼鳥は戸惑いながらもこれから独りで強く生きていかなければなりません。3月は幼鳥にとって大人へと成長する新たな一歩を踏み出す季節なのです。

春の訪れ 風蓮湖

 北海道は季節外れの雨が降っている。この数日、風蓮湖の解氷が進み、早くも北帰行する水鳥たちが集まり始めている。遙か彼方からオオハクチョウの鳴き声が聞こえ、双眼鏡で覗くと無数のハクチョウが蜃気楼に包まれ屈折して見える。その先をホオジロガモが群れとなって一方向に進み、時折潜水し甲殻類や小魚を採食している。その様子をオジロワシが樹上からじっと見つめている。もう春はそこまでやってきている。

雪原の舞 タンチョウ 鶴居村

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 雪原のタンチョウが天上に嘴を突き上げ鳴き交わすと、間もなく美しい求愛のダンス(ディスプレイ)が始まった。つがいで両翼を広げ向かい合いポーズをとったり、宙に舞ったりと優雅な姿に見惚れてしまう。繁殖地に戻る今月下旬頃まで恋の舞踏会は雪原で繰り広げられる。

吹雪のあとの銀世界 タンチョウ 鶴居村

 大型の低気圧が南から暖気を運び、鶴居村は気温0度と暖かい朝を迎えた。昨日から降り続いた湿った雪が樹木を覆い、見渡す限り白一色の世界が広がっている。そんななか車をタンチョウの眠る川へと走らせた。昨日は200羽ほどのタンチョウが休んでいたが今朝は20羽ほど、暴風雪を避け他の塒で休んでいるようだ。今朝の光景にタンチョウが少数だったのは残念ではあるが、いつまでも残して欲しい北海道を代表する景色のひとつだと思う。

霧氷の森 キタキツネ

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 風蓮湖氷上は氷点下20度の冷え込んだ朝が続いている。樹木には霧氷がまとい、氷上へと海鷲が飛び立つ度に雪のようにきらきらと舞っている。林床のヨシ原のなかで2頭のキタキツネが寄り添い眠っていた。ふかふかの黄金色の毛は白く凍りつき、ここで長く眠っていたのがわかる。陽光を浴びしばらくすると大きく背伸びをして、すたすたと林のなかへと消えていった。今はキタキツネの恋の季節。仲睦まじい姿をよく見かける。

新月の夜 風蓮湖

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 新月の夜、夕食を終えテントから出ると気温計は氷点下13度を指していた。風のない穏やかな夜だ。気温ほど寒さは感じられず、天上には手が届きそうなほどの満天の星が輝いていた。厳冬期の風蓮湖氷上で見上げる夜空は、寒空の下端に煌々と灯る漁家が温もりを伝える。ひとつひとつの灯りに物語があり、それもまた冬の風蓮湖の情景なる。先日ひとりの漁師が仕事の合間に話してくれた。「札幌の学校に通う娘がこの春に看護師になるんだ・・・」と、目尻にしわを寄せて幸せそうな顔だった。

遠くの湖畔林から恋の季節をむかえたキタキツネの鳴き声が冷気を伝って微かに流れてきた。きっと明日も凍てつく朝を迎えるだろう。

氷点下18℃の朝 変形太陽と氷下待ち網漁の漁師 風蓮湖

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今朝の風蓮湖は氷点下18℃まで下がり、今季一番の冷え込みとなった。氷上では薄明から漁師たちが氷下待ち網漁の網起こしを行っている。この数日、2月にしては珍しく大量のニシンが獲れ、氷上は活気を取り戻しつつある。漁師たちは1月下旬から3月下旬まで、くる日もくる日も網を起こし続ける。これからやってくるニシン群来を待ち望んで・・・。

防風林に生きるエゾフクロウ

 朝からフクロウを探して歩いていた。カラマツが多く植林されている防風林にミズナラの原始林が残されている。真っ直ぐ天に伸びる太い幹の小さな洞からエゾフクロウが顔を出し居眠りしていた。夕暮れ近くなると深々と雪が降り始め、少しずつ大きな瞳が開き輝きはじめた。

防風林は春には作物を強い南東の風から守り、冬には私たちを地吹雪から守ってくれます。同時に多くの生物の生活の場として生命を育んでいます。近年エゾフクロウの姿を見ることが少なくなってきました。彼らにとっても防風林は大切な緑の回廊です。

エゾシカの大移動 風蓮湖

 厳冬期、エゾシカは山麓の積雪量が多くなると沢沿いの林を抜け、海岸の風衝地へと続々と集まってくる。風衝地は積雪量が少なく植物の採餌が行いやすい。それでもこの季節は植物が少なくエゾシカにとっては過酷な季節。力尽きるエゾシカも多く見る。夕暮れ時になると林から林へと植物を求めて風蓮湖の氷上を群れとなって移動する。

夜明け  一本松とオジロワシ 

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 氷点下14℃、日の出とともに一羽のオジロワシが古い松の樹上に止まった。毎年この地域で繁殖をする留鳥だ。一日に何度も樹上からカワアイサなどの水鳥をじっと見つめハンティングを行う。今は栄養を多く蓄えなければならない大切な季節で、これから厳寒のなか繁殖行動が始まる。3月には産卵を終え、春になるまで吹雪のなかもじっと卵を温め続ける。

野付半島のオオワシ

 北東の強い風がうねりを呼び野付半島の海岸にアザラシが打ち上がった。澄みわたる青空を海鷲やカラスが行き交い浜はにぎわっている。私は雪原をアザラシの方へと少しずつ歩み寄ることにした。本来警戒心の強いオオワシだが、その距離を縮めても私の存在を気にせず夢中になって食べている。彼らにとって貴重な海からの贈り物になったようだ。

 以前、野付半島には多くのオオワシがオオマイ漁で捕獲されるカジカなどの雑魚を目当てに集まってきていた。しかし近年では、環境の変化が要因なのか不漁のため2年間休業している。そのためオオワシの姿を見ることも少なくなった。

 

 

「ウォーカープラス」に写真が紹介されています

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北海道ウォーカー(KADOKAWA)WEB版「ウォーカープラス」に写真と記事が紹介されています。どうぞご覧ください。

http://news.walkerplus.com/article/134819/

吹雪のなか オオワシとオジロワシ(風蓮湖)

 1月下旬に始まった風蓮湖の氷下待ち網漁の雑魚を目当てにオオワシやオジロワシが続々と集まってきている。彼らに吹雪は関係ないようだ。厳寒の氷上で魚をめぐる争奪は繰り広げられていく。

謹賀新年

 新春のお慶びを申し上げます。昨年は仙台、名古屋での写真展、当ホームページをご高覧いただき、ありがとうございました。今年は2010年にも訪れたロシアをはじめ海外取材も視野に入れ写真及び4k動画の撮影に尽力したいと思います。

 本年も皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます。

フォトギャラリー更新のお知らせ

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フォトギャラリー「White  Nature」をアップしましたのでご覧ください。

HPトップ画面の写真をリニューアルしました

 連日、氷点下10度の朝を迎えています。今季も厳しい冬になりそうです。HPのトップ画面を冬の写真にリニューアルしましたので是非ご覧ください。寒暖差が激しい季節、皆様どうぞご自愛ください。

母なる川・シロザケの遡上

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 シロザケが約4年間の北洋での回遊を終え、産卵のために生まれた知床の川へと続々と集まっている。遡上するシロザケは、これから厳しい冬を迎える動物たちにとって待ちこがれた秋の恵み。流域にはヒグマやオジロワシたちが姿を見せ待ちかまえている。今まで多くのヒグマを観察してきたが、ヒグマがサケを捕る成功率は個体によって違う。次々と職人芸のように速やかに捕る個体、追い続け水飛沫ばかりをあげて何時まで経っても捕まえられない個体と様々だ。観察していて面白いのは後者で、現在観察している個体も失敗ばかりで苦労しているようだ。時折上手く捕まえると、すぐにカラスが群がり、それを引き連れて河畔森へとサケを運び、騒々しい周囲を気にしながらも夢中になって食べている。この時期、多くのヒグマは栄養素の高いイクラだけを好んで食べ、多くの死がいを残す。それをオジロワシやキタキツネ、カラスたちがさらに森の奥へと運び、その残骸が土へと返り栄養素となって森を育んでいる。すべての生命は循環し、繋がりをもっている。

冬のはじまり・ナキウサギ

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 一月ぶりの大雪山の山麓は、真っ白な世界へと変わっていた。もうシマリスの気配はない。雪面にキタキツネの足跡が稜線へと真っ直ぐに続いている。ナキウサギの生息する谷から時折甲高い鳴き声が聞こえてくる。その谷でナキウサギを待ち続けることにした。1時間、2時間、3時間・・・やっとその姿を見せてくれた。綺麗な冬毛を纏ったナキウサギだった。しばらくの間、こちらを不思議そうな顔でじっと見つめ、「ピチィ」と一声鳴いてガレ場の穴へと消えていった。あと一月もしないうちにこの谷も雪に埋まり、春まで雪解けることはないだろう。

知床峠の夜明け・ダケカンバ

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 連日、知床は北西の強い風が吹き続けている。知床峠に群生するダケカンバは落葉が進み、長い年月を強風に耐え変形した白い幹が目立ちはじめてきた。知床の峰々は雪化粧し、紅葉は駆け足で山麓へと下っている。知床にも冬の足音が近づいている。

不作の秋

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 ほぼ毎日のように知床の上空を白鳥が喉を鳴らしながら南の空に消えていく。山麓の木々も落葉が進み、林床は明るくなったが森はひっそりと静まりかえっている。ドングリやヤマブドウなど秋の実りが不作なのも一因だろう。これから厳しい冬を迎える動物たちは大丈夫だろうか・・・少し心配になる。季節は着実に冬へと進んでいる。

 

 

 

 

稜線に生きるエゾナキウサギ

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 シベリアに張り出す氷点下30℃の寒気が大雪山の峰々を雪で包みこんだ。山麓から望む約3ヵ月ぶりの白い山容は美しく、思わず見とれて足を止めてしまうが、いざ稜線に立つと暴力的な風と窪地に吹きだまった新雪やハイマツが行く手を阻み、背負った荷物との格闘で景色を楽しむ余裕などなくなる。

 かつて根雪になる頃まで、大雪山の稜線に生息するナキウサギを観察したことがある。ナキウサギは、冬眠せずに夏から秋にかけて植物の葉などを岩の間に貯食して越冬する。個体にもよるが、山麓に生息する個体は頻繁に貯食行動を見せるが、稜線に生息する個体はその行動を観察することが少ない。特に風衝地に生息する個体の貯食行動は見たことがない。その行動が見られないのは、植生や積雪量、雪解け時期との関係性があるのではないかと推測しているが、本当のところはナキウサギに聞いてみなければ分からないだろう。

 目の前のガレ場に現れたナキウサギやシマリスを見つめながらいつも思うことがある。この小さな体のどこに、これから始まる長い冬を越すだけのエネルギーが秘められているのか不思議に思うのと同時に、生命のもつ強さを感じる。彼らにとってはあたりまえのことかもしれないが、きっと今まで神秘的な事が重なり合って命をつなげているのだと思う。そんなことを思いながら、また来年、再会できることを願ってガレ場をあとに下山の途についた。

支笏湖 40㎞の舟旅

 昨晩まで吹き続けていた強風と雨は止み、深い霧が支笏湖を囲む原生林にからまりながら生き物のように漂っている。テントや食料等を2艇のカヤックに積み終えると、鮮やかな錦絵のように美しい紅葉が映る水面のなかを出艇させ、西の方角へと走らせた。湖面を滑るように進む感覚と、どこまでも流れるようにゆっくりと続く景色。自然と一体となった感覚が心地よくなっていき、徐々にそれが体を満たしていく。いつのまにか時間の感覚を失い、パドルを漕ぐ疲労も薄れていった。代わり映えしない景色が続くなかで、時折小群の水鳥が水飛沫をあげて力強い羽音とともに飛び立つ姿に魅せられる。湖畔ではカワセミが水面ぎりぎりを飛翔し、黄色に紅葉したイタヤカエデの横枝に止まると、じっと小魚を見つめている。間もなく越冬のために南へと渡るだろう。

 カヤックは順調に進み、予定より早く湖畔にテントを張ることができた。周囲の森からはカラ類やアカゲラ、アオバトの鳴き声が聞こえてくる。鳥たちの囀り以外は何も聞こえてこない。包み込まれるような静けさだ。やがて日は稜線に沈み、あたりが薄暗くなると天上に星が顔を出し始めた。しばらくすると樹冠のすき間から月が上がり、星々の輝きを少しずつ弱め、湖面を黄金色に照らし始めると、まわりを取りまく山々の輪郭がぼんやりと浮き出てきた。時折、夜の静寂に繁殖期を迎えた雄ジカの寂しげな鳴き声が森に響き渡り、身近に野生を感じる。この深い森のどこかで苔むした倒木を越えて移動するヒグマを想像しながら寝袋にもぐりこんだ。

 

雪の気配

 冬の星座が夜空を瞬き始めている。夜明け前、東の稜線からオリオン座が顔を出すと、間もなく星々は薄明に包まれていった。やがて太陽が昇り、冷え込んだ大気を少しずつ温め始めるとどこからともなくシマリスがガレ場に姿を現せた。もうすぐ大雪山に雪が降るのを予感しているかのように、もうこれ以上頬袋に入らないほどの種子や巣材となる枯れ草を頬張り、巣穴へと忙しく運んでいる。この短い秋に、これから始まる長い冬の備えをしているのです。あと一週間もしないうちに稜線は白で覆われ、10月中に長い眠りにつくだろう。

嵐の前の静けさ(大雪山・高根ヶ原)

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 17日の早朝、緑岳のピークに立った。風のない静かな朝だ。ラジオから九州での台風18号の大雨による被害が流れてくる。零度近い気温のせいか、いつもは忙しく動いているシマリスの姿は見かけない。ここから望む高根ヶ原、忠別岳、トムラウシ山、そしてその先の十勝岳連峰と大雪山の雄大な広がりと深さを感じる山容が続く。2009年からの5シーズン、この景色のなかで雪が山肌を纏うまで無我夢中にヒグマを追いかけた。2頭の仔熊を連れた母グマが、何度も目の前で授乳シーンを見せてくれたこと・・・。好奇心旺盛なナキウサギの幼獣が、私の手に噛みついたこと・・・。目の前に広がる景色を眺めながら、そんな多くの出合いをふと回想した。

 石狩川の源流部になるヤンベタップの沢沿いに広がる紅葉は、ウラジロナナカマドの紅はピークを終え、ダケカンバやイタヤカエデの黄色はこれから見頃を迎えるだろう。紅葉は山麓へと駆け足で下っている。

 今季の大雪山山行は、ドローンを使用して4K動画と写真での空撮が第一の目的だ。強風や乱気流が吹く山岳地域での空撮は、飛行させるタイミングを見定めることが重要になってくる。光線やアングル、飛行ルート等の地形を把握し、目まぐるしく変わる天候のなかでその機会を待つ。

*大雪山国立公園内でのドローンの飛行は上川中部森林管理署に入林承認書を申請し、上川自然保護官事務所へ連絡をした上で飛行している。

草紅葉(大雪山・白雲岳)

 大雪山の山肌を、今一際鮮やかに彩っているのがウラシマツツジの紅色。早くも稜線では草紅葉のピークを越え、植物たちは、これから冬の装いへと変わっていく。

 10日の昼時、赤岳から白雲小屋に向かう稜線で10mほどの強風と霰混じりの初雪に合った。霰を避けるように自然と俯き、足早になる。足下には、ハイマツの種子の食痕が無数に転がり、その上空をホシガラスが風にあおられながら青々としたハイマツの種子を忙しく運び貯食している。今季はハイマツから、コケモモやガンコウラン、クロマメノキの果実が鈴なりに実っている。道中、クロマメノキの黒紫色の果実を一粒だけ頂き、口いっぱいに広がる甘酸っぱい秋の香りを満喫しながら足を進めた。今年の大雪山は、冬の訪れが早くなりそうだ。

初霜

 真夜中過ぎ、シェラフに流れ込む冷気と地面から突き上げるような寒さで目を覚ました。結露したテントはパリパリに凍りついている。白雲岳南東面のガレ場から、ナキウサギの鳴き声が聞こえてくる。風の無い穏やかな夜だ。天上には、無数の星が瞬き、東の空に顔を出した三日月が緑岳の稜線を薄っすらと照らし出している。あの稜線を越えると、きっと雲海が湧いているだろう・・・。フランスパン2切れと温かいコーヒーを飲み終えると急いでザックに機材と冬用のダウンの上下を詰め込み、まだ雪渓の残る板垣新道をヘッドライトを灯けて稜線を目指した。霜が降りたチングルマやウラシマツツジ等の植物にライトが照らされ、足下がキラキラと輝いている。稜線に登り着く頃には辺りの景色が見え始め、雲海が湧いているのがわかる。東の空は刻一刻と赤く染まり、遠方に阿寒の山々や斜里岳が浮き出てきた。

 太陽が昇り、その4時間後には稜線は霧に包まれた。台風18号による天候悪化を警戒し、午後にテントを片付け、徐々に強まる風のなか下山の途についた。道中、昨日まで鮮やかな色彩を楽しませてくれた稜線の植物たちは黒褐色となり、早い冬の訪れを知らせてくれているようだ。

 

秋色(十勝岳西面のスゲの群落)

 大雪山系の紅葉が、ここ数日の寒暖差で一気に色付き始めている。

 グンと冷え込んだ日の朝、稜線で目を覚ますと周辺の景色が色濃くなったことに気づく。ウラシマツツジやチングルマ、ウラジロナナカマドなどの紅、イタヤカエデやダケカンバ、スゲ類などの黄色。秋色は日一日と増し、駆け足で山麓へと下っていく。本当に美しいと感じるのは1日か2日。今月は紅葉を追いかけて大雪山を駆け巡ることになるだろう。

 十勝岳から富良野岳に続く荒々しい稜線をアマツバメがかすめて飛び交い、ナキウサギの鳴き声が山麓から聴こえてくる。動物たちもこれから冬に向けて、短い秋を慌ただしく生きるだろう。

夏の終わり

  薄明からハクセキレイの小群がピチッ、ピチッと鳴きながら赤岩の浜を飛び交っている。日照時間も日ごとに少なくなり、知床も一雨ごとに肌寒くなってきた。 深い緑だった山肌や水面に映えるスガモの萌黄色も少しずつ色あせ始め、空気の清涼感とともに秋の気配が強まる。   約2ヶ月、赤岩で昆布漁を行なってきた漁師一家も羅臼へと昆布を運び、8月31日に密やかに最後の夏を終えた。

  赤岩を離れる前日の夕刻、まだ黄色いエゾオグルマの花が咲く知床岬の草原に一頭の雄鹿が森からゆっくりと現れた。間もなく繁殖期を迎え、静寂に包まれた闇夜に物悲しい鳴き声が夜通し響き渡るだろう。

知床赤岩 昆布漁師、最後の夏

 知床半島突端部の羅臼側に赤岩と呼ばれる地域があり、昆布の好漁場として知られている。大正の時代から夏になれば漁師が家族と共に海路で訪れ、昆布やウニ漁等を生業とし秋まで過ごした。最盛期で50軒ほどの番屋が立ち並び、多くの子供たちも「青空教室」で学びながらが手伝っていたというが、1960年代をピークに減少し、現在では2軒となった。活気のあった当時の名残は薄れ、この2軒の漁師もこの夏で赤岩を離れることを決断した。

 羅臼昆布が製品化されるまでには、約20工程を経て手間暇かけて丁寧に作り上げられていく。それは自然(太陽光や風、夜露等)の恩恵と共に作り上げていくといってもいいだろう。また「昆布は山が育てる」と言われるが、知床半島の豊かな生態系も良質な昆布を育む要因のひとつだ。漁師たちはライフラインの無いこの場所で、刻一刻と変化する空模様や風を読みながら約2ヶ月の間、無休で薄明から薄暮まで黙々と作業を進めていく。

 私は昨年から赤岩の昆布漁を手伝いながら撮影を続けている。スガモや昆布等が密生する赤岩の生態系豊かな遠浅の海の美しさと、連日のように現われるヒグマ。約2ヶ月間、密やかにここで昆布漁を生業とする家族の生活。そして、この土地から離れることを決断したが、今も去就に悩みながら生きる漁師の憂いと諦め、儚さ・・・心境をも記録として写真と4K動画に閉じ込めることが出来たらと思っている。

                                                                                                                                         

 

サクラマスの遡上

 北海道東部にある知床も連日30度ほどの夏日が続き、夏本番を迎えている。今、河川では1年のオホーツク海の回遊を終えたサクラマスが回帰している。斜里川や忠類川等の上流域を水飛沫を上げて遡上し、その光景は幾分か涼を感じることができる。高い弧を描いた太陽が深緑の樹木に遮られていた水面を燦々と照らし始めると、落差3mほどの滝を次々と遡り始めた。しかしこの滝を越えていく個体は少なく、その多くは激流に飲み込まれたり、弾き飛ばされていく。そしてその先の上流域では、エゾマツの樹上から数羽のオジロワシがその様子をじっと見つめている。

ヒグマの親子

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 エゾハルゼミの鳴く知床の森で、ヒグマの親子に出合った。この季節はヒグマの繁殖期で雄グマを避け、親子グマは採食地を転々としている。雄グマが仔グマを襲うことがあるからだ。母グマは採食中にも神経を尖らせ、時折立ち上がり鼻を突き立てている。その隣で仔グマは不安そうな表情を浮かべ、じっとしている。母グマの表情や行動を観察していれば、鬱蒼とした草地や森の中でも近くに他のクマが居るかどうか察することが出来る。この日も雄グマを察した親子グマは、寄り添うように足早に深い森の中へと静かに消えていった。その後間もなく、オオイタドリの茂みから大きな雄グマが肩を揺らしながら現れた。

オジロワシの巣立ち

 4月下旬に孵化したオジロワシの巣立ちを、カモフラージュテントの中でその瞬間を待ち続けた。真っ白で柔らかい羽毛は硬く黒褐色の幼羽へと変わり、時折羽ばたく羽音と両翼が枝にぶつかる鈍い音は力強く、体と爪も親鳥と見劣りしない大きさに成長している。ふ化後2週間もすれば猛禽類特有の精悍な表情を見せ、早くも大空の王者の風格を醸し出していた。雛に運ぶ餌はカモ類などの水鳥が多く、時折魚を運び嘴で丁寧に細かく千切り与えていた。繁殖地によって食性は変わるが、主に水鳥と魚類。以前に大きく成長したアオサギの雛を巣に持ち帰ることも目にしたことがある。

 猛禽類の巣立ちの定義は曖昧で、キツツキ類や地上で営巣する鳥類は巣立ち後に巣に戻ることは無いが、猛禽類は巣立ち後も親鳥が運んできた食物を採餌しに、また夜には休みに帰巣することがある。今回は巣から離れ、営巣木上の横枝に止まった瞬間を巣立ちとした。

緑の回廊 (オジロワシ)

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 北海道東部にある根釧原野は広大な酪農地帯が開拓され、その多くが牧草地となっている。原生林の多くは消失し、残されているのは河川沿いの林と牧草地を囲むように防風林が東西南北に格子状に造成されている。この樹林帯はヒグマやエゾシカなどが山岳地帯から海岸地帯までを結ぶ移動路となり、またシマフクロウやオジロワシなど多様な動物たちの繁殖地としても貴重な生活圏となっている。それは生命をつなぐ緑の回廊。

 4月下旬に孵化したオジロワシのヒナも防風林ですくすく育ち、真っ白な産毛から黒々とした羽を纏い、猛禽類特有の精悍な表情が見られるようになった。来月には巣立ちし、大空を舞い始めるだろう

深緑の森に舞う雪

 深緑の森に深々と雪が降るように綿毛が舞い下りてくる。ここ数日、ヤマナラシ(ハコヤナギ)やドロノキが綿毛を纏った種子を一斉に飛散させ林床や湖沼を覆い隠す。光に透過された綿毛を目の当たりすると雪のように美しく、季節が冬に戻ったかのように錯覚する。そんな森から、ひと際高い声で囀るキビタキに誘われるように知床の深い森に入った。

ミソサザイの唄

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 新緑に包まれた北の森は、多彩な鳥の囀りでにぎわっている。その中でも一際澄んだ高音で囀っているのが、日本で最も小さな鳥のひとつミソサザイ。低地の沢沿いなどの湿った林から大雪山の尾根伝いにある湖沼まで、その美しい囀りを聴くことができる。

 ミソサザイは、その美しい囀りが影響してか日本や西洋においても数多くの民話や伝説に登場し「鳥の王」と呼ばれている話が多い。アイヌの伝承では、人喰いクマの耳に飛び込んで鼓膜を破ってクマを退治した勇猛な鳥だと神様に褒められている。西洋では森の王であるイノシシと戦い、鼻の穴に飛び込んで勝利する話しなど小さな鳥が大きな動物に勝利する話は他にも多くある。体調10cmほどの小さな鳥が全身を震わせ囀る姿に古代の人も私たちも変わらずみんな感動したのだと思います。

写真展開催のお知らせ


写真展「NATURE CRAZYS」ーライフスケープ編集長が推す”常識やぶり”な若き写真家たちーが富士フィルムフォトサロン名古屋会場で5月5日(金)から5月11日(木)まで開催されます。会場内でフォトブックとオリジナルプリント(サイン入り)、写真集も販売されておりますので、ぜひお立ち寄りください。

鎮守の森

 北海道の大地は明治以降の大規模な開拓によりエゾマツやトドマツを主とする黒々とした針葉樹に、新緑から紅葉まで美しい色彩を見せてくれるミズナラやシラカンバ、イタヤカエデなどの広葉樹が混生する森を多く失った。今それらの原始的な森を見ることが出来るのは大雪山や日高山脈の山麓、阿寒や知床などと極限られたエリアだけとなった。しかしながら都市部にも開拓以降も大切に守られてきた森が残っている。それが鎮守の森。道北にある忠別川沿いにあるこの鎮守の森には、ミズナラやヤチダモ、カシワなどの大木が林冠を形成している。今、森は新緑に溢れ、エゾ山桜の花びらがひと風ごとに舞っている。ニリンソウやエンゴサクの花が咲く林床をエゾリスが駆け回り、オオルリやキビタキがこの季節を待ち望んでいたかのように賑やかに囀っている。子育て真っ最中キタキツネも出産した巣から人気の無い別の巣へと仔ギツネの引っ越しで忙しそうだ。これから北の森は多彩な生命の音色で賑わい始めるだろう。

誕生

 新緑が芽吹き始めた北海道東部の丘陵地に囲まれた小さな湿原で、2羽のタンチョウの雛が誕生した。抱卵期間は30日ほど。その間、雌雄で交代しながら強風の日も雪や雨の日もじっと2つの卵を大事に温め続けていた。

一番子の誕生から2日目に残るひとつの卵が孵化した。巣立ちはその2日後。今は葦で作られた巣から離れ、「コロロ」とのどを鳴らす親鳥の後を必死におぼつかない足取りでついて行き、小魚やエゾアカガエルを食べている。雛鳥たちはこれから秋までたくさんの愛情を受けて、その先を生きていく。

春麗ら (エゾタヌキ・知床)

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 早朝から生暖かい南の風が吹いている。雪解けが一気に進んでいる知床の山麓へと流量が増した沢伝いに入った。まだ林床に残雪はあるが、陽当たりの良い所から福寿草の黄色い花が咲き始めている。沢沿いにはフキノトウが顔を出し、その脇をカワガラスが忙しく上流から下流へと行き来している。冬のピーンと張りつめていた緊張感は緩み、穏やかでやわらかい空気が森を包み込んでいるように感じられる。今この森でそう感じているのは私だけではないようだ。一頭のエゾタヌキが陽当たりの良いミズナラの大木の下ですやすやと眠っている。本来暗い森の中を好み、ひっそりと暮らすエゾタヌキだが、とてもこの場所が気にいったのだろう。10mまで近づいても起きる気配はなく腹部を膨らませ呼吸し熟睡している。四肢を伸ばしたその無防備な寝姿に思わず笑みを浮かべる。しばらくすると右目を開けゆっくりと立ち上がり、のたのたとよろめきながら深い森の中へと消えていった。「タヌキの寝入り」と云う言葉があるが天敵から身を守るために擬死(死んだふり)をする事で捕食者を油断させ逃避する為にとる行動で、今回の出合いはそれとは違うが貴重な時間を共有できた。

 仔沢山で知られるエゾタヌキは、あと一月ほどでこの深い森のどこかで新しい生命を迎え、育んでいくだろう。

豊穣の海

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 肌を刺すような風はゆるみ、きらきらとした陽光が日一日と雪解けを進めていく。青々としたフキノトウが顔を出し、オオワシやオオハクチョウは北帰行を始め、代わりにアオサギやタンチョウが繁殖のために越冬地から戻ってきた。季節は春へと移ろいでいるが、4月に入っても流氷群は根室海峡や道東太平洋海域を風まかせに漂っている。そんな氷海の海でラッコがホタテやつぶ貝などを採餌しながら優雅に泳いでいた。美食家で大食漢として知られるラッコは、1日に約10kgの食料が必要だと言われている。皮下脂肪が少ないため大量のエネルギーと上質な体毛で寒冷な海で生命を維持している。採食したり眠ったりと愛嬌のある表情を見せるラッコも、時折2頭が牙をむき出して激しくじゃれ合ったりとイタチ科の気性の荒い性質も見せる。

 毛皮を目的とした乱獲により減少したラッコが再び北海道の近海で見られるようになったことが、生態系の回復と豊かさを物語っている。いつまでもラッコの泳ぐ姿が見られる海であり続けて欲しいと願っている。

写真展のお知らせ

写真展「NATURE CRAZYS」 ネイチャー・クレイジーズ   ライフスケープ編集長が推す"常識やぶり"な若き写真家たち

      上田大作 ・ 佐藤岳彦 ・ 高久至 ・ 増田弓弦 

 

 2017年5月5日(金)~5月11日(木) 富士フィルムフォトサロン名古屋で写真展を開催します。

  風連湖ー氷上に生きる生命

北海道東部にある風蓮湖では毎年1月になると湖が結氷し、伝統漁の「氷下待ち網」が行われます。漁が始まると氷上では漁師と動物(オオワシやオジロワシ、キタキツネなど)たちの多様な物語が繰り広げられます。多彩な表情を見せる美しい氷上の景色と併せて展示していますので、良かったら会場までお越しください。

 

同時に「本屋ライフスケープ」も開催されます。4人による限定版フォトブック、雑誌「ライフスケープ」のバックナンバーやネイチャー系写真集などを集めたミニ本屋が期間中会場の一角に登場します。是非お立ち寄りください。

 

  会場富士フィルムフォトサロン 名古屋  入場料:無料  企画 (株)風景写真出版   協力 富士フィルム株式会社 

 

耳を澄ませば

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​ 数日間吹き続いた北風が止んだ。知床連山の上空に赤く染まった雲が闇に包まれ始め、星が瞬き始めた。闇夜に慣れ始めた視覚には、真っ白な流氷が国後島や、標津、羅臼の町の灯りに照らされ、遥か彼方まで見える。そんな野付半島の夜空にレンズを向けた。これまで多くの場所で夜空にレンズを向けてきたが、撮影の時間、闇夜では視覚からの情報が途絶えるため、聴覚が過敏になる。この夜も耳を澄ますと、多彩な音が聴こえてきた。流氷の彼方からはコオリガモなどのカモ類の鳴き声が、氷塊の軋む鈍い音との合間に微かに流れてくる。海岸線からはキタキツネの甲高く寂しげな声。雪原には一歩、一歩雪に埋まりながら歩くエゾシカの足音が聴こえてくる。多彩な音を頼りに動物たちの息づかいが想像できる星の撮影は、私にとって至福の時間。

春の気配

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 北東の風が吹き、国後島に接岸していた流氷群の一部が2年ぶりに野付半島に接岸した。流氷群が根室海峡を漂い南下し始めると、もう春は近い。3月1日、タンチョウの雌雄が繁殖地である風蓮湖に戻り、求愛のダンスを見せてくれた。日一日と解氷する湖に数百のオオハクチョウの群れが続々と集まり、北帰行に備えて羽を休めている。

 厳冬を越えた野付半島のエゾ鹿たちは、一回り体が小さくなり、どことなく力ないように感じる。海岸沿いをよたよた歩き、打ち上がった海草などを食べている。その様子からエゾ鹿にとって厳冬を越すことの厳しさが、ひしひしと伝わってくる。植物が顔を出す雪解けまでは、あともう少し。春はもうそこまでやってきている。

風の連なる湖

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 深夜から明け方にかけて20センチほど降り積もった雪が湖岸の景色を白一色へと変え、樹木に付着した雪がひと風ごとに舞い落ちていく。日一日と春へと向かっていた景色がまた冬景色へと戻った。風蓮湖の氷上に出ると、絶え間なく烈風が吹き、徐々に強さを増していく。氷下待ち網漁を生業とする漁師たちは、地吹雪が吹き抜けるなか漁場に吹きだまった雪をスコップで除雪する作業に追われている。オオセグロカモメが地吹雪で体に積もった雪を時折振るい落とし、その様子をじっと見つめている。

流氷山脈

 根室海峡に強い北風が吹き続けている。知床半島と国後島に挟まれた流氷群は風によって押し寄せられ、海岸沿いの浅瀬に氷塊が積み重なり氷丘が連なっている。近年見られない光景が一夜にして形成され、計り知れない自然のエネルギーを目の当たりにすると、ただただ圧倒されるばかりである。

 早朝、氷原をキタキツネが食物を探しているのか、それとも山のように積み重なった流氷を歓迎し喜んでいるのか分からないが早足で歩いている。そんななか、轟音と共に遠方の氷丘が崩れ落ちた。キタキツネは轟音と振動に驚き、慌てて陸地へと戻ると、またすぐに何もなかったかのように氷原を歩き始めた。流氷明けまでは、もうしばらく先だろう。小さな冬の物語は続いていく。

老鷲(おいわし)

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 風蓮湖の湖岸にある一本の立ち枯れした老木に、日の出とともに頭部が真っ白なオジロワシが大爪で魚をつかみ舞いおりた。つかんでいる魚は、薄明から漁師たちが氷下待ち網漁の水揚げ後に選別され氷上に放置された雑魚だ。器用に大きな嘴で喰いちぎると、嘴を天高く向けて丸呑みにし、あっという間に食べ終えた。毎年、風蓮湖には多くの海鷲が越冬のためにオホーツク海北西部沿岸やサハリンから渡ってくるが、その渡りの群れから距離をおいて、樹上や氷上で寄り添うオジロワシの雌雄がいることに気づく。今朝、老木に舞いおりたオジロワシも、その凛とした風貌や行動からこの湖で長年にわたり繁殖している個体とわかる。この時期になると営巣木の周辺でテリトリーを誇示し、巣材を運び補修を始めるようになる。今月中には氷上や樹上で繁殖行動を見せ、3月には営巣木で抱卵を始める。5月に新しい生命が誕生するだろう。

 

 

 

 

 

 

風の記憶 

 北海道東部に位置する風蓮湖の氷上は、数日間、暴風が吹き荒れていたが夕暮れどきには強い北西の風がおさまりつつあった。暴風に運ばれた細雪が南側の湖畔林に吹き溜まり、壁のようになっている。1月下旬とは違う景色が目の前に広がっていた。雪原と化した風蓮湖には美しいシュカブラ(雪紋)が遥か彼方まで刻まれ、斜光に照らされた光景は他の惑星に立っているかのような感覚におちいる。風によって流れるように六花を運び多様な紋様を刻一刻と変えていく。太陽が沈むまで無数にあるシュカブラのなかから、より美しく力強い雪紋を探しまわったが、結局出合うことはできなかった。

 冬山に刻まれた荒々しいシュカブラも美しく魅かれるが、広大な風蓮湖一面に暴風雪が過ぎると突然現れるシュカブラもまた魅力的だ。風そのものを写し撮ることはできないが雪面に残る「風の記憶」をこれからも大切に記録していきたいと思う。

潮汐の造形

 氷点下16℃の風のない朝、海面に張った氷がギィー、ギィーとガラスが擦れるような音を奏でている。薄明のなか徐々に氷のディティ-ルが見え始めた。暦は中潮で月齢6、95の上弦の月。真夜中から明け方にかけてゆっくりと海面が上昇する。それに伴い水面を凍結させながら薄氷を積み重ねてできた自然現象。それは繊細なガラス細工のような自然の造形美。薄氷に陽光が透過しはじめると少しずつ気泡が弾けるような音を立てながら、潮位が上昇する海のなかに消えていった。

 

流氷群

 夜半過ぎに北海道東部に位置する屈斜路湖の湖畔に雪とともに強い北西の風が吹き始めた。ここ数日の海氷図から海氷が接岸すると確信し、夜が明けると同時に車を走らせオホーツク海を目指した。前日の予報では午後からの降雪だと伝えていたが、想定外の雪と地吹雪で走行は困難となり神経をとがらせる。野上峠を越え小清水の町に入る頃には雲間から青空が見えはじめた。しかし風が止む気配はなく強まるばかり。冬には雪原へと変わる農地に挟まれた道路は時折ホワイトアウトとなり、視界を真っ白な世界に奪われながらウトロへと向かった。

 約10年、北海道の四季を見つめてきたが、毎年新鮮な思いで待ちわびるいくつかの出合いがある。この時期にオホーツク海のずっと北からやってくる流氷群もそのひとつ。強風の朝、目を覚ますと海岸線を埋めつくしたかと思うと、午後には離岸し水平線の彼方で白い線となっていることもある。生き物のようにとらえようのない存在がまた魅力なのだろう。11月オホーツク海北西部で生まれた海氷は、風とともに漂流し長い旅を続け、豊かな生態系を育んでいく。知床半島を回り込み、根室海峡を漂いながら南下し根室半島に接岸する頃には、もう春はそこまでやってきている。これから流氷が多くの栄養素と多様な物語を運んでくれることだろう。流氷は私にとっても、北の海からの大きな、大きな贈り物。

氷海に生きる海馬(トド)

 夜明け前、知床、羅臼に深々と雪が降り始めた。知床連山の稜線から海岸まで平地が見られない急峻な半島の天候にはいつも悩まされ期待を裏切られることが多い。まだ北西の風とうねりが残る根室海峡へと野田氏(トド観察ガイド)が操船するチャータ-船でトドの群れを探すため出港した。途中薄明りに照らされた小さな蓮葉氷が小波に揺られて漂っている。10分ほど船を走らせると、風に乗ってグゥオー、グゥオーと唸るような鈍い鳴き声が波音に交じって流れてくる。その方向に目を凝らすと、遠方に海面から頭を出した数十頭のトドが浮き沈みしながらこちらを見つめている。うねりのあるなか、船頭の巧みな操船でゆっくり近寄る。50m、30mと近寄っていくが逃げ惑う様子もなく、群れで悠然と泳ぎだした。しばらくすると群れから離れた1トンほどの巨体をもつトドが船底を抜け、突然目の前に現れダイブした。水しぶきが顔にかかりそうな近距離だ。その圧倒的な生命力にシャッターを押すことも出来ず、ただ目の前で起きた光景に言葉さえ失った。はるばる千島中部から海游してきたトドと一瞬ではあるが心が通ったように思えた。

 一時生息数が減少したトドは、ロシアや北米で保護されて回復傾向にある。知床に来遊するトドは、主に繁殖地の中部千島からスケトウダラなどの魚を求め来遊してくるが、スケトウダラの減少と共にトドの来遊数も減っている。変わって日本海側に現れるトドが増加している。

ナショナルジオグラフィック日本版2月号に「風蓮湖」の記事が掲載されます

ナショナルジオグラフィック日本版 2017年2月号(1月30日発売)の「写真は語る」に ー風蓮湖、鳥と漁師の冬ー が掲載されます。ウェブサイトにも掲載されていますので、下記よりご覧ください。

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/photo/17/011300007/

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/photo/15/269803/011700018/

 

ブリザードが過ぎて

 急速に発達した低気圧が北海道を過ぎ去った後も、強い北西の風がビュー、ビューと音を立て雪煙を巻き起こし吹いている。この強い北西の風が年末から彷徨っていた流氷群をオホーツク沿岸に着岸させた。そんな強風が吹くなか、逆光に浮き立つ白とブルーのコントラストが美しいシュカブラ(雪紋)が残る野付半島にはいった。いつもは無数にいるエゾシカも数少なく、林のなかで風が静まるのを待っているようだ。約30kmほどの細長い半島に、まばらにいるエゾシカのなかから立派な角を持った一頭のオス鹿に惹かれ雪原へと下りた。シュカブラに足跡を残すのを惜しみつつ、ゆっくりとオス鹿へと向かって歩き、じっと落日を待つ。やがて太陽は西へと傾き、淡く燃ゆるように地平線へと消えていった。

一本松

 ここ数日、風蓮湖の氷上でテントを張り、撮影を続けている。真夜中には満天の星が煌いていたが、明け方に湧きはじめた薄暗い雲に、瞬く間に隠れていった。気温は氷点下18℃、風もなく気温ほど寒さを感じない穏やかな朝だ。水平線からわずかばかりの雲のすき間に、太陽が顔を見せると、燃えるような真っ赤な光芒が上空に真っ直ぐ伸びた。サンピラーと言われる寒冷地特有の自然現象(細氷現象)で、空気中の水蒸気が凍って太陽の光に反射して見える。太陽が昇り、サンピラーが消えかけると間もなく優に樹齢100年を超える一本のグイ松の樹上に、魚を咥えたオジロワシがとまった。長年、この厳寒の地で暴風雪に耐えながら、多様な動物たちと人間の生活を見守ってきたことだろう。

写真展開催中です

写真展「NATURE CRAZYS」ーライフスケープ編集長が推す”常識やぶり”な若き写真家たちーが富士フィルムフォトサロン仙台で2月7日まで開催されています。会場内でオリジナルプリント(サイン入り)も販売されておりますので、ぜひお立ち寄りください。

フォトブック「北国の小さな物語」が完成しました

富士フィルムフォトサロン仙台で開催中の写真展「NATURE CRAZYS」 ーネイチャー・クレイジーズ ライフスケープ編集長が推す”常識やぶり”な若き写真家たちー 開催に伴いフォトブック「北国の小さな物語」が写真展会場とインターネットで販売されます。北海道の四季を通じて人知れず繰り広げられている動物たちの小さな物語を写真と文で紹介しています。内容詳細とご購入方法は下記のページからご覧ください。

http://www.fukei-shashin.co.jp/lifescape/

 

小寒を迎えて

 氷点下10度の寒気を纏った風が吹き抜けるなか、一羽のアトリがナナカマドの紅い実を必死に食べている。本来群れで移動する冬鳥だが、辺りを見回しても他の個体は確認できない。採食に夢中になり、群れからはぐれたのだろうか。それとも猛禽類に追われ、いつの間にか一羽になったのだろうかなどと想像している間に、4粒の赤い実を食べ終えると、風にあおられるように飛び立ち、黄褐色の小さな体がみるみるうちに青空へと消えていった。この小さな体のどこに厳冬を越すエネルギーが秘められているのか、小鳥たちを見ると、いつも生命の強さと神秘を感じる。

気嵐(けあらし)

 氷点下25℃に達した夜明け前、月光に照らされた水面に気嵐が立ちはじめた。遠方に眠っているタンチョウの群れが、望遠レンズを通して気嵐の漂う合間に垣間見える。頭を羽毛に隠し、1本の足を交互に使い立ち続け、じっと太陽が昇り温かくなるのを待っている。やがて霧氷に覆われた河畔林に光が差しはじめると、モノクロームの世界が広がり、より厳寒に生きる生命が輝いてみえる。間もなく陽光がタンチョウたちに降り注ぐと、喜ぶように舞いはじめ、鳴き交わす声が辺りの静寂をかき消していく。厳冬期の凍れが強まるたびに、太陽の恩恵を切に感じる。人も動物も共に温もりが恋しくなる季節がやってきた。

謹賀新年

 謹んで新年のお祝いを申し上げます。昨年はご愛顧いただきありがとうございました。この時期になると、年を重ねる度に一年がまたたく間に過ぎ去っていくように感じられます。名残惜しく2016年を終え、阿寒国立公園内にある美幌峠で元日を迎えました。氷点下20度の寒気のなかで雲海から昇る初日の出を迎えた後、タンチョウの撮影のため鶴居村に向かいました。その道中、流れる車窓からダイヤモンドダストがキラキラと雪原に舞い降りていました。2017年、まずは素晴らしい光景に恵まれスタートできました。この新しい年が皆様のより佳き年となりますようにお祈り申し上げます。東の空にオリオン座が輝く鶴居村より。

写真展のお知らせ

  

 写真展「NATURE CRAZYS」 ネイチャー・クレイジーズ   ライフスケープ編集長が推す"常識やぶり"な若き写真家たち

      上田大作 ・ 佐藤岳彦 ・ 高久至 ・ 増田弓弦 

 

 2017年1月12日(木)~2月7日(火) 富士フィルムフォトサロン仙台で写真展を開催します。

  風連湖ー氷上に生きる生命

北海道東部にある風蓮湖では毎年1月になると湖が結氷し、伝統漁の「氷下待ち網」が行われます。この漁が行われる事により始まる、漁師と動物(オオワシやオジロワシ、キタキツネなど)たちの多様な物語と多彩な表情を見せる美しい氷上の景色を文章と併せて展示します。良かったら、会場までお越しください。

 

同時に「本屋ライフスケープ」も開催されます。4人による限定版フォトブック、雑誌「ライフスケープ」のバックナンバーやネイチャー系写真集などを集めたミニ本屋が期間中会場の一角に登場します。是非お立ち寄りください。

 

  会場富士フィルムフォトサロン 仙台  入場料:無料  企画 (株)風景写真出版   協力 富士フィルム株式会社 

 

 

 

冬のはじまり

 氷点下15度の寒気に包まれた朝を、連日のように迎えている。例年になく早い冬の訪れだ。 ラニーニャ現象の影響なのかは明らかではないが、冬型の気圧配置が続き、強い北風と共に流氷はサハリン沖を南下し、流氷初日も1月上旬には期待できそうだ。北海道東部の湖沼や湾内は結氷を始め、早くも厳冬期の表情を見せ始めている。積雪も多く、山や森からエゾシカの群れが続々と雪の少ない風衝地に植物を求めて集まっている。湖が結氷すると氷上はエゾシカやキタキツネの獣道となり、食物を求め森から森へと生命を繋ぐ移動路となる。その周辺のヨシ原ではコミミズクがネズミを探しながら長い両翼を風に乗せ舞っている。ハマニンニクの群生地では雪ホオジロの群れが忙しく行き来し、殺風景な景色に彩りを添えている。これから厳寒で過酷な季節が始まる北の大地で、生命の力強さと脆さをも秘めた多様な物語が刻一刻と繰り広げられていくだろう。

小さな瞳

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 雪が深々と降っている。ミズナラの大木の陰で、雄グマが呼吸に合わせ、巨体を震わせ眠っている。夏から追いかけてきたヒグマだ。カンジキのような足跡を辿り、ようやく出会うことができた。夜中から早朝にかけ、たらふくドングリを食べたのだろう。ぐっすり眠っている。時折大きなお腹を抱え、寝返りする仕草は、どこか人間と似ていて、思わず笑みを浮かべてしまう。森に点在するトドマツの幼木が視界を遮るため、ふわふわの雪のなかをゆっくり歩み寄った。「バキッ」雪に隠れていた小枝を踏んだ。その瞬間、黒く大きな巨体がゆっくり起き上がった。そのまま大木に寄りかかり、どっかり座り此方を見つめている。雪に照らされた小さな瞳がキラキラと輝いて見える。美しい!黒く澄んだ瞳には優しさと凛とした野生の力強さが内包している。その瞳で私の全てを見透かされているかのような、今までにない不思議な感覚が身体中を満たしていく。いっとき此方を見つめ、鼻を高く突き上げた。安心したのか、大きなあくびを一つした。そのまま倒れるようにうつ伏せ、再び眠りについた。真っ黒で大きな背中は、瞬く間に白く包まれていった。間もなく静かな森の片隅で、長い長い眠りにつくだろう。

流星群

 零時を過ぎた三日月の夜、雪化粧した知床連山の天上を流星が駆け抜けた。おうし座流星群だ。10月に入ってから不安定な天候が続き、夜空をゆっくり眺めることも出来なかったが、今宵は風もなく穏やかだ。時折、繁殖期を迎えたオス鹿の寂しげな鳴き声が山裾に響き渡り、静寂をかき消す。気温は0度、この時期にしては、冷え込んでいるが何故か心地良い。知床連山を越えた羅臼の海は、煌々と漁火が灯され、山の輪郭がはっきりとわかる。しかしその灯かりにも負けず東の空にはオリオン座が美しく輝き瞬いている。その上空をまたひとつ流星が駆け抜けた。

森粧う

 ここ1週間、寒暖の差が激しく季節は駆け足で初冬へと移ろいでいる。落葉で少し明るくなった森のなかを雪虫が舞い始め、ミヤマカケスが忙しくドングリの採餌をしている。林床はふかふかの絨毯のように落葉で覆われてきた。

 今季は台風がもたらした塩害で諦めていた知床の紅葉も、局所的ではあるが黒ずんでいたはずの葉が、この数日で息吹をとり戻すように一斉に色付き始めてきた。多様な色彩を纏った空間に誘われ、森へと美しい光を追っている最中も、ひと風ごとに乾いた葉が一枚一枚、音を立て舞い下りてくる。その様子を青空へと真っ直ぐに伸びるカツラの大木の下で見上げていると、V字編隊を組んだオオハクチョウが喉を鳴らしながら知床の山を越え、南西の方角へと消えていった。

 名残惜しく過ぎゆく時に、あと何度出あえるのだろうか。秋に美しい景色に出あう度、そんな想いを募らせていく。それは同時に人生の短さを、教えてくれているように感じられるのです。

共生

 まもなく10月を迎えるが、暖かく穏やかな朝が続いている。先週から日ごとに色づく紅葉も、今週は足踏みしているように感じる。日課のように沢へと向かうと、何時ものようにカワガラスが「ピィ、ピィ」と上流から飛翔しながら出迎えてくれる。水面に映るカラフトマスの魚影は日ごとに減り、瀬や岸に息絶えた魚体の姿が目につくようになった。腐敗した匂いが上流から微風と一緒に流れ、森を包み込んでいく。

 魚止めまで上る途中、沢を覆うほど広がるミズナラの樹冠からドングリが頭に落ちてきた。足を止めてみると、次々と林床に落ちてくる。不作だった昨年と比べると秋の稔りは良さそうだ。

 さらに上流へと足を進め、ヒグマの足跡や食痕、糞を辿っていくと、一本の桂の大木が目の前に現れた。今にも崩落しそうな断崖に、巨岩を包み込むように抱く幹のような太い根、その姿に強く惹かれ立ち尽くす。巨岩が支えられているのか、桂の大木が支えられているのかは分からないが、共に長い年月、この知床の森で多くの物語を見守ってきたことは想像できる。

 今年で何度目の秋を迎えるのだろうか。あと1月もすれば、黄色く紅葉した姿を見せてくれるだろう。

 

生命(いのち)の連鎖

 早くも雪化粧した知床の峰々の上空を次々と巻雲が北西から流されてくる。強い寒気と低気圧の影響で知床は不安定な天候が続き、寒さが一段と増してきた。

 先月下旬から撮影地を移動し、沢を歩きヒグマなどのフィールドサインを追っている。多くの夏鳥は南へと去ったなか、沢沿いの笹薮からコマドリが顔を見せ、張りつめていた緊張感が一瞬やわらいだ。もう今頃は、南へと渡っているだろう。度重なる台風の影響(塩害など)で、紅葉する前に黒ずんだ葉や落葉している木々が目立ち、山麓は冬枯れの景色へと変わっている。沢には足の踏み場もないほどカラフトマスの魚影が濃く、5~6歩進めば踏みつぶしてしまう数が遡上している。この10年でこれだけのマスは初めて見る。しかし2週間経った今ではその数も減り、産卵を済ませ息絶えた魚体が瀬に連なっている。代わりにそれを目当てにオオセグロカモメやセグロカモメが集まり始めるている。同時にカモメを執拗に追うクマタカの姿を多く見かけるようになった。

 厳冬に向け、生き物たちは秋に多くの脂肪(エネルギー)を蓄えなければならない。「食う、食われる」の関係、それは生命の連鎖。カラフトマスはカモメのなかで、カモメはクマタカのなかで生き続けるだろう。ここ数日、大気が温められると決まって冷気と共に峰々を越えて乱層雲が上空を覆い始める。今日もまた冷たい雨が降りはじめた。

 

帰燕

 昨日から強い北風が吹いている。一昨日までの暖気が嘘のように昨晩からぐーんと冷え込み、今朝の知床の気温は8度。今季一番の冷え込みとなった。先週から通っている沢沿いに群生するカツラの紅葉が、一段と黄色く色付いたのがわかる。これから日一日と森の色彩は休むことなく秋色へと変わっていくだろう。 

 薄明から川霧の中を数羽のカワガラスが忙しく行き来している。その下ではカラフトマスの遡上が絶え間なく続き、産卵を終え魚体が傷ついた個体や、力尽き流されていく個体も多く目につくようになってきた。その魚影の動きに反応しながら、樹上からオジロワシがじっと見つめている。薄日が射し、陰に潜めていた輪郭と鋭い眼光が浮き出てきた。

 一昨日まで高く澄んだ空を縦横無尽に飛び交っていたアマツバメの姿は見えなくなった。あと一月もすれば北の空から、V字編隊で喉を鳴らしながら騒がしくオオハクチョウがやってくるだろう。

森へと命をつなぐカラフトマス

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 知床連山の裾野にも秋の訪れを感じるようになってきた。森に入ると山葡萄やイタドリなどの葉が色づき始め、林床には色彩豊かなキノコを目にする。山裾へと森を縫うようにして伸びる支流にも、カラフトマスが遡上し産卵を始めている。その流域にはヒグマやキタキツネ、オジロワシ、シマフクロウなどが姿を見せ、水中ではカワガラスやヤマメ、オショロコマが産卵床から流れた卵を競うように食べている。北の森は厳しい冬に向け、少しずつ緊張感をもった空気が漂いはじめている。

 頭上をアマツバメの親子が風を切り縦横無尽に飛んでいる。もう間もなくすれば、南へと渡っていくだろう。

遠雷

 近年、記憶に無い3つの台風が続けて北海道に上陸し、知床半島も未だに不安定な天候が続いている。しかしこの台風が大雨をもたらせ、増水した川のおかげで人工物を越え、カラフトマスが次々と遡上を始めている。この夏に巣立った幼鳥を連れたオジロワシの親子も、マスを求めて流域に姿を見せるようになった。

 あれだけ賑やかだったキビタキやオオルリの囀りも森から消え、力無いアカエゾゼミの鳴き声が、夏の終わりを告げているようだ。日一日と冬至に向けて、日も短くなり、本日の日没は18:07分。朝晩の風も冷たくなり季節は秋へと移ろい始めている。日没後、発達した積雲から轟音と共に鋭く美しい光が、薄暗くなったオホーツクの海を照らし出した。

ヒグマの森

 北海道の多様な山や森を多く見て歩いたが、知床ほどヒグマに出会えるフィールドはないだろう。この日もエゾイラクサを食べるヒグマに出会った。この夏は山桜の果実が豊富で赤い実が残ったままのヒグマの糞を森でよく見かけた。

 8月中旬に入るとカラフトマスやシロザケを目当てに河川や海岸沿いに下りてくるヒグマを多く見かけるようになるが、ヒグマの栄養源のうち鮭、鱒が占める割合は全栄養源の5%にすぎないといわれている。多くの栄養源は森のなかで植物や昆虫を食べ、ひっそりと生きている。

雪渓の周りはいつも春

 知床半島も気温25度を超える日々が続いている。そんななか知床連山の尾根を目指した。早朝に出発したものの背負っている荷の重量も有り、汗が止まることなく流れ足取りが鈍い。 

 途中、遠方からの沢音に涼を感じ、巨岩の脇で密やかに咲くタカネナデシコに元気をもらい大沢の大雪渓を超え尾根に辿り着いた。雪渓の周りの雪田地帯にはチングルマやエゾコザクラ、エゾノツガザクラ、キバナシャクナゲなど次々と咲き、風に揺られている。多様な色を纏ったお花畑の光景は春のようだ。エゾコザクラは芽吹きから開花までの平均期間は8日間。短い夏を駆け足で咲き誇り、次の命へとつないでいる。

エゾライチョウの森

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 早春、新緑芽吹く知床の森に「ピィーッ・・・・ピッ、ピッ、ピッ、ピッ」かん高い鳴き声が響き渡る。エゾライチョウのものだ。ひと目会いたいと鳴き声を頼りに探し歩くが深い森へとその声は遠ざかり消えていく。その姿を見ることは叶わなかった。

 7月上旬、エゾライチョウの巣立ちの季節。ヒナを連れた親子を探し知床の森を歩いた。小さな沢を幾つか越え針葉樹と広葉樹が混在する鬱蒼とした森で、突然鋭い羽音とともに林床から黒い影が飛び立った。親鳥だ!トドマツの高い枝に止まり上下に頭を動かし警戒している。近くにヒナがいると察し、静かに歩み寄ると小さな影が一つ、二つと次々に羽音をたて飛び立ち一羽がトドマツの低い枝に止まった。小さな体を暗い影に潜め小刻みに小さな囀りで親鳥を呼んでいる。しばらくすると親鳥の囀りに導かれ枝から枝へと沢を越えて深く暗い森へと消えていった。

知床連山の短夜

 夏至を過ぎた知床連山の稜線で夜を待った。ウトロ沖に日が沈み、ウブシノッタの沢筋から生暖かい風と共にトラツグミの囀りが微かに流れてきた。雪渓が残る荒涼とした景色は少しずつ闇に包まれ、やがて満天の星が瞬きはじめると峰々の天上に銀河が架かり流星がかすめていく。昼間は遠方に感じた斜里や標津の町も灯りが煌々と輝き、知床の景色の一部となっている。

 ふと懐かしく思い出した。星空の下、大雪山の稜線を灯りのない闇を探し歩き続けたことを。結局、闇を探し出すことは出来ず、もうそんな土地が無いことを悟り一抹の寂しさを覚えた。

 真夜中を過ぎると東の空に紅い三日月が顔を出し、少しずつ星々は薄明に包まれていく。やがてルリビタキやノゴマの囀りで賑わいはじめ、峰々に朝を告げる。

トラツグミ(鵺ぬえ)の森

 北海道で活動を始めて間もない頃、深い森へとシマフクロウを探すため足を踏みいれた。時間を忘れ探し回っていると昼間でも薄暗い森の奥から「ヒィーヒィー」「ヒョーヒョー」寂しげで不気味な鳴き声が響きわたってきた。しかし鳴き声のする方向をいくら探しても姿を確認できない。

 太陽が沈み森が暗闇に支配されると鳴き声は一層と不気味になり、背後を追ってくるように聞こえてくる。当時、鳴き声の主がわからなかった事もあり恐怖を感じ、森を足早に駆け下り車へ戻った記憶がある。

 その鳴き声の正体はトラツグミ。実は古事記や万葉集をはじめ古来より伝説の怪物「鵺」として日本文学に登場し恐れられてきた。 

 そんなトラツグミと知床の森で出会った。今はその鳴き声も怖くはない。

クマゲラ(チプタ・チカップ)の森

 深緑で映える知床の森でクマゲラに出会った。アイヌの人たちはこの鳥をチプタ・チカップ(舟を掘る鳥)と呼んでいました。その理由は彼等の好物である昆虫(蟻など)を食べるため、松類の枯れ木に丸木舟のような形の食痕が見られるからです。この森にも点在し上下1mほどの大きな食痕も見られます。またヒグマの居場所を教えたり、道案内してくれるカムイ(神)としてアイヌの人たちに崇められていました。

 夏至21日の夕方と翌朝、知床の森で営巣木から3羽のヒナが巣立ち、深い森の奥でドラミングの音が木霊しています。これからヒナたちは親鳥から多くのことを学び、森を自由に飛び交うことでしょう。

 

キタキツネの森

 6月、知床の森はエゾハルゼミの鳴き声で支配されている。陽射しが森を温めると早朝から賑わい始め、動物や鳥を探し歩くのに最も重要な多様な音がかき消される。時折静まる合間を縫ってアオジやキビタキなどの多様な小鳥の囀りが頭上から聞こえてくる。陽光に透過された高い樹冠は深緑であふれ、陽が昇るにつれ空間を染めていく。そんな生命力で漲っている森を幾つもの倒木を越えながら獣道を進んだ。至るところでアカエゾマツなどの倒木更新が見られ青々とした美しい林床に見惚れどこまでも深く入り込んでいく。

 大きなトドマツの倒木の間から微かな視線を感じた。それは母ギツネの帰りを待つ仔狐のものだった。風が吹き樹冠を抜けて一筋の光がその瞳を照らした。サファイアのように透き通った美しい瞳には凛とした野生の力強さが早くも芽生えていた。

知床 羅臼岳南西ルンゼ

 5月上旬、知床の峰々はまだ雪で覆われている。山容は日一日と春の訪れを知らせ、終わりつつある雪景色を名残惜しみながら知床峠へと車を走らせた。峠からスノーシューに履き替え、長い年月強風に耐えたダケカンバの奇形樹の群生地を縫うように羅臼岳の麓まで進む。気がつけば辺りは音のない世界に包まれていた。

 斜度は高度を上げるにつれ増していき、壁のように聳え立つ黒い岩肌に挟まれた雪渓(南西ルンゼ)が現れた。斜度は40度から45度、ここでスノーシューをデポしアイゼンを装着し一歩ずつ慎重に足を運ぶ。高度を増すごとに変わる光景に息を呑み、疲れを忘れ高度を上げていく。、標高1400mを越えた頃だろうか、ハイマツ帯からギンザンマシコの優しい囀りが風と一緒にながれてきた。ピーンと張りつめていた空間が一瞬にして緩んだ。忙しくハイマツ帯を行き来し繁殖の準備をしている。オスの紅く美しい婚姻色にしばらく見惚れ,またピークを目指し雪渓にステップを刻んでいく。

 まだ雪深い知床の尾根で小さな春の訪れを感じた。五月下旬には知床の山麓も新緑に包まれ多様な音で賑わい始めるだろう。

トークイベントのお知らせ

  【NATURE CRAZYS 写真展記念トークイベント】

    「自然写真家という旅」 

       
    増田弓弦×上田大作

          

     日時:5月15日(日)19時~21時

       会場:本屋B&B (下北沢)

     入場料:1500円+1ドリンク500円       定員50名、要予約

      良かったら会場まで遊びに来てください。お待ちしています。
   

      

      

  

 

ミソサザイの沢

 北海道東部の林床の雪解けも一斉に進み、福寿草の黄色い花々が遅い春の訪れを知らせてくれる。そんな4月のある晴れた朝、車を走らせ道東にある沢へと向かった。寒気を纏った北風がビュービューと吹き気温は2度、寒さに慣れているはずの身体も、芯から冷えてくる。目的地に着くと原生林に木霊するアカゲラのドラミングで迎えられた。幅2mほどの沢に入ると、ミソサザイがどこからかやって来た。青々とした苔に覆われた倒木の上に止まり、小さな体を震わせながら繰り返し美しい声で囀っている。その体からは想像できないほどの声量に、どこにこんな体力があるのかいつも不思議に思う。

 囀りに導かれるように沢を上っていくと、時折岩魚の魚影が足元を素早くかすめて行く。この日小さな沢を5本ほど歩いたが、どの沢にもミソサザイの美しい囀りが水流の音にかき消されることなく流れてきた。

 何キロほど歩いたのだろうか。太陽は西へと傾き、水面に映り込む木々の影が伸びていく。上流の水源に辿り着くと、まだ新緑にはほど遠い北の森で、眩いばかりに水面が深緑で輝いている。そこに広がっていたのは梅花藻(バイカモ)の大群生地だった。よく見ると清流に揺られながら小さく白い可憐な花が数輪咲いている。冷たい清流のなかで春が密やかに芽生え始めていた。

 薄暗くなった帰路の途中、沢沿いで一頭の若いヒグマに出会った。一瞬見つめ合ったがすぐに森へと姿を消した。今年初めての出会いだった。これから冬にかけて新たな出会いの予感と一抹の不安を感じながら足早に沢を下り車を北へと走らせた。

ギャラリー Photograph 「原始の森  Forest of primaeval」 を公開しました

「原始の森 Forest of primaeval」 を公開しました。当HPリニューアル後、カテゴリー別に解説文、各写真にキャプションを記載し紹介していますので御覧ください。

写真展のお知らせ

写真展「NATURE CRAZYS」ネイチャー・クレイジーズ-ライフスケープ編集長が推す"常識やぶり"な若き写真家たち

   前編 : 2016年4月15日(金)~2016年4月28日(木)   佐藤岳彦   高久至

   後編 : 2016年5月13日(金)~2016年5月26日(木)   増田弓弦   上田大作

   開館時間 10:00~19:00  最終日は16:00まで

会場:東京都・六本木フジフィルムスクエア  入場料:無料  企画 (株)風景写真出版   協力 富士フィルム株式会社 

トークイベントも予定しておりますので、良かったら会場まで足を運んでみてください。

ホームページをリニューアル公開しました

ホームページをリニューアルしました。Photographを近日中に新規公開予定しております。Movie作品はもうしばらくお待ちください。どうぞ宜しくお願いいたします。

ギャラリーページ Shiretoko National Park を公開しました

夏の東北、晩秋の大雪山と取材を終え、今年、世界遺産10周年を迎えた知床の森へと足を踏み入れた。ヒグマやエゾシカ等の動物たちに出会えたが、10年ほど前に訪れた頃とは環境は一変していた。
 人と動物との「共生」・・・という言葉と、自然に対する謙虚さを失った人間の行為との狭間で、知床の自然のリズムの調和は崩れ始めている。確実に動物達の多くの命が犠牲になっている。人と動物との「共生」、この言葉に内包される混沌と真理を各々が意識し、より良い知床の未来を想像することが調和への一歩だと思っている。近い将来、ここ知床が世界に誇れる世界遺産になることを心から願っている。

 

 

 

ギャラリーページ  Mt.Daisetsu National Park を公開しました

大雪山の初夏から晩秋にかけての短い夏の光景を公開しました。今シーズンはどんな出会いが待っているのでしょうか?みなさま良かったら足を運んで大雪山の息吹を五感で感じてみてください。

ご来場ありがとうございました

「ネイチャー・クレイジーズ」富士フィルムフォトサロン大阪企画展、無事に終了いたしました。会場までお越しいただいた皆様、本当にありがとうございました。また日ごろより応援していただいている皆様、心より感謝申し上げます。

写真展のお知らせ

今年1月に創刊した写真誌「ライフスケープ」(株)風景写真出版  編集長が推す”常識やぶり”の若き写真家たち「ネイチャー・クレイジーズ」富士フィルムフォトサロン大阪 企画展に「風連湖ー氷上に生きる生命」作品10枚を展示します。他3名の作家の作品も展示されますので是非ご覧ください。 企画写真展「生(ライフ)」との併催になります。 日程:3月20日(木)~4月1日(水) 会場:富士フィルムフォトサロン大阪(大阪市中央区本町2-5-7大阪丸紅ビル1F) 富士フィルムフォトサロン

ギャラリーページ Winter~Spring Of Hokkaido を公開しました

流氷に覆われた厳冬からゆっくりと雪解けていく早春まで、凛として生き抜く生命の営みを御覧ください

冬至を越え太陽の軌道が日一日と高くなり、早くも流氷がオホーツク海の水平線に姿を見せています。風が流氷を運び流氷が多様な生命の糧と物語を運んでくれます。その物語は希望を運び多くを勇気づけてくれるでしょう・・・・・・・春はもうそこまでやってきています

TOPページを更新しました

TOPページを更新しました。現在、厳冬期の大雪山取材の準備をしています。新たな出会いと幸運が訪れることを祈りながら・・・・・そしてみなさまにも

ギャラリーページ Autumn~Winter Of Hokkaido 公開しました

秋~冬にかけて北海道の厳冬を生きぬく動物達の姿を公開しましたので御覧ください。

現在、大雪山にて晩秋から初冬にかけての風景と動物達の撮影を続行中です。近年にない素晴らしい紅葉と初雪に巡り合うことができました。あらゆる出会いに感謝しています。

ギャラリートップページを更新しました

ギャラリートップページの写真を3枚更新しましたので御覧ください。また9月には秋~冬の北海道の景色を公開しますのでどうぞ宜しくお願いします。

ホームページ Summer~Autumn Of Hokkaido を公開しました

夏~秋にかけての北海道の動物達の写真を公開しましたので御覧ください。
春より大雪山の稜線から山麓に亘り、風景に花や動物の取材を続けております。近々、公開を考えておりますので宜しくお願いします。

ニッコール年鑑 2013~2014 作品掲載しています   

1952年より毎年発行されておりますニッコール年鑑の2013~2014年度版に招待作品として「シロカモメ」を掲載しておりますのでご覧ください。

田淵行男賞を受賞しました

「風連湖-冬の物語」が、第4回田淵行男賞を受賞しました。選考概要については、田淵行男記念館(公式サイト)での発表をご覧ください。また入賞作品は当サイトギャラリーページにも掲載予定です。